たゆたう青炎

明樹

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玄関を一歩出た途端、まだ朝の早い時間だというのに、もう陽射しを強く感じた。
僕は、帽子を深く被ると、なるべく日陰を選んで歩き出した。


教えてもらった道順を進んで、十分程で駅に着いた。
券売機の前で、僕が住んでいた家の最寄り駅までの行き方を調べると、驚くことに乗り換えも入れて五駅程しか離れていない。


「意外と近かったんだ…」と呟いて、定期をかざして改札を抜けた。


タイミングよく入って来た電車に乗って、約十日ぶりの家に向かう。一つ二つと駅が近づくにつれて、だんだんと落ち着かなくなってきた。


ーーきっと、いないだろうけど、もしロウがいたら…。


ロウに会える可能性は皆無だろうけど、少しばかり期待してしまっている自分がいる。
僕は、ドキドキと脈打つ胸に手を当てて、流れ行く景色を眺めながら、そっと息を吐いた。


目的の駅に着いて、電車を降り改札を出る。
僕の家の方向に向かって数歩進んだ所で、ふと足を止めた。
少し考えて、身体の向きを反転させる。僕は先に、リツを訪ねることにした。


ーー荷物を持って移動するのは面倒だし疲れる。それに遅く行くと、リツは出掛けてしまってるかもしれない。この時間なら、まだ家にいるだろう。


そんな理由を頭の中で呟きながら、歩道の木の陰の下を歩く。
上からも下からも熱を感じて、ここ最近、家の中に引きこもっていた僕は、もうすでに倒れそうになっていた。
この時間からこんなに暑かったら、昼間なんて、僕はとてもじゃないけど外を歩けない。
リツに会った後は、家で涼んで夕方に帰ろうと決めて、少しだけ歩く速度を早めた。





赤築家の邸には行ったことはないけれど、場所はリツから聞いて知っていた。
緩やかな坂道を登り、荒く息を吐きながら顔を上げると、赤築家の長い塀が見えてきた。塀の手前の道を左に曲がって、門がある場所へ目を向ける。
その瞬間、ドキリとして僕は足を止めた。


「ロウ…?」


数メートル先に、よく知る愛しい背中が見えた。
まさか会えるとは思っていなかったのに、会うことが出来てしまった。しかもこんな所で突然に。元気になった後ろ姿を見て、嬉しい反面、緊張で心臓がドキドキと鳴る。
それになぜか、ロウの横にリツの姿もある。
リツの家の前だから、リツがいてもおかしくはないのだけれど。


二人が並んでいる姿が珍しくて、僕のことで相談でもしてるのかと首を傾げながらも、逸る気持ちを抑えて足を踏み出した。


その時、ロウの鋭い声が聞こえて、僕はピタリと動きを止めた。


「いい加減にしろっ!」


滅多に聞かないロウの怒鳴り声に驚いて、僕は肩を大きく跳ねさせた。


ーーえ…、何…?


何にそんなに怒っているのかと、二人との距離を詰める。普通の会話でも充分に聞こえる所にまで近づくと、二人の身体の間から、二人に対峙するように立つ人の姿が見えた。
その人物を見て更に驚く。
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