たゆたう青炎

明樹

文字の大きさ
79 / 95

6

しおりを挟む
一瞬でカッ!っと頭に血が上った俺は、瞬時に少年に飛びつき、首元に噛み付いた。
赤築も俺に続いて、少年の背中に牙を立てる。
俺は、あまりの怒りで目が眩み、周りの景色が白く濁って見えなくなっていた。だから、気付けなかったのだ。


それは、突然だった。


このまま少年を弱らせて青蓮家に連れ帰り、ルカ様の居場所を聞き出そうと考えていた。その俺の背後から、最も聞きたかった声が聞こえてきた。


「やめろっ!」


透き通るような少しハスキーな声。
その声を聞いた瞬間、俺と赤築がビクッと身体を震わせる。ほぼ同時に少年を離して、弾かれたように振り返った。
振り向いた先に、俺の手の届く位置に、ずっと捜し求めていた、ルカ様がいた。


一瞬ためらった後に、赤築がルカ様に近寄ろうとする。だが、ルカ様の鋭い視線と声に遮られた。


「来ないでっ!…ねぇ、ロウにリツ、何をしてるの?僕の大事な弟に、何をしてたのっ」
「ち、違う…っ、ルカっ」
「ルカ様…ご無事で」


ルカ様が、目の前にいる。俺の前からいなくなって、狂ってしまうかと思う程、求め続けたルカ様が。


少年に近づこうとするルカ様の前に立って、俺は心からルカ様の無事を喜んだ。
このままルカ様と共に、あの小さな家に帰ろうと一人頷く俺を、ルカ様が睨んでくる。


ーーふ…、そんな顔も可愛くて愛おしい。…ああ、そうか。ルカ様は、少年がルキ様だと勘違いしておられるのだな。ちゃんと説明して、この少年の姿をよく見れば、すぐに別人だとわかる筈だ。


そう思っている俺の横をすり抜けて、「手当をする」と少年に手を伸ばすルカ様を慌てて止める。


「は?そんなことをする必要はない。こいつに近づいてはなりません」


そう言うと、俺はトドメを刺す為に再び少年に噛み付こうとした。
咄嗟に俺の身体を押し退けて、ルカ様が少年の上に被さる。危うくルカ様の肩に牙を食い込ます寸前で、俺はピタリと動きを止めた。


「…ルカ様、邪魔をするな」
「ルキ、大丈夫?すぐに手当をしてあげる」
「僕、この二人に殺される…。怖いよ、助けて…っ」
「ルキ…」
「ルカ様っ、ダメですっ!そいつから離れろっ」


少年を庇うルカ様を、俺と赤築が取り囲む。
俺は、どうしても少年から離れようとしないルカ様の脇に頭を入れて、強い力で押した。
少年からルカ様の身体が少しだけ離れた隙に、赤築が少年の顔を、前足で踏みつけた。
それを見たルカ様の身体が、ピクンと揺れた気がした。


「…やめろ。二人とも、僕とルキから離れろ…」
「…!」


静かに震えるルカ様の声が聞こえた瞬間、背中にゾクリと悪寒が走り、その場から飛び退いた。
それは俺だけでなく赤築も同じだったようで、俺と同時に二人から離れる。そして俺と赤築は、地面に尻をつけて、まるで上から強い力で押さえつけられたかのように、頭を下げた。


頭を下げたまま、目だけを動かしてルカ様を見た。
ルカ様の身体の周りを、青い炎が揺らめいて見える。


ーーなんだ?あれは…。


今、自分の身に起こっている異変に首を傾げながら、ブルブルと身体を震わせる。苦しげに声を絞り出す俺と赤築には見向きもせずに、ルカ様が少年に近寄った。


「もう大丈夫だよ」


そう優しく囁いて、少年の背中を撫でると、ルカ様は俺達の前に立って、見下ろしながら言い放った。


「ねぇ…、例えどんな理由があったとしても、僕の大事な弟を傷つけるなんて許さない。今すぐ、僕とルキの前から消えて」
「…違うっ。ルカ様、そいつは…。…っ!やめ…っ」


静かに話すルカ様の後ろで、少年がゆらりと立ち上がり、大きく口を開けてルカ様に飛びかかろうとした。
俺は素早く立ち上がり、咄嗟に少年の首元に牙を食い込ませる。しっかりと咥えると、大きく頭を振って少年を投げ飛ばした。少年の身体が弧を描き、ドシンッと大きな音を立てて地面に落ちた。
そのままピクピクと痙攣して動かなくなる。だが、まだ油断はならない。念には念をと牙を剥いた瞬間、ルカ様の、悲痛な叫び声がした。


「やめてーっっ!」


普段より少し高いルカ様の声が頭の中で響き、脳天から足の裏にかけて、ビリリと電気が走った。キーンと高い音が鼓膜を震わせ、一瞬にして身体の力が抜ける。
俺はグラリと横に倒れながら、ルカ様を見た。
ルカ様は、真っ青な顔をして、珍しく滝のように汗を流していた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...