たゆたう青炎

明樹

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少年が、掴まれていた腕を振りほどいて、俺を見上げて顔をしかめる。


「腕、痛いんだけど。トウヤ様は、黒条家の当主だよ。すごく強くて、皆んなから慕われているんだ。トウヤ様に必要だと言われたら、そのルカっていう人だって、きっとトウヤ様の傍を離れたくなくなるよ」
「ルカ様は、そんな風に思ったりしない」
「ふ~ん…おじさん、もしかしてルカが好きなの?でももう、トウヤ様のモノになってるんじゃないかなぁ」
「…どういうことだ」
「気になる?トウヤ様はね、女の人よりも綺麗な男が好きなんだよ。ルカは綺麗なだけじゃなく、特別な人狼だからなぁ。うん、きっとトウヤ様のモノになってるねっ。ふふん、残念だったね?」


少年の言葉を信じる訳じゃないが、腹の底からドス黒い感情がジワリと湧き上がってくる。


ーー嘘でもそんな話をされるのは、腹が立つ。たとえ冗談でも、俺の大事なルカ様に手を出すなどという話は許されない。


奥歯を噛みしめて拳を震わす俺の隣で、赤築が大きな声を出した。


「ルカに手を出しやがったら、そのトウヤとかいう奴…絶対に許さねぇ!」
「あれ?あんたもルカが好きなの?へぇ!ルカってモテるんだぁ。僕もトウヤ様に言って、ルカに会わせてもらお」


そう言いながら、少年が、ゆっくりと後ろに下がって門を潜る。
少年の後を追うように、赤築も門の外に出た。
俺も門を出て、赤築の隣に立つと、少年を睨みつけた。


「おい、このまま帰れると思うなよ。絶対にルカ様の居場所を聞き出す」
「もう、しつこいなぁ。いい加減ムカムカしてきた。むぅっ。あ、そうだっ、トウヤ様の見ていない隙に、ルカを傷つけちゃおうかな。ルカの怯える顔を見たら、スッキリするだろうなぁ。ふんっ、あんた達のせいだからね」


そもそも俺は、最初から少年の態度に腹が立っていたが、ルカ様の居場所を聞き出す為にと我慢していた。
だけど、もう限界だ。
俺は、腹の底に溜まったドス黒いモノを吐き出すように、大きな声で叫んだ。


「いい加減にしろっ!」


それは、自分でも驚く程の大きな声だった。


「おまえっ、どういうつもりだ?ふざけたことを言うと、容赦はしない」
「そうだっ!何が目的か知らないけど、俺達を舐めるなよっ」


俺と赤築の怒鳴り声を聞いて、さっきまで憎々しげな顔で、あんなに俺達をバカにしていた少年が、急に泣きそうな顔に変わって見上げてきた。でも表情とはまるで裏腹の、小さく呟いた言葉に、遂に俺の我慢の糸が切れる。


「…ちっ、あんたらマジムカつく。ぜってー帰ったらルカを殺してやる。綺麗な顔を切り刻んで、その写メをあんたらに送ってやるよ…」


そう言うや否や、少年の輪郭が揺らいでぼやけ出した。
狼に変身する少年を睨みつけながら、俺と赤築も狼に姿を変える。


ルカ様を連れて行った人狼と同じ、黒い狼の姿に変身した少年が、今にも飛びかかりそうな勢いで、姿勢を低く身構えた。
少年を見下ろしながら、「覚悟しろ…」と唸った俺に対して、少年が微かに口角を上げて声を潜める。


「ふふんっ。ルカは可哀想だよなぁ。トウヤ様に好き勝手ヤられて、弟に似た僕に殺されるんだ。綺麗な顔が苦痛に歪むのって、堪らないよねっ。メチャクチャ苦しめてやろぉっと。そしたら、このムカついた気持ちもスッキリするよね!」
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