たゆたう青炎

明樹

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「…なあ、先生、あれは…なんだったんだ?ルカが叫んだら、身体が動かなくなった。身体中が痺れて、力が入らなくなった。…もしかして、ルカが…」
「みたいだな。信じ難いが…。あのガキが、ルカ様は唯一無二と言っていたのは、こういう事なのだろう。だから黒条の一族は、ルカ様が欲しいのかもしれない」
「ルカ…、きっと弟が襲われてると思って、助ける為に必死だったんだ…。先生、俺、気付いたんだけどさ…」
「ああ、俺も同じ事を考えていた。これは、仕組まれたんだ。ルカ様の能力を目覚めさせる為に。あの黒条の人狼に」
「あいつら、ルカを連れて行って、何をするんだろう…」
「わからない。だが、次に俺がルカ様と会う時は、敵同士だと言っていた。あのトウヤとか言う男、ルカ様を利用して、何かをしようとしている…」
「はぁっ?」


間抜けな顔で叫んで、赤築が俺の肩を強く掴む。


「自分らの為にルカを連れ去ったって言うのかよっ?くっそぉ!あいつらマジで許さねぇ!ルカの優しい心を利用したことも、無理矢理ルカの能力を目覚めさせたこともっ」


俺は顔をしかめて、俺の肩を掴む赤築の腕を掴んで離させる。
「いてぇ!」とまた涙目になって、腕をさすりながら、赤築が俺を睨んだ。


「おまえ、勝手に突っ走るなよ。今度こそ、確実にルカ様を取り戻す。もう失敗は許されない。冷静にどうするかを考えるんだ」
「…わかってる」


赤築が不満げに口を尖らせて、ボソリと呟いた。


窓辺に立って、風に揺れる森の中の木々を眺める。何気なく窓を開けると、生温い風が吹き込んできて、俺の髪をサワリと揺らした。


「んぅ…、兄…さ…」


背後から小さく声が聞こえて振り返る。エアコンで快適に冷やされた部屋の中に、温い温度の空気が流れたからか、ルキ様がソファーの上で寝返りを打っていた。


俺は、静かに窓を閉めて、ルキ様を見た。





ルカ様を見つけたのに再び連れ去られてしまったあの日、青蓮の邸に戻るとすぐに、ルキ様が俺の部屋に来た。
何か言いたげにチラチラと俺を見ながら、ソファーに腰掛ける。
俺は、ルキ様の前に冷たい麦茶のグラスを置いて、向かい側に座った。


「どうされたのですか?何かあるのなら、遠慮なく仰って下さい」


ルキ様は、俯いたままグラスを手に取って、半分までゴクゴクと麦茶を飲んだ。ふうっと息を吐くと、顔を上げて話し出した。


「僕、ロウに話したいことがあって…ほんとは昨夜に話そうと思ってたのに、父さんと母さんが寝るのを待ってたら、僕が先に寝ちゃったんだ…」
「そうですか。別に大丈夫ですよ。それで話とは?」
「あのね、昨日、僕とロウとリツさんとで、兄さんを捜しに出掛けたでしょ?それで、暑いからって僕だけ先に帰ったじゃない?ロウに門の前まで送ってもらって、また出掛けるロウを見送ってから門の中に入ろうとしたら、いきなり声をかけられたんだ」
「…誰に?」
「僕くらいの年の男の子。初めて見る子だったよ。『ここ、君の家?大きいねぇ』って言われた」
「それで?」
「うん…。それで僕が『君は誰?どこの家の人狼?』って聞いたら、『俺はコウタ。黒条の人狼だよ』って言ったんだ。ロウは黒条って知ってる?」


言い終わると同時に残りの麦茶を飲み干して、グラスをテーブルの上に置いたルキ様の手を見つめる。


ーー黒条…。やはり今日のことは、仕組まれたことだったのだ。


「ロウ?」


呼ばれてハッと顔を上げる。不安そうに俺を見るルキ様に微笑んで、「それからその子はどうしました?」と尋ねた。


「僕が『黒条?ごめん、聞いたことないよ』って言うと、『いいよ。これから有名になるから覚えててね』って笑って、いきなり…その…僕、に、…チュー、してきた…」
「は?なんだソイツ」
「僕、ビックリして慌てて身体を押したんだけど、口の中に変な液体が入ってきて飲んじゃった…。そしたら急に眠くなって、倒れたんだ…。その子は、倒れた僕の上に乗っかって、なんでか僕の顔をしつこく触ってた。触られてるうちに眠っちゃって、気がついたらいなくなってた」
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