たゆたう青炎

明樹

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ルキ様の話を聞いて、「ああ…それで」と声を漏らす。


「ロウ?どうしたの?」


膝の上で両手を握りしめて、上目遣いで俺を見るルキ様に、笑顔を向ける。


「ルキ様、よく話して下さいました。その黒条の少年は、たぶんルキ様に変装する為に近付いたのです。今日、俺と赤築は、ルキ様にそっくりな少年と会いました。とても驚いたけど、そういうことだったのですね」
「えっ!僕にそっくりのっ?それって、あの子なの?あの子…そんなすごい事、出来るんだ…。でもなんで僕なんかに変装をしたんだろ?」
「…実は今日、その少年だけでなく、ルカ様にも会いました…」
「ええっ!兄さんに会ったのっ?兄さんっ、帰って来てるのっ?」


ルキ様が勢いよくソファーから立ち上がり、テーブルに両手をついて、こちらに身を乗り出した。その際にテーブルが揺れて、ガタリと空のグラスが倒れる。コロコロと転がるグラスを俺は手に取って、自分の前に置いてルキ様を見た。


「いえ、すいません…。また俺の目の前で、黒条の人狼に連れて行かれてしまいました…」
「黒条って…?昨日僕が会った男の子が言ってた一族?」
「そうです。この前も今回も、ルカ様を連れて行ったのは、黒条家です。彼らは、どうやらルカ様が必要らしい」
「必要…?」


小さく首を傾けて、ルキ様が、再びソファーに腰掛ける。


「そもそも、俺と赤築が何も出来ずに、ルカ様を連れて行かれてしまったのは、また身体が動かせなかったからです。今度は薬ではありません。急に、俺と赤築の身体から力が抜けて、立ち上がることも出来なくなったのです」
「どうして?何があったの?」
「たぶん…ルカ様の能力です。俺は常々、ルカ様が変身出来ないのは、特別な存在だからだと思っていました。どうやらその勘が当たったみたいだ…。ルカ様は、我々普通の人狼には無い、特別な力があるのです。ルキ様に変装した少年と、俺と赤築が戦っている場面を見て、ルカ様は、ルキ様が襲われていると勘違いされた。そして傷ついた少年を見て、激しい怒りで、今まで眠っていた能力を目覚めさせた。それによって、俺と赤築は動きを封じられたのです」


ルキ様が、また身を乗り出して聞いてくる。


「どういうことっ?力って…っ」
「ルカ様は、人狼を動けなくする…。いや、もっと厳密に言うと、我々人狼は、否が応でもルカ様が発した命令には、従わないといけなくなる」
「え?それって…」
「はい。ルカ様は、全ての人狼を、自分の命令一つで操ることができる力があるのですよ。…まるで神みたいだ」
「すごい…っ」


背筋をピンと伸ばして立ち上がり、ルキ様が大きな声を出した。


「すごい!兄さんって、やっぱりすごいっ。全然出来損ないなんかじゃないよっ。優しくて綺麗で、その上強いなんて…っ!…父さんや母さん、青蓮家の皆んなはバカだよ。ほんとは大事にしなきゃならない兄さんに冷たくして…。ロウ!早く兄さんを助けなきゃ。その黒条とかいう一族に利用される前にっ」
「はい。まずは黒条の根城を探さないといけません。そこを見つけてから、ルカ様を取り返しに行きます」
「うんっ。僕も手伝う」


俺はソファーから立ち上がり、ルキ様の傍に行って、ルキ様の肩に手を置いた。
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