たゆたう青炎

明樹

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再び黒いマントを身にまとい、僕は、トウヤさんとダン、数人の黒条の人狼に囲まれて、会合が行われる赤築のホテルに入った。
今度は操るまでもなく、一人の男が僕達の前に立って、無言で部屋へと案内をした。きっと、抵抗したところで無駄だとわかってるからだろう。


最上階でエレベーターを降りて、真っすぐ前に突き進む。突き当たりにある大きな扉はすでに開かれていて、部屋の中央にある二つのソファーには、黄麻ハルトによく似た顔立ちの男と、僕の父さんが座っていた。
それぞれのソファーの後ろには、両家の人狼数人が立ち並んでいる。その中に、強く僕に視線を向けるロウの姿があった。


僕は、その強いけれども優しいロウの青い瞳と目が合って、身体が震えて泣きそうになる。小さく息を吐いて唇を噛み締めると、慌てて顔を下に向けた。


ーーロウ…。あんなことをした僕なのに、まだ僕を想ってくれているの…?ありがとう。もう僕は、間違えないよ。



マントに隠れた両拳を強く握って、僕はその時を待つ。


トウヤさんが、一歩前に出て、丁重に話し出した。


「はじめまして、黄麻の当主と青蓮の当主。俺は、黒条トウヤと言います。これからは、あなた方は黒条の下につくのですから、よく覚えておいて下さい」
「黒条?そんな一族の名前など聞いたことがない。だがな、昼間にふざけたことをしてくれたらしい話は聞いたぞ。あの強い二人に何をした?黄麻はそうはいかんぞ」
「ああ…、少し実験してみたのですよ。上手く行くのかどうか。まあ大成功でしたが。青蓮の当主、あなたのご子息は、とても素晴らしい。この世に生み出してくれたことを感謝します」


トウヤさんの言葉に、僕の肩がビクリと揺れる。きっと今から吐き出される父さんの言葉に、僕は胸を抉られるのだ。慣れた、どうでもいい、と思い続けてきたけど、やっぱり、はっきりと言われるのは怖い。
更にフードを深く被った僕の耳に、父さんの低い声が響く。


「…君に感謝される謂れはない。ルカは、俺とリリカの大切な宝だ。生まれてきてくれたことを、どれだけ神に感謝したか…。ルカが変身出来ないとわかった時に、何か理由があるのかと、ありとあらゆる手段で調べ、五百年前の黒条の人狼のことを知った。リリカは、ルカに特別な力があることを知らずに逝ってしまったが、俺は、ルカが五百年前のそいつと同じ力があると知った。だが、その人狼と同じ道を辿らせたくなかった。今や、黒条家はどこにいるかもわからない存在だ。それに他家の者は、五百年前の話など、露ほども知らない。ならルカは、人狼界とは関係のない世界で自由に生かそうと、人狼界とも青蓮家とも縁を切らそうと邸から出したのだ」


初めて聞く父さんの思いに、僕の胸が潰されそうに苦しくなる。
僕は勢いよく顔を上げて父さんを見た。だけど久しぶりに見る父さんの顔は、視界がぼやけてよく見えなかった。


「ルカ、おまえはリリカに似て心優しいから、俺を恨まずに傷付くばかりだった。おまえの悲しい顔を見る度に苦しくなったが、青蓮にいては、もっと苦しむことになるかもしれない。青蓮を、俺を憎んでくれればいい…。そう思って冷たくしてきたが、それは俺の勝手な押し付けだったと、こんな状況になって初めてわかった。…ルカ、今まですまなかった。今更言ったところで、おまえには信じられないだろうが、…ルカ、俺は、おまえを愛してるよ…」
「父さ…ん…」


父さんの輪郭が益々ぼやけて、僕の顎を伝って涙がポトポトと流れ落ちる。


ーーああ、もう満足だ。なんて僕は幸せなんだ。僕は、嫌われてなんてなかった。ちゃんと愛されていたんだ。この事実が、僕に大きな勇気をくれる。


僕は、両手で顔を覆って涙を流す。しばらくして顔を上げると、ゆっくりと足を踏み出してトウヤさんの前に出た。
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