銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 リアムに肩を揺すられて、僕の意識が戻る。

「フィー!しっかりしろっ」
「…あっ、だい…じょうぶ…だよ。もう痛くないから…」
「しかしこの模様は」
「…わからない。僕、何かの病気なのかな?」
「いや…」

 リアムの長い指が、僕の左胸に浮かんだ模様に触れる。蔦の模様に沿うように指が動き、くすぐったいようななんとも言えない感触に、僕は肩を揺らした。

「フィー…すまない」
「どうしてリアムが謝るの?」

 僕は左腕の模様をなぞっていた手を掴むと、リアムを見上げた。
 リアムは片手で器用に僕の肩に布をかけて、しっかりと抱きしめた。

「もしかすると、これは呪詛かもしれない」
「呪詛…?」

 僕の心臓が跳ねた。
 そう、確かにこれは呪いの印だ。僕が真の呪われた子だということに気づいた?
 リアムの次の言葉を聞くのが怖い。

「そうだ。俺が妻となる人物を連れ帰ったことがすでに知れて、兄側につく者が何かしたのかも…。しかし…」
「なに?」
「我が国に呪詛をかけられる者はいないはずなんだ」
「じゃあ違うよ。これは…やっぱり病気なのかも」
「なっ…バカなことを言うな。フィー、呪詛にしろ病気にしろ、俺が必ず治してやる!」
「うん…ありがとう」

 僕はリアムの胸に顔を埋めて頷いた。
 ありがとう、リアム。でもこれは治せないよ。たぶん僕が死なない限り…消えない呪いだ。


 新しいシャツとズボンに着替えて部屋に戻ると、ゼノに連れられた使用人が部屋を出て行くところだった。
 机の上にはスープとパンと果物が並べられている。
 刺すような胸の痛みの心配はなくなった。だけど僕の気持ちはずっと沈んだままで、頭の中では、なぜ今になって呪われた子の証である模様が現れたのかと疑問が渦巻いていた。
 リアムに促されて椅子に座る。目の前のスープのいい匂いを嗅いで、少しだけ気持ちが上向く。
 スープの中にはたくさんの野菜と肉が入っていて、それだけでお腹が満たされた。
 リアムにもっと食べろとちぎったパンを口に入れられたけど、胸が苦しくてそれ以上は食べられなかった。
 今はシャツに隠れて見えないけど、リアムはこんな禍々しくも見える痣が現れた僕をどう思ってるんだろう。リアムが気持ち悪いと思うなら、僕はすぐに離れなければならない。

 食事が終わると「明日また参ります」とゼノが出て行き、リアムと二人だけになった。
 僕は机の上で組んだ自分の手を見つめて、恐る恐る口を開く。

「あの…ね、さっきの変な痣、見たでしょう?リアムが気持ち悪いと思うなら…僕、すぐに出て行くから…」
「バカめ。俺がそんなことを思うと?おまえへの気持ちは変わらない。変わらず妻にする」

 僕は勢いよく顔を上げてリアムを見る。
 リアムが少し怒った顔をしている。

「だけどっ…リアムにも移ってしまうかもしれないっ。この痣が全身に広がるかもしれないっ!そうなったらもう…っ、僕は化け物じゃないかっ」
「フィー」
「……っ」

 リアムが低い声を出す。怒っているんだ。
 僕は唇を噛んで俯くと、ポタポタと涙を落とした。

「なあ、俺はおまえの外見だけを好きになったわけじゃないぞ。おまえの性格も含めて好きなんだ。そんな痣ができたからと言って嫌になるものか。むしろ俺は、その痣すら美しいと思ってるんだが…」
「どうして…こんなに禍々しいのに…」
「そうか?おまえの白い肌に黒い模様が広がっていく様に、俺はゾクゾクした。…あれ?俺って変態なのか…?」
「変態…だよ…」

 本当に優しいリアム。大好き。この痣がもっと広がる前に、おぞましい姿になる前に、僕はリアムと繋がりたいと願う。
 リアムが立ち上がり、僕を背中から抱きしめた。リアムの体温に安堵して、ようやく涙が止まった。
 しかしその夜、僕は高熱を出した。突然現れたこの痣のせいだと思う。
 一晩中息が苦しくて何度も目を覚ました。その度にリアムが僕の汗を拭いて、水を飲ませてくれた。
 朝になっても熱は下がらず、一日中意識が朦朧としていた。
 そして二日目の朝になって、ようやく熱が下がった。でもまだ頭が痛くて辛い。
 つきっきりで看病をしてくれたらしいリアムが、まだ寝てろと薬を飲ませてくれた。そんなリアムの方がひどい顔をしている。

「リアム…寝てないんでしょ?リアムも一緒に寝よ…」
「俺は数日寝なくても平気だ。それよりもおまえだ。まだ顔色が悪いぞ。昼から父に会う予定だったが、先に延ばすか?」
「ううん…大丈夫…。薬も飲んだし、すぐに治るよ」
「いろいろあったからな。疲れてるのかも」
「うん…」

 リアムが僕を抱き寄せてキスをする。
 僕も強く唇を押しつけていると、外から慌ただしい足音が聞こえてきた。

 
 
 

 
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