銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 整備された緩やかな坂道をかけ登っていくと、遠く向こうに月明かりに照らされた黒い穴が見えた。まるで大きな魔物が口を開けて待ち構えているようで気味が悪い。
 俺は馬を止めて辺りの様子をうかがう。

「やはりな。ゼノとジルどころか警備の兵すらいない」
「そのようですね。村長はなぜすぐにバレる嘘をついたのでしょうか」

 俺の隣に止まったユフィが腰の剣に触れながら首をひねる。
 テラも隣に来て俺の顔を見た。

「リアム様、ゼノさんとジルさんの名前を呼んでみますか?」

 テラの問いに、俺は首を横に振った。

「いや、これは罠だろう。俺達を狙う者が、どこかに隠れているかもしれない。物音を立てずにあの穴に近づいてみよう。俺とユフィが中に入る。テラ、おまえは入口を見張っていてくれ」
「えっ!俺も行きますよっ」
「ダメだ。夜が明けて一刻経っても俺達が戻って来なければ、急ぎ伯父上の城へ戻って王都へ救援を頼む使いを出してもらえ。いいか」
「でもっ」
「テラ、これは重要な役目だ。もし俺の身に何かがあり伯父上のおさめる領地が何者かに奪われれば国内は荒れる。そこを狙って他国も攻めてくる。国の存亡がかかっているのだ。だから頼むぞ」
「…承知しました」

 納得していない様子だが、テラが渋々頷いた。
 俺はテラの肩を軽く叩いて馬を降りる。ユフィとテラも降りて、穴の入り口からは見えない位置の木に手綱をくくりつけた。
 枯れ枝を踏まないようにゆっくりと進み、穴の入口まで来た。
 俺とユフィは、テラに頷いて穴へと足を踏み入れる。
 テラも頷き返すと、入口横の低木の茂みに身を潜めた。
 剣の音がしないよう、柄を手で押さえながらゆっくりと進む。月明かりが届かない奥まで入ると真っ暗で何も見えない。ユフィに振り向き微かに頷くと、ユフィが魔法で手のひらに小さな炎を出した。
 人の手で歪に削られた石壁を見ながら奥へと進む。穴の奥に何者かが潜んでいるのかと思ったが、人の気配がしない。

「ここには誰もいないのでしょうか…。ではゼノさんとジルさんはどこへ」
「ゼノは賢い。捕まったりしない。きっと盗難騒ぎの原因を突き止めて、村のどこかにいるはずだ」

 俺とユフィは、聞こえるか聞こえないかの囁き声で会話をする。
 ゼノとジルがここにいると村長が話したのは、俺達をこの穴へ誘い込むための嘘だ。でもなぜここに誘い込んだ?てっきり襲われるのかと警戒したのに、魔物どころか人もいない。村長は、俺達を襲うつもりではなく助けたのか?この穴に避難させる形で。

「わからない…ここに何があるというのか」
「リアム様」

 ユフィが口に人差し指をあてて目を閉じる。
 俺も口を閉じて耳をすませた。するとどこからか微かに人の声のようなものが聞こえてきた。

「どこからだ?」
「…もっと奥からのようです。行ってみましょう」
「ああ。ユフィ、気をつけろよ」
「はい、リアム様も。申しわけありませんが、背後に注意してください」
「おう」

 ユフィの足跡を踏むようにしてついていく。
 入口からの月明かりが届かなくなるまで奥に進んだとろこで、横穴を見つけた。その奥から人の声が聞こえてきた。
 
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