銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 しかしフィーは最近城に戻ったばかりだ。あずかり知らぬことだろう。フィーだけでなく、ラズールやトラビスなど、王城にいる者は関わっていない可能性がある。
 この村と国境を挟んで隣接する土地の領主が、独断でしたことかもしれない。
 俺は軍服の上着の内ポケットに入れていた小さな袋を取り出すと、中身をゼノとジルの手のひらに乗せた。

「それを飲め。万能の毒消しだ。ただイヴァルの者が扱う毒に効くかどうかはわからんが…」
「ありがとうございます…」
「恐れ入ります…」

 ゼノとジルが小さく頭を下げると、木の実のような赤い粒を口に入れて飲み込んだ。
 ユフィが二人に順番に容器を渡して水を飲ませているのを横目に、俺は地面に座ったり横たわっている兵達を見る。
 王都からの青い軍服の者が五人、伯父上の城からの黒い軍服の兵も五人、ゼノとジルも入れて十二人いる。全員剣の腕も立ち魔法も使える。毒に対する耐性もあるはずだ。なのにこうも簡単に動けなくされてしまうとは……。相手は一体何者だ?
 俺は王城で見かけたことのある兵に近寄り、彼の前にしゃがんだ。

「おまえ、軍隊長の直属の部下の…イルバだよな?」
「…はっ、お久しぶりでございます…。このような情けない姿をお見せしてしまい…誠に申しわけございませんっ…」
「いい。おまえほどの猛者でもやられるのかと驚いただけだ。だがさすがだな。他の者よりは毒の効きが弱そうだ。動けるか?」
「はいっ、リアム様のご命令とあらば、動けなくとも動きます!」
「動けないのにどうやって動くんだよ。あと一粒残っているからこれを飲め。少しでも多くの動ける者が必要だ」
「…ありがとうございます」

 イルバにも赤い粒を渡す。
 イルバはすぐに口に含んで飲み込むと、いきなり立ち上がった。

「おおっ、なんと素晴らしい薬だ!視界がグルグルと回って吐き気を催していたのに、もう治りましたっ」
「そんなわけあるかっ。その薬に即効性はないんだぞ。ほら見ろ、ゼノもジルもまだ苦しそうにしてい……ああ?なんだおまえら…」

 振り向いた先で、ゼノとジルが腕を伸ばしたり腰をひねったりしている。真っ青だった顔色も元に戻っている。
 うそだろ…。万能の毒消しとはいえ、効くのに四半刻はかかるぞ。こいつらの身体はどうなっているんだ?この薬はそんなに効くのか?それならばフィーに持たせてやればよかった。使者としてフィーに会いに行った時に、渡せばよかった。母も姉もいなくなってフィーが消される心配は無くなったが、本当にそうだろうか。俺もそうだが、王族は常に誰かに狙われる存在なのだ。フィーは毒には慣れていると話していたが、そんなものに慣れてほしくない。俺はフィーに痛みや苦しみを感じてほしくないんだ。
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