銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 僕が首を振り続けていると、いきなりラズールが叫んだ。

「近づくなっ」
「…は?おまえ…その声…」
「待って…!僕らはっ」

 ラズールの手から口をずらせて僕も叫ぶ。
 次の瞬間、ラズールが僕を肩に担いでこの場から逃げ出した。
 担がれた拍子にフードが取れて、銀髪がラズールの背中に流れる。僕は目線を上げて前を見た。リアムの隣にいる騎士が、こちらに光を向けている。きっとリアムに銀髪が見られた。僕だと気づいた。僕がここにいることを、どう思うだろう。どうか誤解しないでほしい。イヴァル帝国の民は、盗難の犯人じゃない。

「おまえ達はここにいろっ」

 リアムが叫んでゼノと追いかけてくる。
 ラズールは横穴を抜けると、入口ではなく奥へと走った。
 横穴を出て一旦足を止めたリアムが、左右を見て僕達の姿を確認する。そして尚も追いかけてくる。
 この先は行き止まりだ。だけど外へと繋がる小さな抜け穴がある。ラズールはそこから外へ出るつもりなのだろう。
 僕は…逃げたくない。ここにいることをリアム知られたくなかったけど、知られてしまった。それならば全てを話してイヴァル帝国は関係ないとわかってほしい。
 僕は顔を上げると、ラズールに止まってと言おうと口を開きかけた。その瞬間、前方の天井が崩れ落ちて、リアムの上に落ちた。恐ろしい音とともに土煙があがる。
 突然のことで、僕は声を上げることも動くこともできなかった。でもそれは、ほんの一瞬の間だ。「リアム様!」と叫ぶ声に我に返り、立ち止まって崩れた瓦礫を見ているラズールに「下ろしてっ」と頼んだ。

「…ダメです」
「下ろせっ!命令だっ!早く…っ」
「ダメだっ」

 ラズールが頑として下ろしてくれない。
 僕はラズールの背中を必死に叩いて暴れた。ラズールの手が緩んだすきに下りて、リアムのところへ走り出す。向こう側から数人のバイロン国の騎士も走ってくる。でもそんなことは気にしてられない。リアムの無事を確かめたい。もし怪我をしてるなら僕が治癒の魔法をかける。そして考えたくないことだけど、命が危ういようなら、姉上にしようとしたことをリアムに…僕の命をリアムに…。

「行かせないっ」
「あっ!」

 僕の身体が宙に浮いた。
 ラズールが僕の身体を抱き上げて、奥に向かって走っていく。

「待ってっ!離せよっ、リア…」
「静かにっ…」

 大きな手が僕の口を塞ぐ。
 僕はラズールの指を思いっきり噛んだ。かすかにうめく声がしたけど、口から手が離れない。
 リアムを置いて逃げるなんて嫌だ。早く助けなきゃいけないのに…。バイロン国の騎士が、ゼノがいるけど、僕にできることもあるかもしれないのに。
 僕は涙を流した。何もできない自分が情けない。ラズールに抗う力がないことも情けない。そしてラズールが僕を連れて逃げる理由がわかるだけに、自分の立場を恨んで泣いた。
 
 
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