銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 抜け穴から外に出て、茂みに隠していた荷物を持って、村長の家に戻った。
 ラズールは国境に向かおうとしていたけど、僕が帰りたくないとワガママを言った。村長の家に戻ってと懇願した。きっと怪我をしたリアムが治療のために村長の家に運ばれてくる。リアムの無事を確認してからでないと、国には戻れない。僕は面を外し、涙を流して訴えた。
 同じく面を取ったラズールが、険しい顔をして無言で僕を見つめた。そして長く息を吐き出した後に「わかりました」と渋々頷いてくれた。


 やっと出ていったと安堵していたであろう村長は、僕とラズールを見て疲れた表情をした。でも泣きじゃくる僕に優しく声をかけてくれた。
 泣いてうまく喋れない僕の代わりに、ラズールが事情を説明してくれる。

「もうすぐここに、バイロン国の騎士が運ばれてくる。たぶんひどい怪我をしている。この村は薬草を栽培しているはずだ。よい薬もあるだろう。どうか怪我をした騎士を助けてやってほしい。彼が無事だと確認できるまで、俺達をここにいさせてほしい。無事が確認できたら今度こそ出ていく。二度と戻ってこない。よろしく頼む」

 ラズールが一気に話すと、村長は驚きながらも頷いてくれた。そして家の端にある小さな部屋に案内してくれて、窓際にあるベッドで休むようにと僕を座らせ頭を撫でた。

「何があったかは聞かないが、とりあえず休みなさい。あとで温かいスープを持ってこよう」
「…ありがとう」

 僕は消え入りそうな声で礼を言う。
 村長は僕の手を握って「冷たい手だ。湯も持ってこよう」と優しく微笑んだ。
 村長が出ていった扉を眺めて思う。父上がいたらあんな感じなのかな。父上がいなかったからわからないけど。

「俺に…怒ってますか」

 ラズールが僕のマントを脱がせながら、静かに聞く。
 僕は冷たい自分の指先を見つめて、小さく首を振る。

「…ううん、ラズールのしたことが正しい。あの場に留まっていたら、僕とラズールは捕まっていた…と思う」
「はい。隣国の王子が怪我をして、バイロン国の騎士は混乱している。そんな時に第二王子とフィル様の関係を説明しても、誰も信じないでしょう。捕まるならまだしも、斬られていたかもしれません」
「そうだね…」
「第二王子の側近がいましたが、彼が止めても無理だったでしょう」
「うん…」
「……きっと、第二王子は大丈夫ですよ」
「うん…」

 ラズールが隣に座り、そっと僕の頭を抱き寄せる。
 僕は硬い胸に顔を押しつけて、濃い青の軍服にシミがつくまで涙を流した。
 

 村長が持ってきてくれた湯で顔を洗い、温かいスープを飲んでいると「来た」とラズールが立ち上がった。
 僕も慌てて立ち上がり扉へ走りよる。しかし取手を掴んだ手の上に大きな手が重ねられて、扉を開けることができない。

「なに?」
「出ていってはダメです。村長が様子を伝えに来るまで、大人しく待っていてください」
「でもっ…」
「怪我をしている第二王子の横で、バイロン国の騎士とやり合いますか?」
「しない…」
「では待つしかありません。待つ間、フィル様も休んでいてください」
「わかった…」

 僕は椅子に座り直してスープを飲もうとした。だけど胸がいっぱいで飲むことができない。スプーンを置いて小さくため息をつくと、机に顔を伏せた。

 
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