銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 しばらく家の中が騒がしかった。何かを持ってこいと叫ぶ声や、廊下を急いで移動する足音が聞こえる。
 心配でたまらなくて、とても休んでなんていられない。僕は横になっていた身体を起こすと、ベッドから降りて扉の前に立った。扉に手のひらと額をつけて目を閉じる。

「フィル様、どうかこちらへ」
「いい…ここで村長が来るのを待ってる…」

 ここに戻ってきた時には暗かった外が明るくなっている。窓から道を行き交う人々の姿も見える。リアムが怪我をしてからどれくらいの時間が経ったのだろう。湯とスープで温かくなっていた指先が、すっかり冷えてしまった。鼻の頭も足先も氷のようだ。きっと身体も冷えている。だけどリアムのことが心配で、寒さを感じない。
 
「リアム…」
「フィル様、下がって。村長が来たようです」

 祈るように愛しい人の名を呟く僕の肩を、ラズールが掴んで扉から遠ざける。
 ラズールが言った通り、すぐに外から村長の声がした。

「よろしいかな」と言う言葉が終わるよりも早く、僕は扉を開けた。

「彼の容態は…っ」

 村長は素早く中に入り、部屋の中央の椅子に座るように僕の背中を押した。

「腕の骨が折れて頭を打っているようだが大丈夫みたいじゃ。今は薬が効いてよく眠っている」
「そ、うですか…。よかった…」

 緊張の糸が切れて、僕は脱力して椅子にストンと腰を落とした。
 村長が、僕を見て不思議そうに首を傾ける。

「そんなにも心配するなんて、君は彼と知り合いなのかな?」

 僕はラズールの顔をチラリと見る。
 険しい顔をしていないし特に何も言わないということは、話しても大丈夫なのかな。

「はい…。少しだけ一緒に旅をしたことがあって。大切な人…なんです」
「そうか」

 村長は深くは聞かずに、目を細めて頷いていた。それに僕とラズールが顔をさらしても、僕の銀髪を見ても、特に問い詰めてもこなかった。聡明な村長には、心から感謝している。
 ずっと黙っていたラズールが「もういいでしょう」と口を開く。

「彼の無事も確認できました。これ以上は延ばせません。今すぐここを出ますよ。村長、数々の無礼をお許しください。ご尽力いただき、感謝します」
「本当に胃が痛いことだったぞ。どこへ帰られるかわからんが、気をつけてな」
「…ありがとうございます。村長もお元気で。あの子にも楽しかったと伝えてください」

 僕は立ち上がると、村長に向かって頭を下げた。王が頭を下げるなど、あとでラズールに怒られそうだけど、心から感謝すると自然に頭が下がってしまうものだ。
 僕とラズールは、すぐに家を出た。
 そして皆と合流するために、国境へと急いだ。



 
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