銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 ゼノが「そうですね」と微笑む。

「しかしここは今やイヴァル帝国にとっては敵国。いつどこであなたの正体がバレるかわかりません。それにあなたの正体を知ってるネロが、あなたがバイロン国にいると知ったら何をしてくるか。止むを得ずあなたを拘束して連れて来ましたが、途中で逃がしたことにすれば大丈夫です。トラビス殿がいるので安心ですしね」
「いやだ、まだ帰らない」

 僕の意志は固い。戻ってしまうと、敵国となってしまったバイロン国にはもう、入国できなくなるかもしれない。僕のことを忘れてしまったリアムに、二度と会えなくなるかもしれない。だからまだ帰りたくない。本当は、国の中心にいて国や民を守らなければいけないとわかっているけど。今は僕の我儘を通したい。
 トラビスが「ゼノ殿」と言って手綱をゆるめて馬の足を止める。ゼノも馬を止めてトラビスの隣に並んだ。

「トラビス殿、説得してくれるのか」
「いや、しない。フィル様は優しそうに見えてすごく意志が強いんだ。こうと決めたら譲らない」
「まことか…」
「フィル様のことを心配してくれて感謝する。だがフィル様の願いを聞いてやってくれ。フィル様が第二王子と会って話をして、納得されたら俺が連れて帰る。必ず無事に連れて帰る。だからそれまでは協力してほしい」
「…わかった。できる限りのことはする。しかし俺の力が及ばぬこともある。その時はどうなっても知らないからな」
「承知した」

 僕の胸が高鳴る。嫌だと拗ねたところで今すぐに帰らされるのかと気持ちが落ち込んだけど、もう少し留まれそうだ。なんとか機会を作ってリアムに会いたい。僕のことを思い出してくれないかもしれないけど、話をしてせめて今の僕のことを覚えてほしい。
 僕はトラビスとゼノに礼を言う。

「トラビスありがとう。ゼノもありがとう。目立つことはしないし危なくなりそうだったらすぐに逃げる。だからもう少しだけお願い…」
「仕方ありませんね。本当に大人しくしていてくださいよ。必ず俺の目が届くところにいるように」
「わかったよ、ゼノ」
「フィル様、ラズールがいない今だけですからね。でもあまり悠長にはしてられません。雪斑症の薬が届いてラズールが元気になり、レナードから事の顛末を聞けば恐ろしい勢いで飛んできますよ」
「ほんとだね…」

 トラビスが渋い顔をして言う。
 僕はラズールの端正な顔を思い浮かべる。あのきれいな顔で冷たく見つめられて淡々と注意をされると、とても怖い。
 まさか国境を越えてまで来ないと思うけど、ラズールを怒らせる前には何とかしたいと思い、僕はかなり前にいるリアムの背中を見つめた。
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