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「フィル様…!どうしてここに?」
狼狽える俺を見て、フィル様が愉快そうに笑う。
「驚いた?」
「それはもう」
「ふふっ、じゃあ大成功だね」
「俺を驚かせたかったのですか?」
「うん」
イタズラが成功した子供のように無邪気に笑うフィル様の様子に、俺の体温が上がる。
目の前にフィル様がいる。手を伸ばせば届く距離に立っている。
俺も笑ってフィル様に近づこうとして、ある事に気づいた。
「フィル様、おひとりですか?リアム様は?」
「リアムはバイロン国にいるよ。ここには来てないよ」
「では、おひとりで来られたのですか?危険すぎます。言ってくださればお迎えに行ったのに」
「ラズールには秘密だったから言わなかったけど、一人じゃないから大丈夫だよ。バイロンとイヴァルの国境まではゼノが、国境から王城まではレナードが護衛についてくれたから」
「…レナードは知ってたのですか。いや、もしかして俺以外は全員?」
「全員ではないけど、ネロとトラビスとレナードは知ってたんだ。ラズールには内緒にしててごめんね?」
フィル様が小さく首を傾ける。
些細な仕草の一つ一つが愛おしくて、俺は溢れ出そうになる感情を抑え込むのに必死になった。
俺が立ち止まってしまったが為に、フィル様の方から近づいてくる。
緩やかな風に揺れる銀髪に、俺は自然と手を伸ばす。
「伸びましたね。切るのはやめたのですか?」
「そうなんだ。切ってしまうと、おまえにこうして触ってもらえないだろう?」
サラサラとした手触りの銀髪から目を上げて、緑色の瞳を見た。
この庭に現れてから、フィル様はずっと穏やかに微笑んでいる。
その顔を見て、何一つ憂うこと無く幸せに過ごされているのだろうと安堵する。
俺は、銀髪に触れたまま微笑み返す。
断りなくフィル様に触れていいのは、俺の特権だ。フィル様が生まれた時から、兄のように接することを許された俺だから許される。他の者が触れようものなら罪になる。たとえフィル様が許したとしても俺が許さない。本当はバイロンの第二王子が触れることも不快に思っている。だがフィル様が彼を愛してしまったから、俺は渋々許しているのだ。
「そうですね。フィル様に触れることを許された俺は幸せ者です。しかしイヴァルにいた頃のように頻繁に触れることができませんが」
「それは仕方がないね。でもね、僕が辛い時も嬉しい時も、何かあればラズールが優しく髪を撫でてくれたことを思い出すと、ここが温かくなるんだ」
そう言って、フィル様が自身の胸に手のひらを当てた。
「だから髪を切ってしまったら、そういう思い出や気持ちが無くなるわけではないけど、なんだか寂しく思えて…だから伸ばすことにしたの」
「そうですか。俺のために伸ばしてくれるんですね。嬉しいです」
俺は銀髪を持ち上げてキスをした。フィル様の言葉がとても嬉しかったから。
だが無邪気なフィル様は、無邪気に嫌な言葉も口にする。
「あ、でも一番の理由は、リアムが切ってほしく無さそうだったからだよ。どんな髪型の僕でも好きだと言ってくれたけど、目を細めて僕の髪に触れる顔を見ていたら、短く切るのはやめようと思ったんだ。リアムは僕の髪が好きみたいで、毎朝毎晩、きれいに梳かしてくれるんだよ」
嬉しそうに話すフィル様の言葉に、俺の顔が一瞬で険しくなる。
第二王子め、貴様の好みをフィル様に押しつけるな。次に会った時、絶対に文句を言ってやる。
狼狽える俺を見て、フィル様が愉快そうに笑う。
「驚いた?」
「それはもう」
「ふふっ、じゃあ大成功だね」
「俺を驚かせたかったのですか?」
「うん」
イタズラが成功した子供のように無邪気に笑うフィル様の様子に、俺の体温が上がる。
目の前にフィル様がいる。手を伸ばせば届く距離に立っている。
俺も笑ってフィル様に近づこうとして、ある事に気づいた。
「フィル様、おひとりですか?リアム様は?」
「リアムはバイロン国にいるよ。ここには来てないよ」
「では、おひとりで来られたのですか?危険すぎます。言ってくださればお迎えに行ったのに」
「ラズールには秘密だったから言わなかったけど、一人じゃないから大丈夫だよ。バイロンとイヴァルの国境まではゼノが、国境から王城まではレナードが護衛についてくれたから」
「…レナードは知ってたのですか。いや、もしかして俺以外は全員?」
「全員ではないけど、ネロとトラビスとレナードは知ってたんだ。ラズールには内緒にしててごめんね?」
フィル様が小さく首を傾ける。
些細な仕草の一つ一つが愛おしくて、俺は溢れ出そうになる感情を抑え込むのに必死になった。
俺が立ち止まってしまったが為に、フィル様の方から近づいてくる。
緩やかな風に揺れる銀髪に、俺は自然と手を伸ばす。
「伸びましたね。切るのはやめたのですか?」
「そうなんだ。切ってしまうと、おまえにこうして触ってもらえないだろう?」
サラサラとした手触りの銀髪から目を上げて、緑色の瞳を見た。
この庭に現れてから、フィル様はずっと穏やかに微笑んでいる。
その顔を見て、何一つ憂うこと無く幸せに過ごされているのだろうと安堵する。
俺は、銀髪に触れたまま微笑み返す。
断りなくフィル様に触れていいのは、俺の特権だ。フィル様が生まれた時から、兄のように接することを許された俺だから許される。他の者が触れようものなら罪になる。たとえフィル様が許したとしても俺が許さない。本当はバイロンの第二王子が触れることも不快に思っている。だがフィル様が彼を愛してしまったから、俺は渋々許しているのだ。
「そうですね。フィル様に触れることを許された俺は幸せ者です。しかしイヴァルにいた頃のように頻繁に触れることができませんが」
「それは仕方がないね。でもね、僕が辛い時も嬉しい時も、何かあればラズールが優しく髪を撫でてくれたことを思い出すと、ここが温かくなるんだ」
そう言って、フィル様が自身の胸に手のひらを当てた。
「だから髪を切ってしまったら、そういう思い出や気持ちが無くなるわけではないけど、なんだか寂しく思えて…だから伸ばすことにしたの」
「そうですか。俺のために伸ばしてくれるんですね。嬉しいです」
俺は銀髪を持ち上げてキスをした。フィル様の言葉がとても嬉しかったから。
だが無邪気なフィル様は、無邪気に嫌な言葉も口にする。
「あ、でも一番の理由は、リアムが切ってほしく無さそうだったからだよ。どんな髪型の僕でも好きだと言ってくれたけど、目を細めて僕の髪に触れる顔を見ていたら、短く切るのはやめようと思ったんだ。リアムは僕の髪が好きみたいで、毎朝毎晩、きれいに梳かしてくれるんだよ」
嬉しそうに話すフィル様の言葉に、俺の顔が一瞬で険しくなる。
第二王子め、貴様の好みをフィル様に押しつけるな。次に会った時、絶対に文句を言ってやる。
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