鬼と六花

明樹

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 りつが、顔を上げて俺を見る。
 その悲しそうに曲がった口が可愛くて、頬を何度も撫でてやる。

「りつは、少し他の子達とは違うようだ。だが、何も気にすることはない。今までのように暮らしていけばいい」
「僕…違うの?さよちゃんや、里の子に嫌われちゃう?」
「嫌われない。普通にしていればいい。ただ、怪我には気をつけるようにな。どうやらりつは、傷の治りが特別早いようだ」
「…わかった。ゆきはるは?けが…早く治る?」

 りつに問われて、俺は考える。
 たぶん俺も、異端者だ。
 りつ程ではないが、昔から傷の治りが早かったような気がする。それに父親に似て夏の暑さには弱いが、冬に風邪など引いたことがない。そして、普通の人より老いが遅れている。
 俺も、りつと似たようなものかもしれぬ。
 俺は、りつの涙を拭いてやると、深く頷いた。

「治る。だから気にするな。それよりも腕の怪我は治ってるからいいが、腹はどうだ?蹴られたのだろう?痛くはないか?」
「うん、大丈夫。どこも痛くないよ」

 ずずっと鼻をすすりながら、りつが自分の腹を撫でる。
 そもそもそんなにはひどく蹴られてはいなかったのか、それとも自身で治癒したのか…。いずれにしろ鬼の力とはすごいものだな。
 俺は感動すら覚えて、再びりつを抱き寄せた。


 さよちゃんの母親が届けてくれた飯を食べて、俺の布団に潜り込んできたりつと眠りについた。
 怪我の回復に体力を奪われているせいか、眠くて仕方がない。
 俺は、りつの寝息を聞くよりも早く眠ってしまい、ぴちゃぴちゃという水音に気づいて目を覚ました。
 俺の身体の上にりつが乗っていて、重い。
 りつは華奢だけど、怪我をしている身体には重く感じる。

「り…」つ、と声をかけようとして動きを止める。
 このぴちゃぴちゃという水音は、俺の顔の傍から聞こえてくる。
 目線を動かすと、りつが俺の肩の傷を熱心に舐めていた。

「…何をしている?」

 りつは何も答えない。
 まるで猫のように、ぺろぺろと傷口を舐め続けている。

「りつ」

 少し大きな声で呼ぶと、りつが舐めるのを止めて、こちらを向いた。

「おまえ…」

 りつの目が、赤く光っている。
 そっと手を伸ばして頭を撫でる。
 どうやら角は出ていないようだ。

「りつ」

 もう一度名前を呼ぶと、はっと目を見開いた後に、りつの顔がくしゃりと歪んだ。

「ご、ごめっ…!昔、僕が怪我をしたら、ゆきはるっ、手当だって言って舐めてくれたでしょ?僕っ、早く治ってほしくてっ」
「…そうか」

 俺は、りつの口端についた血を指で拭いてやる。そして上半身を起こすと、りつの華奢な身体を抱きしめた。
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