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真葛 宗忠
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清忠が俺の家に来た翌週の金曜日に、「今日は俺の家に来てよ」と、清忠に誘われた。
清忠の兄さんにも前に声をかけてもらってるし、それに、もしかして清忠は、家に友達を呼ぶのも初めてなのかもしれない…と思い、俺は快く了承した。
そして銀ちゃんに、『清忠の家に行くから遅くなる』とメールを入れておいた。
清忠の住んでる所は、俺の降りる駅より三駅先で、そこから更にバスで三十分はかかった。
バスを降りてしばらく歩くと、敷地の周りをぐるりと垣根に囲まれた、平屋の大きな家が見えてきた。
「あれが俺が住んでる家。俺と兄さんと使用人が数人で住んでるんだ。使用人って言っても、主に兄さんの身の回りの世話をする人だけどね…」
「えっ、そうなの?ご両親は?」
「ここは別荘みたいなもんで、家は別にある」
「へぇ~。清ん家ってお金持ちなんだね」
俺が感心して家を眺めていたら、「ほら、入って」と背中を押された。
門から玄関まで敷かれた石畳の上を歩いて玄関に着くと、清忠が大きな引き戸を開けた。
玄関の中は、一部屋はありそうな広さがある。
「うわぁ、すごく広いね…」
「そうか?いいから上がって。左側が俺の部屋だから」
「わかった。お邪魔しまーす」
玄関を上がって脱いだ靴を揃えていると、右側の部屋の扉が引かれて、中から清忠の兄さんが出てきた。
俺に気付いて、ふっと表情を緩める。
「やあ、椹木くん。いらっしゃい」
「兄さん…、今日は遅くなるんじゃ…」
清忠の兄さんは、ちらりと清忠に目を向ける。
「今日の予定が変更になったんだよ。椹木くん、ゆっくりしていって」
「あ、はい。ありがとうございます」
俺は、玄関でしゃがんだままの姿勢だったのに気付き、慌てて立ち上がって頭を下げた。
顔を上げる時にちらりと見えた清忠の顔が、心なしか曇っているように感じた。
清忠の兄さんは、玄関から進んだ突き当たりの部屋に入って行った。
「凛ちゃんの名前、兄さんに言ってたっけ…?」
「あ、ごめん。先週、清が早く帰った日に、俺ん家の近くの駅でばったり会ったんだ。その時に少し話したよ。」
「ふ~ん…」
面白くなさそうに返事をして、清忠が部屋に入っていく。俺は、なんかまずかったかな…と首を傾げながら後に付いて入った。
清忠の部屋は二間続きになっていた。入ってすぐの部屋は、フローリングの床に机とソファーとローテーブル、テレビまで置いてある。奥の部屋は和室で、寝室になっているようだった。
「清…いい部屋に住んでるね」
「そう?実家の方がもっと広いよ。凛ちゃん、そこに座ってて」
和室を覗いていた俺に、清忠がソファーに座るように勧めてきた。
「清って、もしかして実家で『坊ちゃん』なんて呼ばれてたりして…」
俺の言葉に、清忠は無言で目を逸らす。その姿に思わず吹き出してしまった。
「まじでっ?どんだけお金持ちの家なんだよっ。あははっ」
清忠に睨まれながら腹を抱えて笑っていると、扉をノックする音の後に、扉が開いて清忠の兄さんが入って来た。
「失礼するよ。今、使用人が出払っててこんな物しか出せないんだが…悪いね」
清忠の兄さんが、ソファーの前のローテーブルにポットとカップとソーサー、高価そうなクッキーが乗った皿を並べていく。
「兄さん…、後は俺が…」
「そうだ。まだ名乗ってなかったね。俺は、真葛 宗忠(まくず むねただ)と言うんだ。よろしく、椹木…」
「あ、凛って言います。こちらこそ、よろしくお願いします」
俺と挨拶を交わす宗忠さんを、清忠が不安げに見る。
「兄さん…もういいだろ。出てってくれよ…」
「そんな事言わなくてもいいじゃないか。俺はもう少し、椹木くんと話したい。いいかな?」
「あ、はい…」
「ふっ、ありがとう。本当に君はいい子だ。椹木くんは、紅茶は大丈夫かな?この紅茶はとても香りが良くてね…」
宗忠さんはそう言って、ポットから紅茶をカップに注ぎ出した。
清忠の兄さんにも前に声をかけてもらってるし、それに、もしかして清忠は、家に友達を呼ぶのも初めてなのかもしれない…と思い、俺は快く了承した。
そして銀ちゃんに、『清忠の家に行くから遅くなる』とメールを入れておいた。
清忠の住んでる所は、俺の降りる駅より三駅先で、そこから更にバスで三十分はかかった。
バスを降りてしばらく歩くと、敷地の周りをぐるりと垣根に囲まれた、平屋の大きな家が見えてきた。
「あれが俺が住んでる家。俺と兄さんと使用人が数人で住んでるんだ。使用人って言っても、主に兄さんの身の回りの世話をする人だけどね…」
「えっ、そうなの?ご両親は?」
「ここは別荘みたいなもんで、家は別にある」
「へぇ~。清ん家ってお金持ちなんだね」
俺が感心して家を眺めていたら、「ほら、入って」と背中を押された。
門から玄関まで敷かれた石畳の上を歩いて玄関に着くと、清忠が大きな引き戸を開けた。
玄関の中は、一部屋はありそうな広さがある。
「うわぁ、すごく広いね…」
「そうか?いいから上がって。左側が俺の部屋だから」
「わかった。お邪魔しまーす」
玄関を上がって脱いだ靴を揃えていると、右側の部屋の扉が引かれて、中から清忠の兄さんが出てきた。
俺に気付いて、ふっと表情を緩める。
「やあ、椹木くん。いらっしゃい」
「兄さん…、今日は遅くなるんじゃ…」
清忠の兄さんは、ちらりと清忠に目を向ける。
「今日の予定が変更になったんだよ。椹木くん、ゆっくりしていって」
「あ、はい。ありがとうございます」
俺は、玄関でしゃがんだままの姿勢だったのに気付き、慌てて立ち上がって頭を下げた。
顔を上げる時にちらりと見えた清忠の顔が、心なしか曇っているように感じた。
清忠の兄さんは、玄関から進んだ突き当たりの部屋に入って行った。
「凛ちゃんの名前、兄さんに言ってたっけ…?」
「あ、ごめん。先週、清が早く帰った日に、俺ん家の近くの駅でばったり会ったんだ。その時に少し話したよ。」
「ふ~ん…」
面白くなさそうに返事をして、清忠が部屋に入っていく。俺は、なんかまずかったかな…と首を傾げながら後に付いて入った。
清忠の部屋は二間続きになっていた。入ってすぐの部屋は、フローリングの床に机とソファーとローテーブル、テレビまで置いてある。奥の部屋は和室で、寝室になっているようだった。
「清…いい部屋に住んでるね」
「そう?実家の方がもっと広いよ。凛ちゃん、そこに座ってて」
和室を覗いていた俺に、清忠がソファーに座るように勧めてきた。
「清って、もしかして実家で『坊ちゃん』なんて呼ばれてたりして…」
俺の言葉に、清忠は無言で目を逸らす。その姿に思わず吹き出してしまった。
「まじでっ?どんだけお金持ちの家なんだよっ。あははっ」
清忠に睨まれながら腹を抱えて笑っていると、扉をノックする音の後に、扉が開いて清忠の兄さんが入って来た。
「失礼するよ。今、使用人が出払っててこんな物しか出せないんだが…悪いね」
清忠の兄さんが、ソファーの前のローテーブルにポットとカップとソーサー、高価そうなクッキーが乗った皿を並べていく。
「兄さん…、後は俺が…」
「そうだ。まだ名乗ってなかったね。俺は、真葛 宗忠(まくず むねただ)と言うんだ。よろしく、椹木…」
「あ、凛って言います。こちらこそ、よろしくお願いします」
俺と挨拶を交わす宗忠さんを、清忠が不安げに見る。
「兄さん…もういいだろ。出てってくれよ…」
「そんな事言わなくてもいいじゃないか。俺はもう少し、椹木くんと話したい。いいかな?」
「あ、はい…」
「ふっ、ありがとう。本当に君はいい子だ。椹木くんは、紅茶は大丈夫かな?この紅茶はとても香りが良くてね…」
宗忠さんはそう言って、ポットから紅茶をカップに注ぎ出した。
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