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嵐の前の
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俺の今までとこれからの人生の中で、一番と言っていいくらいの激動の夏休みから一ヶ月半が過ぎた。
この一ヶ月半の間に、体育祭と文化祭、俺の誕生日があった。
たいして運動神経の良くない俺は、体育祭もこれと言って活躍する事もなく、文化祭も一年生は手作りのゲームを作って、当日はゲームの説明をしたり監視したりするだけで、これもまた活躍する事はない。でもそれなりに盛り上がって楽しかった。
銀ちゃんが、どちらも見に来ると言ってたけど、入学式での騒ぎを思い出して必死で断った。すごく納得がいかない様子で、「あ~この人絶対来るな…」と諦めかけていたら、銀ちゃんのお父さんに「会社が忙しいからしばらく手伝え」と言われたらしく、渋々諦めてくれた。
俺もほんとは見に来て欲しいけど、銀ちゃんが注目を浴びるのは面白くない。
俺の誕生日は、契約が成ったお祝いもかねて、天狗の郷の銀ちゃんの家で祝ってもらった。
この年になって、ちゃんとした誕生日パーティなんて照れるけど、皆んなに祝ってもらえるのは素直に嬉しい。
相変わらず銀ちゃんのお父さんと浅葱は、ずけずけと恥ずかしい事まで聞いてくる。それをやんわりと嗜めるのは、色白で大きな二重の目がとても可愛らしい銀ちゃんのお母さんだった。
どう見ても、銀ちゃんの姉にしか見えないお母さんの紫(ゆかり)さんは、俺を一目で気に入ってくれた。
「まあ可愛い!私、こんな可愛い子供が欲しかったのよっ」
と言って、いきなり俺をぎゅっと抱きしめ頬ずりをした。
助けを求めて銀ちゃんを見ると、恐ろしい顔をして、俺を紫さんから引き剥がした。
「母さん、無闇に凛に触らないでくれ。ああ、髪が乱れてしまったな」
銀ちゃんが俺の髪の毛を優しく撫で付ける。
「まあ、銀!だって実の息子がそんな怖い顔をしてるんだもの。ちょっとくらい、可愛い凛ちゃんを貸してくれてもいいじゃない」
「駄目だ!凛は俺だけが可愛がってればいいんだっ。なぁ、凛?」
銀ちゃんは、腕の中に閉じ込めていた俺を見下ろして、怖かった顔を一瞬でふやけさせた。そして、顔を上げた俺の唇に強く唇を押し付けた。
独占欲丸出しで皆んなの前でキスをした銀ちゃんを、紫さんは呆れて、縹さんと浅葱はにやけて見ていた。
ーーあの時は恥ずかしかったな…。俺の事を執着してくれるのは嬉しいけど、時と場所を考えて欲しいよ…。
誕生日の事を思い出すと、俺は溜め息がでてしまう。でも、それと同時に顔もにやけてしまうんだ。銀ちゃんの、俺を好き過ぎる態度が困る時もあるけど、愛されてる事を実感出来るのは、とても幸せだった。
夏休みの終わり頃には、約束通り、銀ちゃんは俺の両親に電話で挨拶してくれた。
母さんは、「一ノ瀬さんみたいなイケメンが彼氏だなんて!よかったわっ」と喜んでいた。銀ちゃんの隣で、どきどきしながら聞いていた俺は、拍子抜けしてしまった。
そう言えば、昔、母さんは俺を女の子として育てようとしてたし、まさか未だに俺を女の子にしようとか思ってないよね……と心配になった。
父さんは、すごく驚いて長い沈黙の後に、「凛が君を好きで幸せならいい…。一ノ瀬くん、凛を泣かせないでくれよ」と渋々ながら許してくれた。
俺は、理解のある両親の下に生まれて、すごく幸せ者だと思う。
俺の誕生日を天狗の郷で祝う話が出た時に、前に、銀ちゃんの事をよく思っていない人達に何かされるかもしれないから連れて行きたくない、と言ってた事を思い出した。
だから「俺を連れて行っていいの?」と聞くと、銀ちゃんの事を一番煙たがっていた鉄さんの父親が、今は大人しくしているから大丈夫だ、と教えてくれた。
父親に責任はないけれど、夏に鉄さんが、俺と特に銀ちゃんにした事で、郷の偉い人達から鉄さんの父親を責める声が上がったからだそうだ。
そして、鉄さんの行方は未だわからないと、銀ちゃんが暗い顔をして言っていた。
この一ヶ月半の間に、体育祭と文化祭、俺の誕生日があった。
たいして運動神経の良くない俺は、体育祭もこれと言って活躍する事もなく、文化祭も一年生は手作りのゲームを作って、当日はゲームの説明をしたり監視したりするだけで、これもまた活躍する事はない。でもそれなりに盛り上がって楽しかった。
銀ちゃんが、どちらも見に来ると言ってたけど、入学式での騒ぎを思い出して必死で断った。すごく納得がいかない様子で、「あ~この人絶対来るな…」と諦めかけていたら、銀ちゃんのお父さんに「会社が忙しいからしばらく手伝え」と言われたらしく、渋々諦めてくれた。
俺もほんとは見に来て欲しいけど、銀ちゃんが注目を浴びるのは面白くない。
俺の誕生日は、契約が成ったお祝いもかねて、天狗の郷の銀ちゃんの家で祝ってもらった。
この年になって、ちゃんとした誕生日パーティなんて照れるけど、皆んなに祝ってもらえるのは素直に嬉しい。
相変わらず銀ちゃんのお父さんと浅葱は、ずけずけと恥ずかしい事まで聞いてくる。それをやんわりと嗜めるのは、色白で大きな二重の目がとても可愛らしい銀ちゃんのお母さんだった。
どう見ても、銀ちゃんの姉にしか見えないお母さんの紫(ゆかり)さんは、俺を一目で気に入ってくれた。
「まあ可愛い!私、こんな可愛い子供が欲しかったのよっ」
と言って、いきなり俺をぎゅっと抱きしめ頬ずりをした。
助けを求めて銀ちゃんを見ると、恐ろしい顔をして、俺を紫さんから引き剥がした。
「母さん、無闇に凛に触らないでくれ。ああ、髪が乱れてしまったな」
銀ちゃんが俺の髪の毛を優しく撫で付ける。
「まあ、銀!だって実の息子がそんな怖い顔をしてるんだもの。ちょっとくらい、可愛い凛ちゃんを貸してくれてもいいじゃない」
「駄目だ!凛は俺だけが可愛がってればいいんだっ。なぁ、凛?」
銀ちゃんは、腕の中に閉じ込めていた俺を見下ろして、怖かった顔を一瞬でふやけさせた。そして、顔を上げた俺の唇に強く唇を押し付けた。
独占欲丸出しで皆んなの前でキスをした銀ちゃんを、紫さんは呆れて、縹さんと浅葱はにやけて見ていた。
ーーあの時は恥ずかしかったな…。俺の事を執着してくれるのは嬉しいけど、時と場所を考えて欲しいよ…。
誕生日の事を思い出すと、俺は溜め息がでてしまう。でも、それと同時に顔もにやけてしまうんだ。銀ちゃんの、俺を好き過ぎる態度が困る時もあるけど、愛されてる事を実感出来るのは、とても幸せだった。
夏休みの終わり頃には、約束通り、銀ちゃんは俺の両親に電話で挨拶してくれた。
母さんは、「一ノ瀬さんみたいなイケメンが彼氏だなんて!よかったわっ」と喜んでいた。銀ちゃんの隣で、どきどきしながら聞いていた俺は、拍子抜けしてしまった。
そう言えば、昔、母さんは俺を女の子として育てようとしてたし、まさか未だに俺を女の子にしようとか思ってないよね……と心配になった。
父さんは、すごく驚いて長い沈黙の後に、「凛が君を好きで幸せならいい…。一ノ瀬くん、凛を泣かせないでくれよ」と渋々ながら許してくれた。
俺は、理解のある両親の下に生まれて、すごく幸せ者だと思う。
俺の誕生日を天狗の郷で祝う話が出た時に、前に、銀ちゃんの事をよく思っていない人達に何かされるかもしれないから連れて行きたくない、と言ってた事を思い出した。
だから「俺を連れて行っていいの?」と聞くと、銀ちゃんの事を一番煙たがっていた鉄さんの父親が、今は大人しくしているから大丈夫だ、と教えてくれた。
父親に責任はないけれど、夏に鉄さんが、俺と特に銀ちゃんにした事で、郷の偉い人達から鉄さんの父親を責める声が上がったからだそうだ。
そして、鉄さんの行方は未だわからないと、銀ちゃんが暗い顔をして言っていた。
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