天狗の花嫁

明樹

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神の使い

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冬休みが終わるまで、清忠は毎日家に来てくれた。
まだ天狗の郷の様子はわからないらしく、もう少し待ってくれと言う。
そして未だ、銀ちゃんは帰って来ない。
清忠は、夜も一緒にいてくれようとしたけど、ずっと俺に付き合わせるわけにはいかない。だから、「眠ってる間は、銀ちゃんの事を思い出さないから大丈夫」と言って、暗くなる頃には帰ってもらっていた。


本当は眠る事なんて出来ない。四六時中、銀ちゃんの事を考えてばかりだ。
俺は毎晩、銀ちゃんの部屋で、銀ちゃんの布団で、銀ちゃんのパジャマを抱きしめて目を閉じる。でも、どんなに銀ちゃんの匂いに包まれていても、少しも休まらない。ますます銀ちゃんが恋しくなり、寂しさで心が痛むんだ。


そして、すべての物から日に日に銀ちゃんの匂いが薄れていく。銀ちゃんの布団に潜っても、パジャマを顔に押し当てても、確実に匂いが消えかかっている。
今、かろうじて堪えていられるのは、これらの匂いから銀ちゃんを感じる事が出来るからなのに。匂いが消えて、銀ちゃんを感じられなくなってしまったら、俺は一体どうなるんだろう…。




冬休みが終わる最後の日、清忠が、今日はどうしても来れないと言っていたので、俺は倉橋の神社に向かった。
倉橋に陰陽師の話を詳しく聞きたかったから。


俺が、神社の入り口の長い階段を登って鳥居をくぐろうとした時、突然、頭上から声が降って来た。


「おい、そこの人の子。おまえと話がしたい」


俺は、肩をびくりと跳ねさせて鳥居を見上げる。
鳥居の上に、白の狩衣姿の男にも女にも見える綺麗な人が、座って俺を見下ろしていた。
俺と目が合うと、綺麗な人がふわりと飛び降りて来て、俺に顔を近付ける。まるで黒曜石のように輝く長い髪に白い肌、少し吊り上がった綺麗な二重、そして筋の通った高い鼻に朱色の唇という整った容姿に釘付けになる。


「ここで話すとおまえが不審な目で見られる。私について来い」


吸い込まれそうな美しい金色の瞳に見つめられて、俺は素直に頷き、身体を翻してすたすたと歩く綺麗な人の後について行った。


神社の本殿から逸れて人気のない裏側へと行く。そこに小さな古い社があって、綺麗な人は扉を開けて中へ入ってしまった。
俺が扉の前で戸惑っていると、顔を出して
「早く入れ」と呼ぶ。バチが当たらないかな…と怯えながら一度お辞儀をして、恐る恐る中へ入った。
中は、人が二人入ると窮屈になる広さだ。
綺麗な人は片膝を立てて座り、俺は向かい側で静かに正座をした。


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