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水の檻 6
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俺はしつこく少しばかりの抵抗をしてみるけど、先生の腕はびくともしない。先生…尊央が、俺の顎を掴んで額にキスを落とすと、俺の前にパンやウインナー、スクランブルエッグとりんごが乗った皿とフォークを差し出した。
「はい、じゃあ食べようか。しっかり食べないと体力が回復しないよ」
俺はフォークを受け取ると、震える手でウインナーを突き刺し、そろりと口に運ぶ。
ーー確かに食べないと体力が回復しない。ここから逃げ出す為にも弱ってる場合じゃない。
昨日の事があって、あまり食欲はなかったけど、俺は時間をかけて全部を食べ切った。
温かい紅茶を飲み干した俺を見て、尊央が目を細める。
羽織った浴衣の襟から手を入れて、するりと俺の肩を撫でた。
「この浴衣も綺麗だろ?昨日の藍色も似合ってたけど、紫も似合うね。じゃあ今日は、よく休んで体力回復に努めろよ?」
にやりと弧を描く口元に、ぞくりと悪寒が走る。もう一度、俺の額に口付けると、食べ終わった食器を持ってドアから出て行った。
俺は羽織っていた浴衣の袖に腕を通し、前をきっちりと閉じる。くくる紐がないから、手でしっかりと押さえた。 部屋を見回すと、濡れていた床はすっかり乾いて綺麗になっている。
ふいに昨日の事を思い出して、さっき食べた物を吐き出しそうになる。何度か唾を飲み込んでやり過ごそうとしたけど、我慢出来なくなってトイレに駆け込み、全部吐き出してしまった。俺は涙目になって荒い息を繰り返す。
出て行く前に尊央が見せた不審な笑顔に、胸の中に不安が広がっていく。
ーーもしかして、またあんな事をするつもりだろうか?だから、ゆっくり体力を回復しろと言ったんだろうか…?
もうあんな事は嫌だ。銀ちゃん以外に、俺の中を暴かれるのは耐えられない。
それに、清の事が心配だ。あの後すぐに、銀ちゃんと倉橋が来て助けてくれてるに違いないけど、早く、清の無事な姿を確かめたい。
その為にもここから逃げ出さないと…。
俺は、何とか逃げ出す方法を見つけるべく、ふらふらと立ち上がりトイレから出て、部屋の中を一つ一つ見て回った。
俺は、はだけないように浴衣の前をきっちりと合わせ、よろよろと震える足でドアの前まで行き、ドアノブに手をかけた。
少し、外の様子を伺ってからゆっくりと押し開ける。俺の目の前一面に水の幕が広がる。
そっと手を伸ばして水に触れた。そのまま前に突き出すと、水の中に手が入っていく。一旦手を抜いて、濡れた腕を見た。目の前の水は、上から注ぐ太陽の光できらきらと輝いている。
ーーこの水の中に入って、上まで泳いだら逃げれるんじゃないか?
俺は浴衣の裾を膝の上で固く縛り、一度大きく深呼吸をしてから水の中に入ろうとした。
しかし、どうやっても入る事が出来ない。腕まではすんなりと入っていくのに、身体を押し込もうとすると、弾かれて部屋の中に押し戻されてしまう。
何度も身体を押し付けたり、部屋の中ほどから助走をつけて飛び込んだりしたけど、全く水の中に入る事が出来なかった。
ただでさえ弱っている身体が余計に疲れて、部屋の真ん中で座り込んでしまう。
ーーなんで水の中に入れないんだ?これって結界が張ってあるってこと?じゃあ、あの天窓から出ても同じなのかなぁ…。
「はい、じゃあ食べようか。しっかり食べないと体力が回復しないよ」
俺はフォークを受け取ると、震える手でウインナーを突き刺し、そろりと口に運ぶ。
ーー確かに食べないと体力が回復しない。ここから逃げ出す為にも弱ってる場合じゃない。
昨日の事があって、あまり食欲はなかったけど、俺は時間をかけて全部を食べ切った。
温かい紅茶を飲み干した俺を見て、尊央が目を細める。
羽織った浴衣の襟から手を入れて、するりと俺の肩を撫でた。
「この浴衣も綺麗だろ?昨日の藍色も似合ってたけど、紫も似合うね。じゃあ今日は、よく休んで体力回復に努めろよ?」
にやりと弧を描く口元に、ぞくりと悪寒が走る。もう一度、俺の額に口付けると、食べ終わった食器を持ってドアから出て行った。
俺は羽織っていた浴衣の袖に腕を通し、前をきっちりと閉じる。くくる紐がないから、手でしっかりと押さえた。 部屋を見回すと、濡れていた床はすっかり乾いて綺麗になっている。
ふいに昨日の事を思い出して、さっき食べた物を吐き出しそうになる。何度か唾を飲み込んでやり過ごそうとしたけど、我慢出来なくなってトイレに駆け込み、全部吐き出してしまった。俺は涙目になって荒い息を繰り返す。
出て行く前に尊央が見せた不審な笑顔に、胸の中に不安が広がっていく。
ーーもしかして、またあんな事をするつもりだろうか?だから、ゆっくり体力を回復しろと言ったんだろうか…?
もうあんな事は嫌だ。銀ちゃん以外に、俺の中を暴かれるのは耐えられない。
それに、清の事が心配だ。あの後すぐに、銀ちゃんと倉橋が来て助けてくれてるに違いないけど、早く、清の無事な姿を確かめたい。
その為にもここから逃げ出さないと…。
俺は、何とか逃げ出す方法を見つけるべく、ふらふらと立ち上がりトイレから出て、部屋の中を一つ一つ見て回った。
俺は、はだけないように浴衣の前をきっちりと合わせ、よろよろと震える足でドアの前まで行き、ドアノブに手をかけた。
少し、外の様子を伺ってからゆっくりと押し開ける。俺の目の前一面に水の幕が広がる。
そっと手を伸ばして水に触れた。そのまま前に突き出すと、水の中に手が入っていく。一旦手を抜いて、濡れた腕を見た。目の前の水は、上から注ぐ太陽の光できらきらと輝いている。
ーーこの水の中に入って、上まで泳いだら逃げれるんじゃないか?
俺は浴衣の裾を膝の上で固く縛り、一度大きく深呼吸をしてから水の中に入ろうとした。
しかし、どうやっても入る事が出来ない。腕まではすんなりと入っていくのに、身体を押し込もうとすると、弾かれて部屋の中に押し戻されてしまう。
何度も身体を押し付けたり、部屋の中ほどから助走をつけて飛び込んだりしたけど、全く水の中に入る事が出来なかった。
ただでさえ弱っている身体が余計に疲れて、部屋の真ん中で座り込んでしまう。
ーーなんで水の中に入れないんだ?これって結界が張ってあるってこと?じゃあ、あの天窓から出ても同じなのかなぁ…。
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