天狗の花嫁

明樹

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 銀ちゃんは、清忠には構わずに話を続けた。


「そこの倉橋は中々に聡明だ。凛を連れ去る久世とやらに、咄嗟に式神を投げつけたらしい。おかげで凛の居場所がすぐにわかった」
「え…、そうだったの?」


俺が倉橋を見ると、ポケットから人の形をした紙を取り出して見せた。


「これ。これを先生のズボンの裾に潜り込ませてん。移動が止まって、そこから動かなくなったのを確認してから、先生から離して消滅させた。だから、先生は今でも後をつけられてたなんて思ってもないんとちゃうか」
「倉橋…」


俺は、清忠を何とか助けて欲しくて倉橋を呼んだけど、俺を助ける手助けまでしてくれた事に感謝した。
でなければ、俺の救出はもう少し先になって、もしくは見つけてもらえなくて、その間にまたあの気持ち悪い嫌な事を続けられていたかもしれない。


昨日にされた事をふいに思い出して、俺はぶるりと身体を震わせる。気分も悪くなってきて、銀ちゃんの胸に頭をつけた。
俺の様子に気付いた銀ちゃんが、俺の肩を引き寄せて、背中をそっと撫でる。
きっと、連れ去られた先で何かがあった事をわかっている。俺は、全てをちゃんと説明しないといけない。


「凛ちゃん…、俺、死んでも凛ちゃんを守りたかったのに、ごめんな。あいつに…ひどい事されてない?次は絶対にあいつには負けないから…っ」


腕を下ろし拳を強く握りしめて話す清忠を、銀ちゃんが制した。


「残念だったな、清忠。おまえに次の機会はない。あいつは、俺が懲らしめる」
「え?あっ…、そ、そうですよねっ。一ノ瀬さんの方が怒りMAXですよねっ。それに、俺の数倍は強い一ノ瀬さんが相手だと、秒殺っすよっ」
「清忠…、おまえは現金な奴だな。つい先ほどまで死にそうになって目を覚まさなかったくせに、目を覚ました途端にその調子か…。まあ、おまえらしいといえばおまえらしいが。あと、俺はおまえの数倍ではない。百倍は強い」


自信たっぷりに言い放つ銀ちゃんを、清忠がぽかんと口を開けて見た。
俺は銀ちゃんの本気の強さを見た事がない。でも、恐らく天狗一族の中で一番二番に強いであろう銀ちゃんは、本当に清忠の百倍強くて、尊央も敵わないのではないだろうか。


そう思ったけどやっぱり少し不安で、心配そうに銀ちゃんを見る俺の手を、銀ちゃんが強く握りしめた。
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