天狗の花嫁

明樹

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天狗の花嫁 3

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一枚着たらそれでいいのかと思っていたら、結局五枚は着させられた。
赤、青、紫、緑に桃色と、どれも若い女の子が着たらとても可愛い着物だ。でも男の俺が着たところで、女装感が半端ない。なのに紫さんは悲鳴を上げて喜んで、一緒に写真を撮ったり俺だけを撮ったりしていた。


「別に見たくない」と言ってた銀ちゃんまで、俺の肩を抱き寄せて一緒に写真に収まっていた。それだけじゃなく、俺が着替えてる最中も、こっそりと撮っているのを見た。
紫さんが銀ちゃんのことを「変態」と言ったのも、あながち間違いではないと思う。でも銀ちゃんが変態になるのは俺に対してだけだし、変態な銀ちゃんも好きだし、と思ってしまう俺も、変態かもしれない。


何度も着せ替えさせられて、疲れた頃にようやく、式に参列する時の着物を着せてもらった。
藍色の着物に、着物とお揃いの羽織を羽織る。羽織の裏側には、綺麗な山水の絵が描かれていて、とても手触りも良く高そうだ。


「すいません…、俺の為に作ってくれたんですか?あの…代金は…」
「ふふ、凛ちゃんはいい子ね。お金なんて気にしなくていいのよ。私が作りたくて作ったんだし。なんなら銀に払ってもらうから。凛ちゃんはこれを着て、鉄の結婚を祝ってくれたらそれでいいの」
「はい…ありがとうございます。それにしてもこの着物、すごく綺麗ですね。気に入りましたっ」
「良かった。明後日は私と一緒に行きましょうね」
「行かない。母さんは親父の傍から離れないように。凛は俺が連れて行くから。ほら、もう充分に満足しただろ?凛は疲れてるんだ」
「そうね…。凛ちゃん、私のお願い聞いてくれてありがとう。ゆっくり休んでね」
「はい。紫さんもありがとうございます」



紫さんは、小さく手を振って部屋を出て行った。後には、俺と銀ちゃんの二人だけが取り残され……え?


「浅葱っ?い、いつからいたの?」
「銀様と一緒に部屋に来て、ずっといたよ。三人の世界に入ってたから、俺はそこに入らないように気配を消してた。凛、お疲れ様。でも、よく似合ってたよ?」
「浅葱までそんな事を言う…。浅葱も明後日は着物を着るの?」
「さすがに着ないとね。俺は羽織袴だよ。銀様もね」
「えっ…そうなんだ…」


銀ちゃんの羽織袴なんて、お正月の時に見たけどすごくかっこいいじゃんっ!またあの姿が見れるのかぁ…と、俺は目を輝かせて銀ちゃんを見た。


「どうした?」
「銀ちゃんの羽織袴、楽しみ。すごくかっこいいから」
「そうか?じゃあ、一緒に写真を撮らないとな」
「うんっ」
「ふっ、可愛い…。ところで浅葱、おまえはいつまでそこにいるんだ?」


銀ちゃんにぎろりと睨まれて、浅葱が肩を跳ねさせた。


「おお~怖…。はいはい、すぐに退散しますよ。じゃあね凛。また後でね」
「うん、じゃあね」


浅葱に手を振る俺の手首を掴んで、銀ちゃんが顔を寄せてくる。柔らかく何度も俺の唇を啄んで、「可愛かった…」としみじみ呟いた。

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