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天狗の花嫁 17
しおりを挟む少し待つと、雅楽の演奏と共に、鉄さんと花嫁が入って来た。黒の紋付き羽織袴姿の鉄さんは、上品でとても綺麗だ。白無垢姿の花嫁…杏さんも、目が大きくてとても可愛い。俺は、まるで雛人形のように艶やかな二人に、目が釘付けになった。
式は滞りなく進んで、今は三三九度の盃を交わしている。俺と銀ちゃんも、いつかあんな風に誓うのだろうか。銀ちゃんが黒の、俺が白の袴姿を想像して、いいかもしれないと一人頷いた。
式が一通り済んで、参列者は社殿から出て境内で二人が出てくるのを待った。
今から二人は、郷の皆んなに無事に式を終えた事を知らせる為に、鉄さんの家まで歩くらしい。式に参列した俺達も後について行き、そのまま鉄さんの家でお祝いの宴会をするそうだ。
しばらくして、鉄さんに手を引かれて杏さんが出て来た。境内にいた参列者が、口々に二人にお祝いの言葉をかける。俺も手を叩いて、二人に「おめでとう!」と声をかけた。
鉄さんと杏さんの前を、二人を守るように浅葱と織部さんが進んで行く。今日は、いつもはスーツの織部さんも、紋付袴を着ている。その後ろを式を挙げた二人が続き、二人の後ろをそれぞれの両親が歩いて行く。
たぶん後は、それぞれの兄弟や親族が続いているのだろう。
俺と銀ちゃんは、列の最後尾を手を繋いでゆっくりと歩いた。
沿道で、「おめでとうっ」と叫んでいた人達が、俺の姿を認めると急に黙り込む。中にはちらほらと、「銀様もおめでとうございます」と声をかけてくれる人もいた。声をかけられると、銀ちゃんが「ありがとう」と微笑むから、俺も隣で笑顔を見せた。
神社から鉄さんの家までの半分くらいの場所に来た。俺は銀ちゃんを見上げて、「そろそろいいかな?」と尋ねる。銀ちゃんは、繋いだ手を持ち上げて、「思いっきりやれ」と言って笑った。
俺は、銀ちゃんの手を離すと、袂に入れていた和紙を取り出した。桜の花びらの形に切った数枚の和紙を左の掌に乗せて、右手の人差し指と中指を立てて和紙に押し当てる。
そして、倉橋の家に泊まった時に、倉橋から教えてもらった言葉を唱えた。
唱え終わると、掌を口元に持ってきて、強く息を吹きかける。ふわりふわりと、和紙の桜が宙を舞う。そこへ、銀ちゃんが扇子を取り出して強くあおいだ。
途端に辺りがどよめき出す。
「え?なに?」
「わぁっ、すごい!」
「これって…桜?」
「えっ、なんで?今って七月だよな?」
「そんなの、どうだっていいじゃない。だって、こんなにもキレイ…っ」
一瞬で、郷の中が桜吹雪に包まれる。ひらひらと無数の桜の花びらが、際限なく降り注ぐ。そのとても幻想的な光景に、自分で仕掛けておきながら、俺は目に涙を浮かべて感動で震えた。
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