炎の国の王の花

明樹

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リリーが、泉から腕を出して見ている。
綺麗に治ってよかったと、俺はホッと息を吐いた。

「リリー、手を出して」
「こう?」

俺の方に差し出したリリーの濡れた腕に、俺は手をかざした。
さっきリオが、俺の汗を乾かした時みたいに、掌に力を込めて温かい風を出す。
一瞬で乾いた腕を見て、リリーが「すごーい!」と歓声を上げた。

リリーが、腕を触りながら「すごい」を連発する。ついには俺の手を両手で握りしめ、顔を近づけた。

「カエンは魔法も使えるのねぇ!すごいわっ」
「リリーも使えるでしょ?」
「うん…。でも上手じゃないの…」
「これから上手になればいいよ。だって俺達、まだ子供だもん!」
「そうかな?」
「そうだよ。俺はね、世界で一番の強い人になりたいから、魔法も剣も頑張ってるの」
「カエンならなれるよ!私、応援する!」
「ありがとう」

俺は、さっきまでリリーのことを、王族の甘やかされた子供にありがちな、頑固でわがままな王女だと思っていた。
だけど話してみると、とても素直で可愛らしい。それに、日の国らしくとても明るい子みたいだ。

俺は、リリーの手を握り返すと、立ち上がった。

「そろそろ部屋に戻らない?ディエス王が心配してるよ?」
「大丈夫よ。でもカエンがそう言うなら戻るわ。ねぇ、カエンも一緒に来てよ」
「行ってもいいけど、俺はまだやることがあるし…身体も洗わないとだし…。また後で行くよ」
「えー!すぐ来てくれないの?私もっとカエンとお話したいっ、遊びたいっ」
「ごめんね。絶対に後で行くから。約束」
「…わかったわ…。本当に来てね?」

リリーも立ち上がり、とても悲しそうな顔で俺を見ている。
その顔を見ていると、すごく悪いことをしているような気持ちになる。
俺が、リリーの両手を持ち上げて頷いていると、目の前に黄色の花が差し出された。

「リリー、このお花をお土産に、部屋に戻ろうか。リリーの髪色と同じ花だよ」
「かわいい…。もらってもいいの?」
「もちろん。ほら行こう。サッシャが心配してるよ」

母さまの手から花を受け取って、ようやくリリーが頷いた。
リリーは、両手で花を持つと、母さまと俺を見て笑った。

「カエンのお母さま、ありがとう。カエンはやることがあるでしょ?私、あの人に部屋まで送ってもらうから。じゃあ後でね」

リリーがリオを指さして、俺に手を振る。
俺も、頷きながら手を振った。


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