炎の国の王の花

明樹

文字の大きさ
上 下
297 / 432

15

しおりを挟む
すぐ目の前に、父さまの優しく微笑む顔が見える。
細い指に頬を撫でられて横を向くと、母さまが目に涙を浮かべて笑っていた。

「カエン、おまえはすごい男だ。その年でそんなことが言えるのは、立派だ。俺の自慢の息子だな」
「カエン…ありがとう。俺を庇ってくれたんだね。すごく嬉しい。ありがとう…」
「父さま…カナ…」

俺は、両手でごしごしと顔を拭くと、ぽかんとこちらを見上げているリリーを見た。

「父さま…、もう大丈夫だから降ろして」
「そうか」

父さまが、俺を降ろして頭をぽんと撫でた。
俺は、リリーの前に立つと、リリーの赤くなった手首に触れて謝った。

「リリー、ごめんね。痛かったよね。中庭にね、泉があるんだ。その泉に手首を浸すと、赤いのも痛いのもすぐに治るから、一緒に行こ?」

リリーは、ぼんやりと俺を見ていたけど、すぐにハッとして下を向いた。

「…カエン、私…ひどいこと言っちゃった…。だからカエンが怒っても仕方ないの。ごめんね…。カエンのお母さまも、ごめんなさい…」

ぽたりぽたりと地面に涙を落とすリリーの頭を、母さまが優しく撫でる。

「リリーも優しくていい子だね。ちゃんと悪いと思ったら謝れる。俺は大丈夫だよ。リリーが謝ってくれたからね。それに、これがいいとか嫌だとか思うのは個人の自由だから、嫌だと思ったことは、はっきり言ってもいいんだよ。でもまあ、一応、相手を思いやる気持ちも持ってようね。リリーは今からどうする?部屋に戻る?カエンと中庭に行く?」
「…中庭に行きたい」
「うん、じゃあ行こうか。カエン、案内してあげて」
「うん。こっちだよ」

俺は、リリーの手を引いて歩き出した。
リリーは、まだ少し下を向きながらついてくる。
俺達の後ろから、父さまと母さま、リオもついてくる。
広場から一旦城の中に入り、長い廊下を進んでまた外に出る。
外に出たそこは、色んな色の花や緑がいっぱいの、母さまも俺も大好きな中庭だ。

下を向いていたリリーが、ようやく顔を上げて、「わあっ」と声を上げて笑顔になった。

「ふふっ、綺麗でしょ?こっちに来て」

俺は、リリーの手を引いて泉に連れて来る。
泉の縁にリリーを座らせると、水の中に手を浸した。

「ほら、リリーも入れてみて。冷たくて気持ちいいよ」
「うん」

リリーが、赤くなった方の手を水に浸ける。
澄んだ水の中で、リリーの赤くなった所が綺麗に治っていく。

「あっ」
「どうしたの?」
「カエンが言ってた通りだわ。もう痛くない」
「ほんと?よかった」

俺がにこりと笑うと、リリーも俺に笑い返した。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

番いのαから逃げたいΩくんの話

BL / 連載中 24h.ポイント:3,238pt お気に入り:1,019

俺を裏切り大切な人を奪った勇者達に復讐するため、俺は魔王の力を取り戻す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,290pt お気に入り:91

伯爵令嬢は執事に狙われている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:653pt お気に入り:449

ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:20,412pt お気に入り:9,131

女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:686

Help!

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:42

左遷先は、後宮でした。

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:1,406

処理中です...