炎の国の王の花

明樹

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五日ほど滞在して、リリーはディエス国に帰って行った。
帰り際に、ディエス王が母さまに、「必ずディエス国にも遊びに来て!」と強く誘っていた。

「うん、近いうちに行くから!」
「約束だよ!」

そう言って二人で抱き合っていたから、本当に行くことになるかもしれない。
その時は、俺も一緒に連れて行ってもらうんだ。
その後、抱き合っていた二人は、父さまとミケに引き離されていたけど。
俺とリリーは、「お互いにがんばろうね」と手を握って別れた。
リリー達が乗った馬車が、門の向こう側に消えるまで見送って、城の中に入った。
前を歩く父さまと母さまの後ろをついて行きながら、部屋に向かう。
お昼から魔法の練習をしようかなと、ぼんやりと考えて歩いている俺の耳に、父さまと母さまの会話が入ってくる。

「おまえ、ディエス国に行くなら、今度は俺も一緒だからな」
「わかってるよ。あの国境にある橋は、不吉だからね」
「まあディエス国以外でも、俺はついて行くぞ」
「はいはい。あ、そういえば、水の国スイからも、遊びにおいでって手紙が来てた」
「レオナルトか。あいつ、式はまだだが、子供が生まれたんじゃなかったか?カナの相手をしている暇などないだろう」
「子供と奥さんになる人を紹介したいんじゃない?俺も会ってみたいなぁ」
「そのうちに、結婚式の招待状が来るだろう。その時でいいではないか」
「まあ…そうだね。…っ」
「カナっ?」

父さまの声にハッとして、顔を上げる。
父さまが、心配そうに母さまの肩を抱き寄せている。

「父さま?カナ…どうしたの?」
「少し疲れたようだ。部屋で休ませる。カエン、医師を呼んできてくれ」
「わかった。カナ、すぐに呼んでくるから待っててね!」
「アルってば、大げさ。ちょっと目眩がしただかだから。カエン、大丈夫だからゆっくりでいいよ」
「カナは部屋で寝ててっ」

俺は、くるりと向きを変えると、今来た廊下を走り出した。
少し後ろを歩いていたリオに、「どうしました?」と止められる。

「カナがしんどいみたいなんだっ。だから医師を呼びに行くのっ」
「カナデが?わかりました。俺は、温かい飲み物やカナの好きな果実を持ってきます」
「うん!俺急いでるから!」

リオに頷いて、俺はまた走り出す。
長い廊下を進み角を二回曲がり、突き当たりの部屋の扉を思いっきり叩く。

「せんせぇ!早く開けてっ!」

すぐに扉が開いて、医師が顔を出した。

「これはカエン様。どうされました?」
「カナが大変なのっ!ふらふらとしてたのっ!父さまが疲れたんだって言ってたっ!」
「ふむ…。わかりました。薬を用意しますので、少し待っていてください」
「早くしてねっ」

俺は、部屋の中に入って、棚に並んだ容器を眺めた。容器の中には、いろんな色の液体や粉が入っている。
それにこの部屋は、変な匂いがする…と難しい顔をしてると、「行きましょうか」という声がした。

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