炎の国の王の花

明樹

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即位の儀式の前日の夜、父さまに呼ばれて部屋に行った。
俺が、扉の外から声をかけると、「入れ」と中から低い声がした。
中に入ると、父さまが、大きな窓の前に立っていた。窓を背にこちらを向く父さまの髪の毛は、少し短くなっている。
父さまは、母さまの黒髪を常に持っているけど、母さまの棺の中にも、父さまの赤い髪を入れたのだ。

「カナは、俺の髪を気に入ってたからな」

そう言って、背中まであった髪の毛を肩まで切ったのだ。
あれから少し伸びたけど、いつも長い髪の父さまを見ていたから、まだ短く思う。

「カエン、ここに座ってくれ」
「はい」

父さまに促されて、窓の側の椅子に座る。
一体何の用だろうかと見上げると、目が合った。
そして父さまが、ふっ…と微笑む。
ああ、この人は本当に綺麗だなあ…と、俺は思わず見とれてしまった。

「カエンは、俺によく似ているが、ふとした時に、カナにそっくりな時がある。だから俺やカナよりも、おまえは綺麗な顔をしている。そして優しく明るい。きっと民に好かれる王になる」
「そうかなあ。父さまやカナの人気には負けるよ。でも、俺は俺なりに頑張るから。それで、どうしたの?」
「ああ、おまえに渡したい物があってな。本当は、カナが『いつか俺が渡す』と言ってたんだが…。カナが亡くなる前に、カナの手で渡させてあげればよかった。でもそうすると、カナの死が近いことを認めるようで嫌だったのだ」
「そんなことが…。カナが渡したいって思ってたのって、何?」
「これなんだが…」

ずっと握っていたのか、父さまが、掌を俺の前に差し出した。
そこにあったのは、親指と人差し指で丸を作ったくらいの大きさの、黒い石だった。

「黒曜石?」
「違うな。これは、世界に一つだけのおまえの石だ。手に取ってよく見てみろ。黒だけど黒ではない」

父さまに言われて、指で摘んで持ち上げる。
天井に灯る灯りにかざしてみると、光の当たり方によって赤く見えた。

「あ、赤くなった。へえ…綺麗な石だね」
「当たり前だ。王家の石だからな。カエン、もっとよく見てみろ」
「まだ何かあるの?」

今度は、光を当てながら、石を目の前にまで近づける。

「あ!中に緑色が見える!」
「そうだ。それは、おまえの石だ」
「俺の?」

石を見るのをやめて、父さまを見る。
父さまは、壁にもたれて腕を組み、深く頷いた。

「そうだ。俺も、俺の石を持っていた。赤い石で中を覗くと緑色が見える石だ。王族が生まれると、王家所有の採石場から、その王族に因んだ石が採れる。その石は、おまえが生まれた時に採れた、おまえの石だ。おまえが大きくなるまで、大切にしまっていたんだ」
「へえ、王族の石なんてあるのか。俺の髪が黒いから黒なんだな。それで、父さまの石はどこに?」
「カナに渡した。俺に似た俺の石だからな。カエンも、その石を大事に持っておくように。そしていつか、大切な人が出来たら、渡してやるといい」
「わかった。大事にする。ありがとう、父さま」

俺は、黒く輝く石を、もう一度光に照らしてみる。黒く赤く発色し、チラチラと緑が見えるその石が、とても美しく思えて嬉しくなった。




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