炎の国の王の花

明樹

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オルタナはバルコニーから一気に高く翔び上がり、警備の者に見つからないように暗闇の中を静かに翼を動かして城壁を越える。そのまま街を抜け灯りの一切見えない森へと向かって進む。
その間にも俺は、ずっと頭の中で響く声に頭痛を覚え、額から汗を流して唇を噛んでいた。

「カエン…大丈夫?苦しそうだよ」
「うん…」

もう大丈夫だと言う気力も残っていなかった。身体の中に渦巻く衝動を早く吐き出したくて、辛うじて月明かりで見ることの出来る真っ黒い森の木々を見つめていた。
街からもかなり離れ周囲に家がないことを確認すると、森の中に現れた、湖面に月を映す大きな湖の近くに降りた。
俺は転げるようにオルタナから飛び降りると、岸辺へと走り、足を踏ん張って立った。そして大きく息を吸うと、両手を湖の湖面に向けて、身体の中の衝動を全て吐き出した。
両掌から黒い雷がいく筋も飛び出し、湖面の上を走る。バチバチと鋭い音を立てながら気が済むまで黒い雷を吐き出すと、ようやく胸の中がすっきりとした。

「はあ…一体何だっていうんだ…」

両手をだらんと身体の横に垂らして呟いていると、いきなり背中に衝撃を感じた。予測もしていなかった衝撃に、前によろけて湖に落ちそうになる。何とか踏みとどまって振り向くと、ハオランが背中から俺にしがみついていた。

「ハオラン、どうしたの?」
「もう…大丈夫?」
「うん、大丈夫。心配かけてごめん…」
「よかった…」

ゆっくりと見上げてくるハオランの目の周りが、赤くなっている。以前は俺を殺そうと容赦なく襲ってきたくせに、今の泣きそうな顔を見て、俺は思わず吹き出した。

「なんて顔をしてるんだよ。出会った瞬間、俺を襲ってきたくせに」
「あの時は…ごめん。今はそんな気全くないから。むしろ、カエンのことは絶対に守りたいと思ってる!」
「ほんとに?ふふ…ありがとう。ハオランは、さっきの俺を見ても怖くないのか?」
「なんで?だってカエンは、誰にも迷惑をかけないように、ここまで翔んで来たんだろ?そんな優しいカエンのこと、怖いなんて思うわけない」
「そっか…」

俺は、くるりと身体の向きを変えると、正面からハオランを抱きしめた。
ハオランの身体が一瞬強ばったけど、すぐに力を抜いて俺の胸に頬を寄せる。月の微かな光りの中ではよくわからないが、ハオランの顔が赤く染まっている気がする。
俺はハオランの背中をとんとんと叩いて、静かに話した。

「ハオラン、俺はこのまま父さまがいる城に向かおうと思う。ハオランはどうする?」
「え?カエンの父上の所に?お、俺も行く!一緒に行ってもいいっ?」
「いいけど…俺、また今みたいにおかしくなるかもしれないよ?」
「大丈夫。いざとなれば俺が助けてあげる」
「ふっ、そう?何か頼りないけど期待してるよ」
「任せてっ」

満面の笑みで顔を上げたハオランを見て、ドス黒いものが吐き出されてポッカリ空いた穴の中に、暖かいものが流れ込んでいく気がした。

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