炎の国の王の花

明樹

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「逃げるなっ、くそっ!」

霧で真っ白になった牢の中で、俺の罵倒が大きく響く。
「カエン様!」とリオに呼ばれて、腕を強く引かれた。

「大丈夫ですかっ」
「大丈夫だ…くそが」
「ああっ、またそんな汚い言葉を使って」
「使わずにいられるかっ!逃げられたぞ!」
「ええっ!」

リオが驚き、手を大きく振って霧を霧散させながら、牢の奥を凝視する。その間に、俺の声を聞いたアレン王子とナジャも入ってきた。アレン王子が上着の袖で鼻と口を押さえながら、心配そうに俺の顔を見る。

「カエン王、苦しくないっ?」
「これは毒霧ではないから苦しくない…けど、悪かった」
「なぜ謝るの?」

ようやく霧が消えてきた。よく見えるようになった牢の中のどこにも、男の姿はない。
俺はぐるりと見回して、アレン王子とナジャにもう一度謝った。

「水の国の罪人を逃がしてしまった、申しわけない」
「だからカエン王は何も悪くないだろう?」

アレン王子が袖を口から離して、俺の肩に手を置く。
アレン王子…やっぱり俺よりも背が高いな、羨ましい。ふとそんなことを考えて、慌てて小さく首を振る。

「ナジャにも、申しわけない。俺が結界を解けと言ったから、目の前で男を逃がしてしまった。結界が張られたままなら逃げられなかったのに」
「アレン王子も仰られましたが、カエン王のせいではありません。先ほど毒霧を使うとカエン王から聞いてましたが、まさか姿を消すこともできるとは…何とも不思議な魔法です」
「ああ、俺もこのことは、ハオランから聞いてなかったから驚いた。しかし困ったな。ハオランが戻ってくる手がかりが掴めると思ったのにな」

ふう…とため息をつく。
ハオランを連れ戻せる可能性の一つが消えてしまった。やはり出会った森で待つしかないのか。

「しかし、あの男はどこに行ったんだ?」

俺は地面に膝をついて、男が立っていた場所の石畳を触る。何も変わったところはない。ただの無機質な石だ。ビクとも動かないから下に穴があるわけでもない。
再びため息をついて立ち上がると、振り返り後ろにいたアレン王子にたずねた。

「アレン王子、湖側の壁はそこか?」
「そう。ほら、上部に丸い栓があるだろう?あの栓を外すと水が流れ込んでくる」
「ふーん、人が通れる大きさじゃないな」
「うん、あそこから逃げるのは無理だよ。栓を外すなり大量の水が流れ込んでくるから」
「流れ込んできた水はどこに流れる?」
「そこ。通路にも丸い栓があって、あそこから地下に流れるの。地下から湖に戻るようになってる」
「へぇ、うまく循環してるんだな」

男を捜さなければと焦るけど、どこを捜せばいいのか全くわからない。そのせいか、焦る気持ちがある一方で落ち着いている。
なので俺は水責めの仕組みを聞いて、さすが水の国だなと感心していた。


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