溺れる天使は悪魔をもつかむ

明樹

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休日の二人

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「こんなことならルリスの部屋でよかったんじゃないか?」
「ここでいいだろうが。文句があるなら俺に触るな。自分でするから帰れ」
「嫌だ。ごめん。もう言わない。俺に包帯を変えさせてください」
「…丁寧に巻けよな」
「もちろん。ルリスの指は長いなぁ。ピアノとか弾いてなかったのか?」
「…うるさい」

 エイルリスはアレンから顔を背けると、窓で揺れるカーテンを見た。


 怪我をした翌日の今日、週末で学園は休みだ。
 昨日、学園常駐の医師から包帯と消毒薬をもらって寮に帰った。夜、風呂に入ってから包帯を外して傷口に消毒をし、新しい包帯を巻こうとして巻けなかった。仕方なく適当に包帯を巻いた上にタオルで縛って寝た。
 しかし傷がズキズキとして、ほとんど眠れない。大きくため息をつき、エイルリスは真っ暗な中、上体を起こして、怪我をしている右手に左手を重ねた。人間にはない不思議な力で傷を塞ごうとした。でもやめた。わずかな力でも使いたくない。少しでも多く、力を溜めておきたい。確実に目的を果たすために。
 今度は小さくため息をつき、横になる。目を閉じながら、毒草を見つけた森の中の情景を思い出す。
 あそこは、まだまだ興味深い毒草がありそうだった。薬草もありそうだが。それに、俺が手を切ったガラス瓶、あの時は気にも止めなかったが、薬や毒を入れる瓶ではなかったか?なぜあんな所に捨ててある。それとも故意に埋めたのか?誰が?人間か?それとも人ならざる者の仕業か?学園生活は退屈だと思っていたけど、面白くなってきた。
 エイルリスの口角が上がる。しかし、すぐに不満そうに下がった。アレンのことを思い出したから。
 やはり面白くない。あいつが付きまとってくるせいだ。なぜ、俺につきまとう。まさか、俺の正体に気づいた?…まさかな。あいつは人間だ。俺の正体には気づけない。学園内の天使や悪魔ですら気づけないのだから。
 そんなことを考えていたら、いつの間にか眠っていた。そしてまた、悪夢を見た。

 いつものようにカラスの鳴き声で目覚め、起き上がろうとして、シーツに血がついていることに気づいた。右手を見ると、包帯が取れていた。

「はあ…。医務室に行くか。休みだけど医師はいるだろう」

 エイルリスは、何とか片手で顔を洗い髪を整え、服を着替えて部屋を出た。
  休日なので、起き出している人は少ない。誰もいない通路を進み、ポインセチア寮を出た所で、「ルリス!」と声をかけられた。
 横を向くと、アレンがいた。
 爽やかな笑顔で「おはよう」と近づいてくる。

「なぜここにいる…」
「ルリスに会いに来た。ルリスはきっと早起きだろうなと思ってさ、早く来て正解だったよ。食堂に行くんだろ?一緒に朝食を食べよう」
「行かない。医務室に行く」
「え!傷が痛いの?」

 エイルリスは説明するのも面倒だと、右手に巻いていたタオルを外して、アレンの顔の前で手のひらを見せた。

「ええっ!これ、傷が開いてない?いつ?朝まで我慢してたのかっ?ああっ、俺、ルリスの部屋に泊まればよかった!すぐに消毒して巻いてあげられたのに!」
「バカか。寮を行き来して泊まることは禁止されているだろう」
「でも、事情があれば許可が降りたはず!今夜、寮長に相談してみる!」
「しなくていい。もう行っていいか?俺は早く医務室に行きたいんだ」
「あ、そうだな!俺も行く!」
「来るな」
「行く!」

 エイルリスは最大限に嫌そうな顔をして、アレンに背を向けて歩き出す。
 ここで言い合いをする時間も無駄だし、疲れる。それにアレンは、どんなに拒否しても折れない。絶対について来る。すごく頑固な気がする。
 昨日、アレンがエイルリスのことを、何となくわかってきたと話していたが、エイルリスもアレンのことが、何となくわかってきた。人懐こく優しそうに見えて、自分の意思を曲げない。折れない。こういう人物が、一番やっかいだ。

「面倒臭い奴に目をつけられたな…」
「ん?なに?」
「……」

 思わず漏れたエイルリスの本音に、アレンが反応する。
 エイルリスは無視したまま、歩き続けた。
 そして、二人で医務室に来た。来たものの、医師は不在だったので、アレンが消毒をして包帯を巻いてくれたのだ。


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