狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 ぼんやりと考え事をしていたら、馬の足が急に止まった。街までまだ半分以上も残っている深い森の中で止まられたら、さすがの楽天的なリオでも困ってしまう。

「おい、どうしたんだよ。出る前にたらふく餌を食っただろ?水も飲んでたじゃん。早く進んでくれな…」

 突然、馬の鳴き声が聞こえて顔を上げる。
 リオが乗ってる馬が鳴いたんじゃない。木々に隠れてわかりづらいが、数十メートル先で、首を振る馬をなだめようとする騎士がいた。
 リオは「うわぁ」と同情の声を出す。

「大変そうだな…でも俺の知ったことじゃない」

 リオは大きく迂回しようと手綱を握る。
 リオは騎士という人間が嫌いだ。人を殺す剣を持ち、その手は血塗られている。それに身分の低い者に対しての横柄な態度。心底腹が立つ。
 リオは騎士を見ないように大回りをして通り過ぎようとしたが、どうにも暴れる馬が可哀想になって、気がついたら馬を止めて騎士の前に立っていた。
 騎士がギロリとリオを睨む。怖い。この騎士の顔が怖い。紫色の瞳も冷たくて怖い。それにデカい。見上げなきゃ顔が見れない。首が痛いじゃんかよムカつく。やっぱり関わるんじゃなかったと後悔しかけたけど、暴れる馬が気になり口を開いた。

「あのさ、この馬、腹が減ってんじゃないの?餌与えてる?」
「…昨日の朝以来、何も与えていない」
「はあ?じゃあ水は?」
「夜に少しだけ」

 リオは、はあっと大きく息を吐き出し、荷車の袋を掴む。そして人参を手に持つと、暴れる馬に近づき首を撫でた。

「よしよし、腹が減って怒ってたんだよな。ほら、これを食え。他にもいろんな野菜があるから、食えるだけ食っていいぞ」

 リオが首に触れると、馬はピタリと首を振るのをやめ、大人しくなった。そしてリオの手の人参を、むしゃむしゃと美味そうに食べ始めた。

「おっ、いい食いっぷりだな!ほら、好きなの食えよ」

 袋を逆さにして、馬の前に野菜を置いてやる。
 馬はリオを見てヒンと鳴くと、次から次へと野菜を食べていく。
 リオがその様子を目を細めて見ていると、いきなり「すまぬ」と低い声がして、飛び上がるほど驚いた。

「うわっ!…びっくりしたぁ。いきなり話しかけんなよ」

 騎士の頬がピクリと震える。
 あ、怒鳴るのかと身構えたけど、騎士は怖い顔のまま静かに続けた。

「驚かせてはいない…。助かった。急いでいたから、馬に気を配ってやれなかった」
「大切な馬なんだろ?もっと気にかけてやれよな」
「なぜ…大切だと?」
「ん?だって綺麗な毛をしている。よく手入れされてなきゃ、こんな風にならないだろ?」
「そうか。ところでおまえはどこへ行く」

 今度はリオの頬がピクリと震える。初対面でおまえ呼ばわりすんな。だから騎士は嫌いなんだ。
 
「リオだよ、俺の名前。おまえじゃない」
「…悪かった。俺の名はギデオンだ。それでリオはどこへ行く?」
「街に野菜を売りに行くんだよ。でも半分やっちゃたしなぁ。仕方ない、今回はただ働きで…」
「買う」
「はい?」
「残りの野菜も買う。いくらだ」
「えっ、いいの?ありがとう!」

 リオは満面の笑みで礼を言う。リオの笑顔は全ての人を魅了する。そう自負していたのだけど。
 この騎士…ギデオンは、思いっきり眉間に皺を寄せて、まるで汚いものを見るような目でリオを見た。
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