狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 いきなりぷっと吹き出したギデオンの顔を見て、リオは驚き固まった。
 ギデオンが笑ってる!初めて見た…。
「なんだ、その気の抜けた声は」と言いながら、尚も笑い続けている男の顔に、リオは見とれた。
 いつも怖い顔のギデオンが笑うと、まるで子供のように幼く見える。そうか、笑うとこんなにも印象が変わるのかと感激すらしてしまう。
 リオの視線に気づき、ギデオンの顔が瞬時にいつもの怖い顔に戻る。

「ああっ…」
「なんだ」
「ギデオンの笑った顔、もっと見ていたかったのにぃ」
「騎士たるもの、ヘラヘラ笑ったりはせぬ」
「え~、楽しいことがあったら笑うだろ?笑うと元気が出るんだよ」
「は?なんだそれは」

 リオはシャツを元に戻して起き上がりベッドに腰かけると、足元のアンを膝の上に抱き上げた。
アンの頭を撫でながら話を続ける。

「母さんがよく言ってた。笑うと自分だけじゃなく、周りの人も元気にさせるんだよって。だからさ、俺は多少の辛いことも我慢する。できるだけ、笑顔でいるようにしてるんだ」
「無理には笑わなくてもいいのではないか?」
「俺はさ、一人で旅をしてるけど、いろんな人の協力が必要なんだ。実際、今までたくさんの人に助けてもらったよ。それは、俺が明るく笑顔だったから。だから助けてくれたんだ」
「そうか」

 そう言って、ギデオンが黙ってしまう。
 リオもアンの頭を撫でながら黙っていたけど、ハッと顔を上げた。

「あ、そうだった。ギデオンはどうして俺を捜してたんだ?」
「ああ、それは」

 ギデオンがリオの目を見つめる。
 本当にきれいだなと、リオは紫の瞳に吸い込まれそうな感覚におちいる。
 ギデオンがリオの髪を指で摘み上げ、顔を近づける。そしておもむろに匂いを嗅ぐと、「臭い」と言い放った。

「はあっ?」
「煙草と酒と焼けた肉の匂いがついてる。先に風呂に入れ。俺についてこい」
「ちょっとなに言ってるのかわからないんですけど」
「俺が泊まってる宿に来いと言っている」
「行かない。アンを置いてけない」
「動物も泊まれる宿だ。美味い飯もあるぞ。それについて来たら、この前渡し忘れた代価を渡そう」
「…行く」
「よし。では荷物をまとめろ」
「なんで?」
「ここを出るからだ。おまえ、もうあの店では働けないだろう?」
「……」

 そうだった。あいつらが悪いとはいえ、客とめ事を起こしたんだ。店長は優しいから許してくれそうだけど、俺がもう、あの店には行きたくない。
 リオは「わかった」と頷くと、手早く少ない荷物を袋に入れた。その袋を自然とギデオンが持つ。

「自分で持つ」
「いい。俺が持つ」

 冷たい言い方だけど、俺が怪我をしてるから持ってくれるんだ、優しいなとリオは思う。
 リオはいつものように肩からかけた鞄にアンを入れると、ギデオンの後に続いて小屋を出た。

 

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