笑う死体 2

真翔

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森 千影の願い〜貴方だけの私になりたい…。

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毎朝、福永輝美にLineしてから登校するのが私の日課だ。

輝美は私の幼馴染で、凄く綺麗な子なんだ。
うちのお父さんは元々は外交員で私は一人っ子だったから、おんなじ一人っ子の輝美の家族とは家族ぐるみの付き合いだった。
双子みたいにいつも遊んでた。
輝美は負けん気が強くて、私がいじめられて泣くと直ぐに正義のヒーローみたく助けてくれてた。

日に焼けて明るい輝美、青白くて運動も出来ない私。
羨ましいな、っていつも思ってた。

子供の頃はフランス人形みたい、ってよく近所の大人に可愛いがられた。
大嫌いなくせ毛や栗色の髪。

私はその事で小学校でいじめられたりもした。
「お前のお父さんって外人なんだろ~~!本当のお父さんじゃ無いんだぜ~~!」

私は直ぐに泣いてしまう。
すると、泥だらけの(笑)
サラサラの黒髪のヒーローが駆けつけてくれるのだ。

「輝美…。」

グスン、グスン泣く私に、仁王立ちした輝美ヒーローは、

「泣くな!見返してやれ!」

と、怒鳴っていじめっ子を退治してくれた。

その後、お父さんは病気になって、お母さんは支える為に働きに出た。
病気にかかる費用は膨大…。
お父さんは多くは語らない人だったけど、いつも私の頭をポンポンって叩いた。

大きな男人の手…。
凄く安心した記憶がある。

その後お父さんが急に田舎にお墓まいりしたいって言い出して、3人でお墓まいりをした。

お父さんが、立っているのを見たのは、それが最後。

彼岸花が咲いてた。
どこか遠くをお父さんは見つめてた。

凄く綺麗で、なんだか寂しかった。

……………


Lineの目覚まし音が部屋中に響く。
「輝美に連絡しないと…。」

Lineを入れる。
返信なし。
いつもの事…。
昨日のインスタでは合コンに行ってたようだ。

後少ししてから連絡しよう。

うちのお父さんが病気になる前に、輝美が大泣きして、家に来た事がある。
「これから、きちんとしなさいって言うんだ!お父さんとお母さん、なんかデカイ仕事するだって!
二人とも家に居ないんだ!
私を見てくれ無いんだよ!」

気の強い輝美はその日ワンワン泣いた。
その日の事は忘れない。
今まで守ってくれて、ありがとう。
私が今度は輝美を守るからね。
私は輝美を抱きしめた。
その日輝美の両親が迎えに来る事は無かった。
朝まで二人で眠って、
目が覚めたら、輝美は私の部屋の姿見の鏡の前に仁王立ちし、
「千影!ありがとうね!
私は負けない。一緒に学校行こ!」
って、(笑)
すんごい腫れた目擦りながら言ったんだ…。



輝美から返信が来た。
見てみると
(今日は休む。)
「やっぱり…。」
今日は一人で登校だ。

部屋の向こうからお母さんの声がする。
「千影…、お父さん、起こして来て…。」

「……。」
お母さんは何年か前から精神障害を患っている。
お父さんが亡くなると糸が切れた様になってしまった。
お父さんには女が居たとか、妄想が酷い。
たまにカンシャクをおこす事もある。
今はほぼ寝たきりだ。
「お母さん、叔母さんが来てくれるから。学校行ってくるね…。」

古い家の玄関を出る。
小さな庭だけれど、桜の木がある。
今年も咲いてくれた。
昔はここで両親と千影、千影の両親、叔母さんとお花見したっけ。

叔母さんはお母さんの妹だ。
ずいぶん歳上の資産家と結婚したが、直ぐに旦那さんは亡くなった。
今は精神的にも金銭的にもお母さんを助けてくれてる。

毎日の通学路、右を歩く太陽みたいな輝美が居ないと寂しい。
春とはいえ、また朝は肌寒い…。
色々なお店が立ち並ぶ街並みに行き着くまでに、昔ながらのフラワーショップがある。
フラワーショップ藤田。
お父さんが最後に眺めていた彼岸花を店頭にいつも並べてくれているから、私は大好き。
今は息子さん夫婦が切り盛りしているけれど、店の前の椅子に腰掛けているおじいさんが昔はバリバリ働いていたらしい。
おじいさんは少し先の公園を眺めて目を細めている。
もう、あまり耳も聞こえていないと風の噂で聞いた。

こちらに気づいた様子なので、
ペコリと頭を下げた。
歯の無い口を開けて、満面の笑顔で会釈してくれた。

…………………

学校に着くと輝美が居ないせいか、私には誰も反応しない。
いつも通り席に着く。
私は雑草だ。
綺麗な薔薇の足元に生える雑草。
誰にも見えやしない。
でも、いいんだ。
私は薔薇が映える様に振る舞うの。
もう二度と、泣かせはしない。

川田君が登校して来た。
「おはよ。」
頭をポンポンとして席に着いた。

彼も色々家庭の事情があり、
私はお父さんの形見の数珠のブレスレットをお守り袋に入れて持ち歩いているが、
彼はお母さんの形見のペンダントをお守り袋に入れて持っているらしい。

この前、体育の時にお守り袋が落ちたのを見ていたので拾って渡した。
お互い、人と関わらないし前々から軽く会話は交わしていたけれど、
私もお守り袋を見せて
「一緒だね!」
と言うと、色々話してくれた。

頭をポンポンって叩いてくれると、お父さんを思い出す。
そんな思い出も彼にだけは話せた。
川田君は折にふれ頭をポンポンしてくれる様になった。
口数の少ない川田君はなんだかお父さんに似ていた。
 
輝美は最近川田君が気になっているようだ。
好きなんだろうか…。
インスタには色々な男の人が写っているけれど、川田君の闇は深い…。気がする。
川田君は大好きだけれど、輝美が一緒に写真を撮っている人達とは違う…。

お父さんが池のほとりの小山の上に並ぶお墓の隅で
何かを思い出す様に彼岸花を眺めていた。
子供ながらに秘密を持つ切ない表情だった事を覚えている。
とても綺麗で胸が苦しくなる様な…。

そんな父を思い出させる川田君。

輝美を守らなきゃ…。

…………………

放課後、今日は輝美が居ないので、写真に付き合わせられる事は無い。
西陽の中、ゆっくりと歩いて帰る。

フラワーショップ藤田の前で立ち止まる。
彼岸花が綺麗だ。彼岸花の前にしゃがみ込んだ。

いつもの椅子にいつもの様に
おじいさんは腰掛けて、公園を眺めていた。

「そいつはなぁ…」

おじいさんが突然話し始めたので、びっくりした!

「そいつはなぁ、また会いましょうって花言葉なんだよ…。
毒があってなぁ、嫌うもんもおるが、
会いたい、会いたいって想いが燃える様な赤い花を咲かすんじゃ無いかとワシは思う。

はみず、はなみずって言うてな。
葉が出る時には花が無し。
花が咲く時きゃ葉は出ない。

天界でやっと巡り合えるのかも知れんね。」

そうれだけ話すとおじいさんは公園を眺めて黙り込んでしまった。
ヒラヒラとクロアゲハが舞う。

「お父さん!そろそろ中に入らないと冷えて来ましたよ~~!」

お嫁さんだ。
お嫁さん、といってもずいぶん歳がいっている。60代位だろうか。
おじいさんはいったい、何歳なんだろう…。

フガフガ言いながら、お嫁さんに連れられて、ヨボヨボ店内に入る。
少しこちらを向いて、歯の無い笑顔でニッコリ笑った。

…………………

前々から、wishと言うサイトにアクセスするのだが、全然繋がらない。
思いが深いほど、アクセスの可能性があるのだとか。

最近では、川田君と3人で帰る事が多くなって来た。
輝美はご機嫌だが、何か深く考え込む様にもなった。
川田君の事、やっぱり好きなんだろうか…。

凄くいい人だし、大好きなんだけど…。
輝美が遠いところに行ってしまいそうな気がして不安になった。
「この前、川田君の事を好きなのか確かめてみたけど、そんな感じでも無かったんだけどな…。」

輝美のインスタを確認する。

「!!!!!!!!」

凄い誹謗中傷だ!

一人のコメントを皮切りに、とてつもない悪口が書き込まれ続けた。

「インスタなんか辞めさせなきゃ。
輝美が傷ついてしまう…。」

………………………

翌日、案の定、学校の皆んなの態度が急変した。

所詮、輝美の事なんて深く知りもしない奴等だ。
今までギャアギャア騒いでいたのに、輝美は一人で呆然と立っている。

「おぅ、おはよう。」
川田君だ。
2人で目配せして、輝美を教室へ。

あぁ、どんなに傷ついたんだろう…。
インスタなんか、辞めちゃえ!
私が今度は守るから。

でも、チビでひ弱な私は側にいて、輝美に光を当ててあげる事しか出来ない。
自信が無い。

隅っこで下手くそな笑顔で、笑う事しか出来ない。

…………………

家に着いてから思い悩んでいると、叔母さんが部屋に入って来た。

「なんか、悩んでる感じだね。」

「………。」

私の想いなんて話す事は出来ない。
まさか、友人の事を、幼馴染の事を、女性を、愛してしまったなんて…。

泣き虫な私の頬を涙が溢れ落ちた。
苦しくて、言えなくて、胸が張り裂けそう。

「あなたの気持ち、わかるよ…。」

叔母さんは言った。

わかる訳なんかない!

「心が限界の様だから告白するけど…。」

叔母さんは話し出した。

「私は、姉さんが好きだったの。」
「!!!!」

叔母さんは話しを続けた。

「双子で生まれて、いつも一緒だった。
姉さんは負けん気が強くて、私は気が弱かったな。
いつも守ってくれた。
そんな姉さんが一度だけ、
泣いた事があったんだわ。

大好きな人が出来たんだと。」

叔母さんは、少しパニックにはなったけれど、どうして姉さんが泣くのかが分からなかったらしい。

「大好きな人の子供が産めない。」

お母さんは叔母さんに打ち明けたらしい。

私の曲がった愛で、姉さんにしてあげられる事…。

私のお腹を貸してあげる…。

「じゃぁ……」




「姉さんには、精子提供って事で話ししてあるけど、義兄は私が好きだったみたい。」

それを聞いて、何となく分かった。
お父さんは、叔母さん、
いや、私の本当の母親を愛していた事。


「どうやって、私を産んだの?」

「姉さんと私は血液型も同じ。
違うところは髪質だけ。
昔は病院騙す事位出来たよ。」

「お母さんなの…?」

「…うん。千影の事はずっと叔母さんとして見守り続けてくつもりだった。

でも、母親って、分かっちゃうんだよね。(笑)
子供が何で悩んでるか。
…輝美ちゃんだね?」

「…うん。」

衝撃の事実より、この胸の想いを分かってくれる理解者に安心した。

「たとえそれが罪だとして、でも自分が一番愛してると思うなら、精一杯やってみたら?
今、叔母さん、一番幸せなんだ。

姉さんと一緒に居て。

好きでも無い男とも結婚したけどね。(笑)
姉さん守って、死ぬ時は、生まれて来た時と同じ様に一緒に居たいな…。

後、貴方に話しておきたい事。
病気の事だよ…。

義理兄さんは難病だったね。
遺伝するかも知れない。」

叔母さんは、(お母さんは)真剣な顔で言った。

「分かってるよ。
いつまで居れるか分からないけど、輝美が大好きなんだ。」

血色の悪い顔。ひ弱な身体。
守りたいのに守りきれない自分。

「あんたのお父さんは、凄く千影に懺悔して生きて来た人だと思う。
ただの、普通の人だよ。
異常な私を愛してくれただけ。」

叔母さんは部屋から出ていった。
本当のお母さんは、私に勇気をくれた。

…………………

深夜2時。
wish…。
サイトがやっと開いた。

蝶々の画面に望みを書き込む様に…。

輝美だけの私になれます様に

と入力した。

ペンダントや他にも色々アイテムはあったけど、
ピンク色に綺麗なブレスレットは、恋愛成就なんだって。
無理な事なんて分かってる。
でも信じてみたかった。

………………….

目が覚めたのか、布団から起きた状態だった。
机の下に置かれた小箱を開けようとしたとき、

「浮月鏡子と申します。」
窓辺に凄く綺麗な人が立っていた。

黒髪に、綺麗な着物を着て、優しく微笑んでいた。

「この箱はパンドラの箱。
あの子の為に、あの子と一緒に居る為に開けますか?」

私は躊躇なく、はい!と返事した。


浮月鏡子さんは、

「貴方と貴方の愛する人が、
また出会い、寄り添えるように、
願いが叶った時に代金を頂きに参ります。」
と言って、病院に入って行った。
………………

目が覚めた。
やはり夢か。

でも箱はある!
輝美…。

その後、ブレスレットを身に付けると、川田君から電話があった。

輝美のインスタにおかしな投稿があったと。


2人で輝美のマンションに行ったのが午前5時。インターフォンを押しても誰も出ない!!!!

ランニングの人の姿がパラパラ見える。
まだ、寝ているかも知れない。でも…。 

パニックに陥った私に、川田君は、頭をポンポンと叩きながら、
「好きにさせてやれよ。
あいつなりに考えて、幸せな結果なんだよ。
お前、アイツが好きなんだろ。」

川田君はすべて分かってるんだ…。
だから私は怖かったんだ。
でも、だから川田君が好きだったんだ。


「うん。 私はどうしたら…。」

「アイツの望みを叶えてやる事。
それをすべて受け止めてやる事。
俺が、側にいてやるから!」

ポンポンと頭を叩いた。

「うん…。」

それから一時間程した頃、輝美が舞って来た。
彼岸花が散乱し、綺麗な顔で笑ってた。
朝日が昇る頃だった。
見てほしい、見てほしいと訴えている様に…。

私はずっと貴方を魅ていた。
これからもずっと貴方だけの私。
貴方は私を離さない。
虫カゴの中の私。

私の望みは叶ったよ。
私は輝美だけのもの。もう誰も愛せない。
早く、鏡子さん!
輝美のところに連れて行って!!!!

頭の中で叫んだ。

川田君が、口を開いて、

「鏡子さんは、まだ来ない。」

「!!!!?」

「俺たちには、まだやるべき事があるんだよ」

よくは分からないけれど、輝美は幸せそうに笑って死んでいた。

冷えた手を川田君が握ってくれていた。
クロアゲハが輝美を輝かせる様に美しく舞っていた…。

川田君は初めて輝美のインスタに、黙っていいね、を押した。

私は、初めていいね、を押さなかった。
何故なら、クロアゲハに嫉妬したから…。
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