本能のままに

揚羽

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雑賀の国

再び紀州へ

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翌日

雑賀衆と信長達は早朝のうちに筒井順慶の元を後にした。

「鈴木殿、まだ早いのですからもう少しゆっくりしていかれてはどうですか?」

「いえ、筒井殿。我らは早く紀州へ戻らねばならぬのです。なんせ、信長が死んだのですからこれからの我らの方針を決めなければいけないゆえ。それにあまり長居しては筒井殿にもご迷惑でしょう。」

「そうでしたか。ならばお気をつけてお帰りください。信長様が亡くなられたことで大和の中でも暴れておる者がいるようです。」

「そうでしたか。教えていただきありがたい。それでは、筒井殿もお気をつけてくだされ。」

そうして雑賀衆と信長達は再び紀州へ向けて動き出した。

数時間後…

明智光秀から筒井順慶の元へ数人の兵が送られてきた。

「筒井殿!我らは明智の者である!城の中へ入れてもらいたい!」

「分かりました。どうぞ中へお入りください。」


筒井順慶居城 筒井城内

「筒井殿、単刀直入に申しあげる。我らは織田信長を討ち滅ぼしました。そこで我らに味方していただきたい。」

「やはりそうでしたか。信長様のことは我らの元にも伝わっております。」

「そうでしたか。ならば話が早い。すぐにでも我らに合流していただきたい。」

「合流?戦でもするのですか?」

「はい。おそらく羽柴秀吉が京へ向かっております。」

「そうですか。ただ我らもまだ信長様が亡くなられたことで混乱しておりまする。返答はもう少し後にさせていただきたい。」

「…分かりました。では意見がまとまりましたら京の明智軍本陣へお越しください。お待ちしております。」

「分かりました。ではそうさせていただく。」

「あぁ、それと、もう一つ。」

「もう一つ?どうされました?」

「この大和を雑賀衆が通って行きませんでしたか?奴らは我らが信長を討つときに邪魔をしてきたのです。そこで斎藤利三様を討たれてしまったのです。」

「…いえ、雑賀衆のことは知りませぬな。」

「そうでしたか。ならばこのあとに大和を通ろうとするかもしれませぬ。その時は通さぬようよろしくお願い致しまする。」

「それについても分かりました。それでは。」


明智の兵が去った後筒井の兵の一人が筒井順慶に問いかけた。

「順慶様、明智に嘘を申して良かったのですか?」

「大丈夫です。我らがやらねばならぬことは他にあります。」

「そ、そうでありますか。」

そう言うと兵は下がっていった。

「やはり、あの中にいたのは信長様でありましたか。信長様には色々とお世話になりましたから、それを返したことにしますか。」

「信長様、まだあなたに死なれては困ります。まだあなたにはやらなければならぬことがあるのでしょう?」

筒井順慶は紀州の方を向いてそうつぶやいていた。
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