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材料を求めて
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「あのミレリアムの一件の後、父はもう1度刀を作ろうとしました。
材料は全て返してしまっていたので、他の鍛冶屋仲間から融通してもらおうとしていました。
しかしミレリアムは全て回収されてしまっていたんです。」
「君のお父さんに材料を渡さないよう手を回されていたということか。」
「いいえ、そうではなく、ミレリアムの採掘鉱山が敵国に占拠されてしまったんです。
新たなミレリアムの入手が困難になり、残存するミレリアムは全て・・・」
「有用性の認められている魔法具の材料として回収されてしまったわけか。」
「その通りです。ミレリアムを用いた刀は全て溶かされて魔法具となりました。
ただし、父さんが作った1本目だけは、今でも王立武器庫に保管されています。その出来栄えがあまりにも素晴らしく"最上大業物"と判断されたためです。」
「最上大業物はどれくらい凄いんだ」
「刀の等級は4つあります。上から順に最上大業物(さいじょうおおわざもの)、大業物(おおわざもの)、良業物(よきわざもの)、業物(わざもの)となります。」
「ということは一番優れた刀と判断されたわけか。」
「そうです。この国に現存する最上大業物は10刀と言われています。」
刀を説明するジュゼは嬉しそうだ。
「それで・・・新たなミレリアムを手に入れる方法はないのか。鉱山が奪われたなら普通は取り返すだろう。」
「それが少々厄介で・・・鉱山は国境に近い場所にあるため、襲撃は隣国のシヴァールが行ったものと推測されています。ですが、シヴァール側は関与を否定しており、あくまで賊の仕業だと主張しています。」
「相手が公式的に否定しているなら賊という扱いで、何の気兼ねも無く派兵して取り戻せばよいだろう。」
「ですが、現王は穏健派でシヴァールを刺激したくないという考え、そして先の戦争で疲弊した兵を酷使したくないという思いから、派兵を見送っていました。」
「はっ、他国に侵攻されていて黙って見過ごすだと、そんな話聞いたことがない。」
「そこは先代の話がありまして・・・長くなるので説明は省きますが、兵を派遣出来ないままでいたところ、どんどん周辺の鉱山も占領されてしまい、今や資源の多くがシヴァールに流れ続けています。そして、いまやシヴァールは自分たちの弱点であった資源問題を解決し勢力を増しています。今、戦争が起きると、どちらが有利か分からないという状況に陥っています。」
「結果として戦争の火種になりそうな派兵が難しくなったわけか。事なかれ主義の末路だな。」
「しかし、このままではますます状況が悪化するばかりなので、こちらも非公式の部隊を編制しようという動きがあります。その部隊で鉱山を取り戻そうという計画です。ただし非公式の部隊なので表舞台に出ている人たちを使うことは出来ません。だから、僕たちのような日陰の人間に話が来ています。実力が認められ鍛冶屋として参加した者には、取り返した鉱山の資源を融通してもらえるという話になっています。」
「そんなことを部外者に話しても大丈夫なのか。」
「誰もが知っている噂ですよ。公式的には今回の募集の目的は明かされていませんが、おそらくこの件だと思います。」
「ジュゼの願いは、領地を取り戻す手伝いをして、報酬にミレリアムをもらいたいというわけか。」
「その通りです。そして、ミレリアムを正しい作り方、誤った作り方の二通りで作り、僕の用意した水が問題であることを証明できれば、父の疑いは晴れます。」
「そうなったら、ジュゼが今度は責められる番になるぞ。」
「構いません。父の名誉さえ取り戻せるなら、僕は命だってささげる覚悟があります。」
「子供にそんなことを言われて、喜ぶ親がいると思うか。」
「それは・・・」
ジュゼは言葉に詰まった。
「それにしても妙だと思わないか。」と首をかしげるヨネモリ。
「何がですか。」
「いや、どうして2回目の刀の検品はさせてもらえなかったのだろう、そう思ってね。」
「それは納期を急いでたからですよ。」
「いくら納期を急いでるといっても検品しないってあり得ない。」
「それは・・・」
「ハメられたって事はないのかな。」
「どういうことです」
「君のお父さんを失脚させたい何者かの陰謀が動いていた可能性はないのか。」
「そんなまさか。父は誰からも恨みを買うような人ではありませんでした。」
「だけど優秀な人だったんだろう。国で一二を争うと言われるぐらいに。ライバルを蹴落とそうとしたい奴がいたって不思議じゃない。」
「そんな・・・」
ジュゼは父親が誰かから恨みや妬みを受けていた可能性があると聞いてショックを受けていた。
「とはいえあくまで推測に過ぎない。そこは調べていくしかないな。」
「そうですね・・・」
重苦しい空気が漂う。これはしまったなとヨネモリは思った。
「そ、そういえば、刀の納品はいつなんだ。」
「あ、今日が期限です。いきましょう。」
そういうと、ジュゼは外に出る支度を始めることにした。
材料は全て返してしまっていたので、他の鍛冶屋仲間から融通してもらおうとしていました。
しかしミレリアムは全て回収されてしまっていたんです。」
「君のお父さんに材料を渡さないよう手を回されていたということか。」
「いいえ、そうではなく、ミレリアムの採掘鉱山が敵国に占拠されてしまったんです。
新たなミレリアムの入手が困難になり、残存するミレリアムは全て・・・」
「有用性の認められている魔法具の材料として回収されてしまったわけか。」
「その通りです。ミレリアムを用いた刀は全て溶かされて魔法具となりました。
ただし、父さんが作った1本目だけは、今でも王立武器庫に保管されています。その出来栄えがあまりにも素晴らしく"最上大業物"と判断されたためです。」
「最上大業物はどれくらい凄いんだ」
「刀の等級は4つあります。上から順に最上大業物(さいじょうおおわざもの)、大業物(おおわざもの)、良業物(よきわざもの)、業物(わざもの)となります。」
「ということは一番優れた刀と判断されたわけか。」
「そうです。この国に現存する最上大業物は10刀と言われています。」
刀を説明するジュゼは嬉しそうだ。
「それで・・・新たなミレリアムを手に入れる方法はないのか。鉱山が奪われたなら普通は取り返すだろう。」
「それが少々厄介で・・・鉱山は国境に近い場所にあるため、襲撃は隣国のシヴァールが行ったものと推測されています。ですが、シヴァール側は関与を否定しており、あくまで賊の仕業だと主張しています。」
「相手が公式的に否定しているなら賊という扱いで、何の気兼ねも無く派兵して取り戻せばよいだろう。」
「ですが、現王は穏健派でシヴァールを刺激したくないという考え、そして先の戦争で疲弊した兵を酷使したくないという思いから、派兵を見送っていました。」
「はっ、他国に侵攻されていて黙って見過ごすだと、そんな話聞いたことがない。」
「そこは先代の話がありまして・・・長くなるので説明は省きますが、兵を派遣出来ないままでいたところ、どんどん周辺の鉱山も占領されてしまい、今や資源の多くがシヴァールに流れ続けています。そして、いまやシヴァールは自分たちの弱点であった資源問題を解決し勢力を増しています。今、戦争が起きると、どちらが有利か分からないという状況に陥っています。」
「結果として戦争の火種になりそうな派兵が難しくなったわけか。事なかれ主義の末路だな。」
「しかし、このままではますます状況が悪化するばかりなので、こちらも非公式の部隊を編制しようという動きがあります。その部隊で鉱山を取り戻そうという計画です。ただし非公式の部隊なので表舞台に出ている人たちを使うことは出来ません。だから、僕たちのような日陰の人間に話が来ています。実力が認められ鍛冶屋として参加した者には、取り返した鉱山の資源を融通してもらえるという話になっています。」
「そんなことを部外者に話しても大丈夫なのか。」
「誰もが知っている噂ですよ。公式的には今回の募集の目的は明かされていませんが、おそらくこの件だと思います。」
「ジュゼの願いは、領地を取り戻す手伝いをして、報酬にミレリアムをもらいたいというわけか。」
「その通りです。そして、ミレリアムを正しい作り方、誤った作り方の二通りで作り、僕の用意した水が問題であることを証明できれば、父の疑いは晴れます。」
「そうなったら、ジュゼが今度は責められる番になるぞ。」
「構いません。父の名誉さえ取り戻せるなら、僕は命だってささげる覚悟があります。」
「子供にそんなことを言われて、喜ぶ親がいると思うか。」
「それは・・・」
ジュゼは言葉に詰まった。
「それにしても妙だと思わないか。」と首をかしげるヨネモリ。
「何がですか。」
「いや、どうして2回目の刀の検品はさせてもらえなかったのだろう、そう思ってね。」
「それは納期を急いでたからですよ。」
「いくら納期を急いでるといっても検品しないってあり得ない。」
「それは・・・」
「ハメられたって事はないのかな。」
「どういうことです」
「君のお父さんを失脚させたい何者かの陰謀が動いていた可能性はないのか。」
「そんなまさか。父は誰からも恨みを買うような人ではありませんでした。」
「だけど優秀な人だったんだろう。国で一二を争うと言われるぐらいに。ライバルを蹴落とそうとしたい奴がいたって不思議じゃない。」
「そんな・・・」
ジュゼは父親が誰かから恨みや妬みを受けていた可能性があると聞いてショックを受けていた。
「とはいえあくまで推測に過ぎない。そこは調べていくしかないな。」
「そうですね・・・」
重苦しい空気が漂う。これはしまったなとヨネモリは思った。
「そ、そういえば、刀の納品はいつなんだ。」
「あ、今日が期限です。いきましょう。」
そういうと、ジュゼは外に出る支度を始めることにした。
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