製造業 vs ファンタジー

新人

文字の大きさ
8 / 15

材料を求めて

しおりを挟む
「あのミレリアムの一件の後、父はもう1度刀を作ろうとしました。
 材料は全て返してしまっていたので、他の鍛冶屋仲間から融通してもらおうとしていました。
 しかしミレリアムは全て回収されてしまっていたんです。」

「君のお父さんに材料を渡さないよう手を回されていたということか。」

「いいえ、そうではなく、ミレリアムの採掘鉱山が敵国に占拠されてしまったんです。
 新たなミレリアムの入手が困難になり、残存するミレリアムは全て・・・」 
 
「有用性の認められている魔法具の材料として回収されてしまったわけか。」 
 
「その通りです。ミレリアムを用いた刀は全て溶かされて魔法具となりました。
 ただし、父さんが作った1本目だけは、今でも王立武器庫に保管されています。その出来栄えがあまりにも素晴らしく"最上大業物"と判断されたためです。」 
 
「最上大業物はどれくらい凄いんだ」

「刀の等級は4つあります。上から順に最上大業物(さいじょうおおわざもの)、大業物(おおわざもの)、良業物(よきわざもの)、業物(わざもの)となります。」

「ということは一番優れた刀と判断されたわけか。」

「そうです。この国に現存する最上大業物は10刀と言われています。」

刀を説明するジュゼは嬉しそうだ。
 
「それで・・・新たなミレリアムを手に入れる方法はないのか。鉱山が奪われたなら普通は取り返すだろう。」 
 
「それが少々厄介で・・・鉱山は国境に近い場所にあるため、襲撃は隣国のシヴァールが行ったものと推測されています。ですが、シヴァール側は関与を否定しており、あくまで賊の仕業だと主張しています。」 
 
「相手が公式的に否定しているなら賊という扱いで、何の気兼ねも無く派兵して取り戻せばよいだろう。」 
 
「ですが、現王は穏健派でシヴァールを刺激したくないという考え、そして先の戦争で疲弊した兵を酷使したくないという思いから、派兵を見送っていました。」 
 
「はっ、他国に侵攻されていて黙って見過ごすだと、そんな話聞いたことがない。」 
 
「そこは先代の話がありまして・・・長くなるので説明は省きますが、兵を派遣出来ないままでいたところ、どんどん周辺の鉱山も占領されてしまい、今や資源の多くがシヴァールに流れ続けています。そして、いまやシヴァールは自分たちの弱点であった資源問題を解決し勢力を増しています。今、戦争が起きると、どちらが有利か分からないという状況に陥っています。」 
 
「結果として戦争の火種になりそうな派兵が難しくなったわけか。事なかれ主義の末路だな。」 
 
「しかし、このままではますます状況が悪化するばかりなので、こちらも非公式の部隊を編制しようという動きがあります。その部隊で鉱山を取り戻そうという計画です。ただし非公式の部隊なので表舞台に出ている人たちを使うことは出来ません。だから、僕たちのような日陰の人間に話が来ています。実力が認められ鍛冶屋として参加した者には、取り返した鉱山の資源を融通してもらえるという話になっています。」 

「そんなことを部外者に話しても大丈夫なのか。」

「誰もが知っている噂ですよ。公式的には今回の募集の目的は明かされていませんが、おそらくこの件だと思います。」

「ジュゼの願いは、領地を取り戻す手伝いをして、報酬にミレリアムをもらいたいというわけか。」 
 
「その通りです。そして、ミレリアムを正しい作り方、誤った作り方の二通りで作り、僕の用意した水が問題であることを証明できれば、父の疑いは晴れます。」 
 
「そうなったら、ジュゼが今度は責められる番になるぞ。」 
 
「構いません。父の名誉さえ取り戻せるなら、僕は命だってささげる覚悟があります。」 
 
「子供にそんなことを言われて、喜ぶ親がいると思うか。」 
 
「それは・・・」 
 
ジュゼは言葉に詰まった。

「それにしても妙だと思わないか。」と首をかしげるヨネモリ。

「何がですか。」

「いや、どうして2回目の刀の検品はさせてもらえなかったのだろう、そう思ってね。」

「それは納期を急いでたからですよ。」

「いくら納期を急いでるといっても検品しないってあり得ない。」

「それは・・・」

「ハメられたって事はないのかな。」

「どういうことです」

「君のお父さんを失脚させたい何者かの陰謀が動いていた可能性はないのか。」

「そんなまさか。父は誰からも恨みを買うような人ではありませんでした。」

「だけど優秀な人だったんだろう。国で一二を争うと言われるぐらいに。ライバルを蹴落とそうとしたい奴がいたって不思議じゃない。」

「そんな・・・」

ジュゼは父親が誰かから恨みや妬みを受けていた可能性があると聞いてショックを受けていた。

「とはいえあくまで推測に過ぎない。そこは調べていくしかないな。」

「そうですね・・・」

重苦しい空気が漂う。これはしまったなとヨネモリは思った。

「そ、そういえば、刀の納品はいつなんだ。」 

「あ、今日が期限です。いきましょう。」

そういうと、ジュゼは外に出る支度を始めることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嘘はあなたから教わりました

菜花
ファンタジー
公爵令嬢オリガは王太子ネストルの婚約者だった。だがノンナという令嬢が現れてから全てが変わった。平気で嘘をつかれ、約束を破られ、オリガは恋心を失った。カクヨム様でも公開中。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

処理中です...