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【統計】数値化
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ジュゼの工房は店の裏側にある。裏で作り、表で売るよう間取りになっている。 居住スペースはそのどちらにも行き来できるように横付けされている。
食事を済ませたヨネモリは工房に入ってみた。
正直な感想は「さびれた鍛冶屋」である。道具達はキレイに掃除され、空間自体も整理整頓されている。だが使われている道具を見ると、どこか質の悪さを感じさせる。素人なので具体的な点は列挙できないが、そんなに良い道具を使っていないような印象を受けた。
その工房の真ん中には難しい顔をしたジュゼの姿がある。2本の刀をじっと眺めている。
「やはり、こちらの切れ味の方がよい気がする。でも、こちらも同じに思える。うーん・・・」
「刀の鑑定か。」
「どちらの刀が優れているかの比較です。刀の重さや、振ってみた感覚、風を切る音、そういったもので刀の良し悪しを比べています。」
「魔法の力で何とか出来ないのか。解析とか鑑定に使える魔法とか。」
「ヨネモリさんはご存じではないかもしれませんが、魔法ってそんな便利なものじゃないですよ。
よく言われるのが魔法は体から出す汗と同じです。単にそれが操作できるかどうかの違いです。」
「そう聞くと汚く感じるな。」
「ヨネモリさんは直感でどちらが良いと思いますか。」
「なぜ直感で決めようとする。客観的な数値で決めればいいじゃないか。」
「どういうことです」
ジュゼはヨネモリに走りよった。ヨネモリの目の前にジュゼの顔がある。
「近い。離れてくれ。」
輝く瞳を見て、露骨に嫌そうな顔をする。
「すみません、興奮して・・・。客観的な数値とはどういう意味です。」
「刀の良し悪しは、そもそも何で決まる。」
「それはもちろん刀の切れ味や、耐久度ですね。使用者を考慮して使いやすさが考慮されることもあります。」
「だったら、その切れ味を数値化してみればいいじゃないか。君の感想で良し悪しを決めてもそれを信じるか信じないかは人次第になるだろう。けれど数値にしてしてしまえば、そこには感情の入り込む余地はなく、誰が見てもいつ見ても変わらない数字があるわけだ。それはつまり客観的ということになる。」
「はぁ」
ジュゼはイマイチピンとこない
「同じ力でどれぐらい切れるかを比較してみればいい。まず紙を用意して、幾重にも重ねる。そして刀の刃を上に向けて固定させ、上に紙を乗せる。あとは重しで上から押し付ければ、押し付けられた紙が切れるだろう。その紙が何枚切れるかを比較してみろ。より多く切れた方の切れ味が優れているということだ。」
「なるほど・・・凄いですね。そんな方法今まで考えたこともなかったです。」
ヨネモリが脱走してきたジャモローでは一般的な方法なのだろうか。ジュゼはヨネモリのジャモローでの生活に少し興味が湧いた
「紙はあるのか。」
「すぐに持ってきます!」
そういってジュゼは工房を抜け出し、しばらくして大量の紙を持って戻ってきた。
早速二人は刀の刃を空に向けて固定させ、幾重にも重ねた紙を刃の上に乗せ石を乗せた。石の重みで紙は何枚かが切れて落ちていった。二人は落ちた紙を数えた後、もう片方の刀も同様に試した。
「100枚紙を置いて、1本目の刀は49枚、2本目は50枚切れたみたいですね。」
「なるほど。この測定の誤差が気になるところだが・・・そもそもジュゼはどちらの刀が優れていると感じていた。」
「2本目かなと思っていました。僕の直感と数値は一致しています。」
「そうか。それならば2本目の青い刀がより切れ味が優れているのかもしれないな。もちろん誤差の可能性もあるが」
「ありがとうございます。2本目の結果を依頼主に伝えたいと思います。」
ジュゼが満面の笑みでヨネモリにお礼を言った。ヨネモリはまんざらでもないという顔をしていた。
だが、ヨネモリはふと気になることがあった。
「ところでジュゼ、この2本が例の刀なのか。君のお父さんが作ったという・・・。」
「いいえ違います。」
「だとしたら、今回の仕事は君のお父さんの件とどう繋がる。」
「話せば長くなりますが・・・。」
ジュゼは重々しく口を開いた。
食事を済ませたヨネモリは工房に入ってみた。
正直な感想は「さびれた鍛冶屋」である。道具達はキレイに掃除され、空間自体も整理整頓されている。だが使われている道具を見ると、どこか質の悪さを感じさせる。素人なので具体的な点は列挙できないが、そんなに良い道具を使っていないような印象を受けた。
その工房の真ん中には難しい顔をしたジュゼの姿がある。2本の刀をじっと眺めている。
「やはり、こちらの切れ味の方がよい気がする。でも、こちらも同じに思える。うーん・・・」
「刀の鑑定か。」
「どちらの刀が優れているかの比較です。刀の重さや、振ってみた感覚、風を切る音、そういったもので刀の良し悪しを比べています。」
「魔法の力で何とか出来ないのか。解析とか鑑定に使える魔法とか。」
「ヨネモリさんはご存じではないかもしれませんが、魔法ってそんな便利なものじゃないですよ。
よく言われるのが魔法は体から出す汗と同じです。単にそれが操作できるかどうかの違いです。」
「そう聞くと汚く感じるな。」
「ヨネモリさんは直感でどちらが良いと思いますか。」
「なぜ直感で決めようとする。客観的な数値で決めればいいじゃないか。」
「どういうことです」
ジュゼはヨネモリに走りよった。ヨネモリの目の前にジュゼの顔がある。
「近い。離れてくれ。」
輝く瞳を見て、露骨に嫌そうな顔をする。
「すみません、興奮して・・・。客観的な数値とはどういう意味です。」
「刀の良し悪しは、そもそも何で決まる。」
「それはもちろん刀の切れ味や、耐久度ですね。使用者を考慮して使いやすさが考慮されることもあります。」
「だったら、その切れ味を数値化してみればいいじゃないか。君の感想で良し悪しを決めてもそれを信じるか信じないかは人次第になるだろう。けれど数値にしてしてしまえば、そこには感情の入り込む余地はなく、誰が見てもいつ見ても変わらない数字があるわけだ。それはつまり客観的ということになる。」
「はぁ」
ジュゼはイマイチピンとこない
「同じ力でどれぐらい切れるかを比較してみればいい。まず紙を用意して、幾重にも重ねる。そして刀の刃を上に向けて固定させ、上に紙を乗せる。あとは重しで上から押し付ければ、押し付けられた紙が切れるだろう。その紙が何枚切れるかを比較してみろ。より多く切れた方の切れ味が優れているということだ。」
「なるほど・・・凄いですね。そんな方法今まで考えたこともなかったです。」
ヨネモリが脱走してきたジャモローでは一般的な方法なのだろうか。ジュゼはヨネモリのジャモローでの生活に少し興味が湧いた
「紙はあるのか。」
「すぐに持ってきます!」
そういってジュゼは工房を抜け出し、しばらくして大量の紙を持って戻ってきた。
早速二人は刀の刃を空に向けて固定させ、幾重にも重ねた紙を刃の上に乗せ石を乗せた。石の重みで紙は何枚かが切れて落ちていった。二人は落ちた紙を数えた後、もう片方の刀も同様に試した。
「100枚紙を置いて、1本目の刀は49枚、2本目は50枚切れたみたいですね。」
「なるほど。この測定の誤差が気になるところだが・・・そもそもジュゼはどちらの刀が優れていると感じていた。」
「2本目かなと思っていました。僕の直感と数値は一致しています。」
「そうか。それならば2本目の青い刀がより切れ味が優れているのかもしれないな。もちろん誤差の可能性もあるが」
「ありがとうございます。2本目の結果を依頼主に伝えたいと思います。」
ジュゼが満面の笑みでヨネモリにお礼を言った。ヨネモリはまんざらでもないという顔をしていた。
だが、ヨネモリはふと気になることがあった。
「ところでジュゼ、この2本が例の刀なのか。君のお父さんが作ったという・・・。」
「いいえ違います。」
「だとしたら、今回の仕事は君のお父さんの件とどう繋がる。」
「話せば長くなりますが・・・。」
ジュゼは重々しく口を開いた。
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