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出会う運命だったのか

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「おはようございます。ヨネモリさん」 
 
2階から降りてきた男に対してジュゼは挨拶した。男はジュゼの視線の先を追うように後ろを振り返った。そこには誰もいない。 
 
「そうか。」

ヨネモリと呼ばれた男は何かを納得する。

「おはよう。」 

ニコリとヨネモリは微笑んだ。
 
「朝食を用意しましたので召し上がってください。」 
 
ジュゼは昨晩ヨネモリに会い、家に招き入れた。久しぶりの客人である。 
 
「ありがとう。いただくよ。」 
 
ヨネモリは食事に手を付けた。 
 
「あの、お食事中のところ申し訳ありませんが、昨晩の件、教えていただいてもよいですか。」 
 
ジュゼは食事中のヨネモリに本題を切り出した。 昨晩危機を脱したジュゼであったが、再び森の奥へ進むことはヨネモリに制止されてしまった。命の恩人の言うことを無碍にできないジュゼは家へと引き返した。だがその後一切の説明を受けていなかった。
 
「構わない。」 

「あの晩、私が森の奥へ進もうとしたとき、あなたは行っても無駄だと言いました。なぜですか。」

「光る柱を目の前で見ていたからだ。」

「目の前!」 
 
ジュゼは興奮して、机から身を乗り出した。 
 
「何が見えたんです!」 
 
「落ち着け。」

ヨネモリはジュゼの顔を手で押し返す。

「やはり、あのゼリー人間が神の使いだったんですか!」
 
「あれが何なのかはよくわからんが、あれは違う。」

「なぜそう言い切れるんです。」

「あそこに何もなかった。」 
 
「え。」 
 
「だから、何もなかったんだ。光の柱でまぶしいなと思って近寄ってみたが、その後には何もなかった。あのゼリー人間はその後別の場所で遭遇した何かだ。だからあれは違う。」 
 
ジュゼはがっくりと肩を落とし、椅子に座りこんだ。 

「君はなぜあの光にこだわる。」 
 
ジュゼはこれまでの自分の経緯、数年前の事件を含めてすべてをヨネモリに話した。
そして自分が窓から祈りをささげたとき森に光の柱が生まれたことを伝えた。ジュゼはそれが神からの救いだったに違いないと話した。
 
「”偶然とは思えない”タイミングで目の前が光り、そこに神の存在を信じたわけか。溺れるものは藁をもつかむと言うのは本当だな。」 
 
突き放した冷たい言い方だ。

「古い言い伝えに、神の使者に初めに出会えたものには1つ願いが叶えられる、とあります。あの光の主に出会えれば、父さんの濡れ衣だってはらせると思って・・・。」

ヨネモリの黙々と食事をすすめている。反応はない。

「ヨネモリさんだって偶然あの場所にいたことに何か意味があるとは思いませんか。」

ヨネモリの食事の手が止まる。

「どういう意味だ。」

「ヨネモリさんは、森の向こう側から脱走してきたんですよね。
 北のジャモローから脱走してくる人は毎年それなりにいます。僕もこれまで何名の方も目にしてきました。
 でも、脱走中に偶然光の柱と遭遇した人はアナタだけです。」

「亡命者・・・私が、あの光を見たのはただの偶然だと思っている。」

「そうですか。」

「ところでこれから私はどうすれば生きていけるのだろうか。」

「脱走者の支援団体があるので、そちらを紹介します。安心してください。もうここは安全な場所ですよ。」

脱走者がこの国で生きていくためには支援団体を頼るのが一般的だ。ジュゼはこれまでも何度も脱走者を迎え入れたことがある。

それゆえにヨネモリの態度にはやや違和感を覚える。今までみた脱走者達は皆何かにおびえていた。多くは脱走した後、追っ手が来ないかどうかを気にしていたりしたものだ。ここが安心だと投げかければ、安堵して号泣するものもいた。だが、目の前の男は眉1つ動かさない。あまりにも落ち着きすぎている。まるで何も感じていないかのようだ。街ですれちがっても、誰も脱走してきた人とは誰も気付かないだろう。ここまで心の強い人は見たことがない。

「すぐに支援団体の事務所へお連れしたいのですが、先に急いで片付けなければいけない仕事があるので、それからでいいですか。」

ジュゼには今日までに提出すべき難題が貸されている。

「かまわない。」

あの光の下へ行けば、神または神の使いに会えると思っていた。だが、現実はそう甘くは無かった。やはり自分の力だけで何とかするしかない。望みは薄いが最後まで全力を出し切ろう、ジュゼは少しだけ決意できていた。

それは目の前にいるヨネモリを見たからだ。

辛い境遇なのは自分だけではない。脱走者だってそうだ。辛い思いをたくさんしている。
でも、目の前に男のように強い心を持って生きている者もいる。自分もそうでありたい。
ヨネモリの態度に勇気づけられるジュゼであった。
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