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最終章 伝えたい言葉
伝えたい言葉は?
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「あの……アタシが神だったとか、アナタがアタシをどうにかしようとしているとか、何となく理解した。それで……レンガイって、誰? 前までのアタシって婚約の予定でもあったの?」
ようやく落ち着きを取り戻しつつあるプーアは訊ねる。その時、僅かに拍動が速くなったのをプーアは感じた。落ち着きつつも、まだ動揺しているようだ。
ちょんちょん。アンナプルナは右手の人差し指を自身の顔に向けた。懐疑的な目でプーアはそれを見つめる。
「たぶん、多分の予感なんだけど、アナタではないと思う」
「記憶の消去は完璧ではないとか言うけれど、それの影響かなー……僕ちんをレンガイくんだと完全に思い込ませて、もう万々歳。そのどうしようもない様子を見て彼は絶望するっていうストーリーを考えたんだけどなあ」
彼自身に語るように、アンナプルナはブツブツと呟く。彼はガッカリとした表情を見せた。――レンガイの顔で。今ごろ彼はどうしているだろうか、やはり僕ちんが仕掛けた罠にハマって無様に死んでいるだろうか。そんなことを考えると、どうしてもニヤけが止まらなかった。
「……そう、そのレンガイ。よく名前が出てくるけれど……誰?」
「レンガイくんがそんなに気になるかあ。記憶ってホントに消されたのかって心配になるよー。まあ、いいや。そこまで言うんだったら、本当のことだけを話してあげる!」
アンナプルナはよっこいしょと腰を下ろして、プーアと同じ目線を保つようにした。彼は非常ににこやかな表情で、ゆっくりと語り始める。
「レンガイくんはただの変態ストーカーだよ。もぅ、いっっつも君のことばっかり狙ってて、ずーーーっと付きまとっている男だよ。プーアちゃんの為だとか言って、土壇場で組織を裏切るヤツでもあるねー。プーアちゃんだけが唯一の心の支えだからか、ビシッと真っ直ぐな信念を持ってて、ブレることはほとんどない。僕ちんはそんな彼が青春物語の主人公な気がして、まあ個人的には気に入ってた。……彼の良いところは、組織を運営していく上では邪魔でしかなかったけどねえ。その立派な精神も、そして、君を純粋に愛しすぎているっていうことも」
悪意も多分に篭っているが、別にいいだろう。そんな偏った説明を、プーアは食い入るように聞いていた。
「……じゃあ、アタシもそのレンガイって男のことが、大好きだったの? だとしたらちょっとおかしいと思う。アタシはその説明通りの男が目の前に現れたら、助走をつけてでも殴り飛ばすけど」
「ハハッ! いいねえ、うーん、どうだったんだろうねえ。僕ちんは正直部外者の存在だから、そこまでは知らないよー。というかさ、プーアちゃん」
「用済みになった君はもうすぐに死ぬんだから、そんなことはどうだっていいだろう?」
それを言い放つ間に、徐々にプーアの目から光が消えていくのを見て、アンナプルナは堪らない幸福感を感じた。
そう、自分が求めていたのは、こういうことなのだ。人が死を覚悟した瞬間に見せる、絶望に歪んだ表情。これを見るために組織を立ち上げて、神として成り上がっていこうとしていると言っても過言ではない。僕ちんのことをゴミムシのように扱い、まさにゴミを見るような目でこちらを見つめてくるヤツら。ただただ単純に生意気なヤツら。それらを恐怖に陥れ、立場を逆転させた瞬間の、身体の奥から溢れでる感情といったら。
だが正直、プーアちゃんは期待はずれだった。予言スキル持ちのノエルちゃんが「コイツは危険だ」とか言っていたのを間に受けて、ここまでやってきたが、弱すぎる。今はもう人間だから仕方ないが、もうちょっと骨のあるヤツだと思ってたのだが。……コイツのスキルって、結局なんだったのだろう。
まあ、コイツの目を抉りだしてからグチャグチャになるまで遊んでやって、後は生きていたらレンガイくんと、時間の無駄遣いをさせやがったノエルちゃんを痛めつけよう。その前にプーアちゃんのお父さんでもいいかもしれないな。娘の無残な姿を見せつけてやるんだ。
そんなことを考えながら、アンナプルナはどこからともなく小さなナイフを取り出した。刃先をプーアの顔に向けながら、ニヤニヤと笑う。 プーアは恐怖に耐えきれなかったのか、大粒の涙を目に溜めていた。
あと1ミリでナイフの先端がプーアの目に触れそうというところで、何者かの非常に大きな叫び声が響き渡った。議院の入口前のこのだだっ広い空間を地声で反響させるのには相当な力がいる。不審に思ったアンナプルナはナイフを引き、辺りを見渡す。正直、アンナプルナにはその必要もなかったのだが。今このタイミングで、叫びながら登場する男なんて、アイツしかいない。
「これはこれは、てっきり死んだかと思っていたんだけれどね。ようこそ。ほら、君の女ならここにいる」
プーアをチョンチョンと指差すアンナプルナ。それを憤怒の篭った目で見る男――レンガイ。話をする余裕も余地もないと判断したのか、レンガイは既に構えのポーズを取っていた。アンナプルナは、レンガイが手に持つ『神殺し』をマジマジと見た。
「おやあ! それは『神殺し』じゃあないかー。ということは、君はゴンザくんさえも倒したというのか! いやあ、立派だ。史上最強の神さえも倒し、僕ちんの組織の特殊部隊もを投入したのに……それらをくぐり抜けてくるだなんて! ま、ご苦労だねえ! ここまできたのは褒めてあげよう。でも、君の目的は達成できそうにない。君が動いた瞬間、僕ちんはプーアちゃんを――」
その瞬間、アンナプルナの目前に居たのは、レンガイ。
――は?
いや、まてまて。この男、いつの間に僕ちんの前に?
そんな錯乱した彼の頭の頂点を、レンガイは素手で殴る。
「これは、プーアちゃんの痛み」
そしてレンガイはもう一発殴った。今度はこめかみを目がけて。なぜか『神殺し』は使わずに。
「これは、プーアちゃんの痛み」
さらに追撃がきたが、アンナプルナは流石にそれを受け止めた。レンガイは大きな音を立てて舌打ちをする。
「どうして止めるんだよ……喰らなきゃダメだろう……」
「な、何を言ってるんだ、レンガイくん」
ガッシリと受け止めたはずの拳が、徐々に力を増していく。少しでもアンナプルナが気を抜けば、すぐに打ち破られて顔面を直撃することだろう。
「プーアちゃんの感情を喰らえよ」
ミシ、という音がして、気がついた時には鼻が折れていた。
痛みでうずくまり、顔を押さえるアンナプルナ。ヒリヒリする皮膚を優しく撫でるうち、彼はあることに気がつく。
「あ、ああ……! 僕ちんの顔があ!!」
常に鉄仮面をしていて、決して人に見せることの無かった顔。先ほどまでは仮面を外してはいたものの、神のスキルによって「レンガイの顔」を作り出していた。しかし、全力で叩き込まれたレンガイの拳によって、その幻影は解除されてしまったようだ。
無数のシワや傷が刻まれた顔を見たプーアとレンガイは思わずゾッとするが、一番絶望を感じていたのはアンナプルナだった。
「ぼ、僕ちんの顔をよくもやってくれたなあ! もう設定とか、そんなのは抜きだ! おい、お前は絶対に殺してやる! そのキレイな顔をメチャクチャにしてやって、人前に出ることのできないようなヒドイ顔にしてやる!」
「……『神殺し』を使うのはプーアちゃんを助け出す最後の一手だけにしようと決めてたんだけど……こんなに明確な殺意を放たれては、そこにいるプーアちゃんが恐怖で泣きだしてしまう」
怒り狂うアンナプルナと、静かだがアンナプルナよりも力強い殺意を持つレンガイ。
感情を力に変える『神殺し』を握るレンガイに、武器も持たないアンナプルナが勝てるはずがなかった。
アンナプルナの大振りな攻撃を躱し、的確な箇所に短刀を刺しこむ。急所に攻撃を入れては、避ける。刺す。躱す。斬る。刺す。
気力で立ち続けているものの、アンナプルナはもう拳を振るおうとはしなかった。そんな彼に、レンガイは一歩一歩踏みしめながら近づく。その中で、アンナプルナは視界の片隅に映っていたプーアをチラッと見た。そして、ニヤつく。
「君は……自分の殺意の感情と、血しか求めていない『神殺し』に呑み込まれてしまったみたいだねえ。僕ちんを殺す前に……やるべきことがあったようだなあ!!」
「いや、目的は見失ってないよ」
アンナプルナは最後の力を振り絞ってプーアに向けて何かを発射したが、レンガイはそれをアッサリと受け止めた。逆転の一手すらも閉ざされてしまったアンナプルナは、その場に倒れ込む。レンガイが恐る恐る様子を確認したところ、気を失っているか死んでいるかの、どちらかのようだ。何にせよ、しばらく起きてくる心配は無さそうだ。
アンナプルナに手を合わせ、ゆっくりとレンガイは立ち上がる。そして、泣いて怯えているプーアのところへ向かい始めた。
――ああ、僕も結構無理そうだなあ。身体を酷使し過ぎたか。
「あ、あの……レンガイ……さん」
「やや、プーアちゃん。さん付けじゃあなくていつも通り呼んでよ」
レンガイはプーアの頭を撫でる。これが記憶のある元のプーアだったら殴り飛ばされていること必至であるが、今のプーアはそんなことはしそうにもない。嬉しいようで切なく、悲しい感情が彼の胸を支配する。
「別に、僕のことはどう思ったって構わないから。僕は、人間になった君が安全に暮らしてくれれば、もう、それだけでいい」
そう言って、彼はフラッとバランスを崩す。プーアは全身で彼が倒れるのを受け止めた。
「寝せてくれないか……プーアちゃん、君に伝えたい言葉があるんだよ」
床にゆっくりとレンガイを寝かせる。レンガイはプーアの顔を記憶するように、しっかりと見つめ、満足すると静かに目を閉じた。
「僕が伝えたい言葉は――まあ、いつもとあんまり変わらないかもしれないけれど」
「好きだ、プーアちゃん」
ようやく落ち着きを取り戻しつつあるプーアは訊ねる。その時、僅かに拍動が速くなったのをプーアは感じた。落ち着きつつも、まだ動揺しているようだ。
ちょんちょん。アンナプルナは右手の人差し指を自身の顔に向けた。懐疑的な目でプーアはそれを見つめる。
「たぶん、多分の予感なんだけど、アナタではないと思う」
「記憶の消去は完璧ではないとか言うけれど、それの影響かなー……僕ちんをレンガイくんだと完全に思い込ませて、もう万々歳。そのどうしようもない様子を見て彼は絶望するっていうストーリーを考えたんだけどなあ」
彼自身に語るように、アンナプルナはブツブツと呟く。彼はガッカリとした表情を見せた。――レンガイの顔で。今ごろ彼はどうしているだろうか、やはり僕ちんが仕掛けた罠にハマって無様に死んでいるだろうか。そんなことを考えると、どうしてもニヤけが止まらなかった。
「……そう、そのレンガイ。よく名前が出てくるけれど……誰?」
「レンガイくんがそんなに気になるかあ。記憶ってホントに消されたのかって心配になるよー。まあ、いいや。そこまで言うんだったら、本当のことだけを話してあげる!」
アンナプルナはよっこいしょと腰を下ろして、プーアと同じ目線を保つようにした。彼は非常ににこやかな表情で、ゆっくりと語り始める。
「レンガイくんはただの変態ストーカーだよ。もぅ、いっっつも君のことばっかり狙ってて、ずーーーっと付きまとっている男だよ。プーアちゃんの為だとか言って、土壇場で組織を裏切るヤツでもあるねー。プーアちゃんだけが唯一の心の支えだからか、ビシッと真っ直ぐな信念を持ってて、ブレることはほとんどない。僕ちんはそんな彼が青春物語の主人公な気がして、まあ個人的には気に入ってた。……彼の良いところは、組織を運営していく上では邪魔でしかなかったけどねえ。その立派な精神も、そして、君を純粋に愛しすぎているっていうことも」
悪意も多分に篭っているが、別にいいだろう。そんな偏った説明を、プーアは食い入るように聞いていた。
「……じゃあ、アタシもそのレンガイって男のことが、大好きだったの? だとしたらちょっとおかしいと思う。アタシはその説明通りの男が目の前に現れたら、助走をつけてでも殴り飛ばすけど」
「ハハッ! いいねえ、うーん、どうだったんだろうねえ。僕ちんは正直部外者の存在だから、そこまでは知らないよー。というかさ、プーアちゃん」
「用済みになった君はもうすぐに死ぬんだから、そんなことはどうだっていいだろう?」
それを言い放つ間に、徐々にプーアの目から光が消えていくのを見て、アンナプルナは堪らない幸福感を感じた。
そう、自分が求めていたのは、こういうことなのだ。人が死を覚悟した瞬間に見せる、絶望に歪んだ表情。これを見るために組織を立ち上げて、神として成り上がっていこうとしていると言っても過言ではない。僕ちんのことをゴミムシのように扱い、まさにゴミを見るような目でこちらを見つめてくるヤツら。ただただ単純に生意気なヤツら。それらを恐怖に陥れ、立場を逆転させた瞬間の、身体の奥から溢れでる感情といったら。
だが正直、プーアちゃんは期待はずれだった。予言スキル持ちのノエルちゃんが「コイツは危険だ」とか言っていたのを間に受けて、ここまでやってきたが、弱すぎる。今はもう人間だから仕方ないが、もうちょっと骨のあるヤツだと思ってたのだが。……コイツのスキルって、結局なんだったのだろう。
まあ、コイツの目を抉りだしてからグチャグチャになるまで遊んでやって、後は生きていたらレンガイくんと、時間の無駄遣いをさせやがったノエルちゃんを痛めつけよう。その前にプーアちゃんのお父さんでもいいかもしれないな。娘の無残な姿を見せつけてやるんだ。
そんなことを考えながら、アンナプルナはどこからともなく小さなナイフを取り出した。刃先をプーアの顔に向けながら、ニヤニヤと笑う。 プーアは恐怖に耐えきれなかったのか、大粒の涙を目に溜めていた。
あと1ミリでナイフの先端がプーアの目に触れそうというところで、何者かの非常に大きな叫び声が響き渡った。議院の入口前のこのだだっ広い空間を地声で反響させるのには相当な力がいる。不審に思ったアンナプルナはナイフを引き、辺りを見渡す。正直、アンナプルナにはその必要もなかったのだが。今このタイミングで、叫びながら登場する男なんて、アイツしかいない。
「これはこれは、てっきり死んだかと思っていたんだけれどね。ようこそ。ほら、君の女ならここにいる」
プーアをチョンチョンと指差すアンナプルナ。それを憤怒の篭った目で見る男――レンガイ。話をする余裕も余地もないと判断したのか、レンガイは既に構えのポーズを取っていた。アンナプルナは、レンガイが手に持つ『神殺し』をマジマジと見た。
「おやあ! それは『神殺し』じゃあないかー。ということは、君はゴンザくんさえも倒したというのか! いやあ、立派だ。史上最強の神さえも倒し、僕ちんの組織の特殊部隊もを投入したのに……それらをくぐり抜けてくるだなんて! ま、ご苦労だねえ! ここまできたのは褒めてあげよう。でも、君の目的は達成できそうにない。君が動いた瞬間、僕ちんはプーアちゃんを――」
その瞬間、アンナプルナの目前に居たのは、レンガイ。
――は?
いや、まてまて。この男、いつの間に僕ちんの前に?
そんな錯乱した彼の頭の頂点を、レンガイは素手で殴る。
「これは、プーアちゃんの痛み」
そしてレンガイはもう一発殴った。今度はこめかみを目がけて。なぜか『神殺し』は使わずに。
「これは、プーアちゃんの痛み」
さらに追撃がきたが、アンナプルナは流石にそれを受け止めた。レンガイは大きな音を立てて舌打ちをする。
「どうして止めるんだよ……喰らなきゃダメだろう……」
「な、何を言ってるんだ、レンガイくん」
ガッシリと受け止めたはずの拳が、徐々に力を増していく。少しでもアンナプルナが気を抜けば、すぐに打ち破られて顔面を直撃することだろう。
「プーアちゃんの感情を喰らえよ」
ミシ、という音がして、気がついた時には鼻が折れていた。
痛みでうずくまり、顔を押さえるアンナプルナ。ヒリヒリする皮膚を優しく撫でるうち、彼はあることに気がつく。
「あ、ああ……! 僕ちんの顔があ!!」
常に鉄仮面をしていて、決して人に見せることの無かった顔。先ほどまでは仮面を外してはいたものの、神のスキルによって「レンガイの顔」を作り出していた。しかし、全力で叩き込まれたレンガイの拳によって、その幻影は解除されてしまったようだ。
無数のシワや傷が刻まれた顔を見たプーアとレンガイは思わずゾッとするが、一番絶望を感じていたのはアンナプルナだった。
「ぼ、僕ちんの顔をよくもやってくれたなあ! もう設定とか、そんなのは抜きだ! おい、お前は絶対に殺してやる! そのキレイな顔をメチャクチャにしてやって、人前に出ることのできないようなヒドイ顔にしてやる!」
「……『神殺し』を使うのはプーアちゃんを助け出す最後の一手だけにしようと決めてたんだけど……こんなに明確な殺意を放たれては、そこにいるプーアちゃんが恐怖で泣きだしてしまう」
怒り狂うアンナプルナと、静かだがアンナプルナよりも力強い殺意を持つレンガイ。
感情を力に変える『神殺し』を握るレンガイに、武器も持たないアンナプルナが勝てるはずがなかった。
アンナプルナの大振りな攻撃を躱し、的確な箇所に短刀を刺しこむ。急所に攻撃を入れては、避ける。刺す。躱す。斬る。刺す。
気力で立ち続けているものの、アンナプルナはもう拳を振るおうとはしなかった。そんな彼に、レンガイは一歩一歩踏みしめながら近づく。その中で、アンナプルナは視界の片隅に映っていたプーアをチラッと見た。そして、ニヤつく。
「君は……自分の殺意の感情と、血しか求めていない『神殺し』に呑み込まれてしまったみたいだねえ。僕ちんを殺す前に……やるべきことがあったようだなあ!!」
「いや、目的は見失ってないよ」
アンナプルナは最後の力を振り絞ってプーアに向けて何かを発射したが、レンガイはそれをアッサリと受け止めた。逆転の一手すらも閉ざされてしまったアンナプルナは、その場に倒れ込む。レンガイが恐る恐る様子を確認したところ、気を失っているか死んでいるかの、どちらかのようだ。何にせよ、しばらく起きてくる心配は無さそうだ。
アンナプルナに手を合わせ、ゆっくりとレンガイは立ち上がる。そして、泣いて怯えているプーアのところへ向かい始めた。
――ああ、僕も結構無理そうだなあ。身体を酷使し過ぎたか。
「あ、あの……レンガイ……さん」
「やや、プーアちゃん。さん付けじゃあなくていつも通り呼んでよ」
レンガイはプーアの頭を撫でる。これが記憶のある元のプーアだったら殴り飛ばされていること必至であるが、今のプーアはそんなことはしそうにもない。嬉しいようで切なく、悲しい感情が彼の胸を支配する。
「別に、僕のことはどう思ったって構わないから。僕は、人間になった君が安全に暮らしてくれれば、もう、それだけでいい」
そう言って、彼はフラッとバランスを崩す。プーアは全身で彼が倒れるのを受け止めた。
「寝せてくれないか……プーアちゃん、君に伝えたい言葉があるんだよ」
床にゆっくりとレンガイを寝かせる。レンガイはプーアの顔を記憶するように、しっかりと見つめ、満足すると静かに目を閉じた。
「僕が伝えたい言葉は――まあ、いつもとあんまり変わらないかもしれないけれど」
「好きだ、プーアちゃん」
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