おいでませ異世界!アラフォーのオッサンが異世界の主神の気まぐれで異世界へ。

ゴンべえ

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017 第二段階

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町長のマールスと面会したのは1時間前のこと。
突然の訪問にマールスは驚き慌て、急いで身支度を済ませて現れた。
収穫祭が終わって一息ついていたのだろう。
思いもよらぬエルロンドの訪問に肝を潰した様子だった。

「……という事なんだが、どうだろうか?」

「なるほど、承知いたしました。エルロンド様の御期待に添えるよう手を尽くしましょう」

マールスは穏和な表情で頷いた。
質素なテーブルを挟んで会話すること1時間。
決して座り心地が良いわけではない椅子に腰掛け、そろそろ尻が痛くなってきた頃合いだ。
出された紅茶もすでに冷め、これ以上の長居は無用と判断した俺は、マールスに別れを告げて早々に席を立った。

「エルロンド様。マールスで大丈夫でしょうか」

帰りの道程でベルナールが不安を口にした。
町長ではあるがお人好しのマールスだ。
真面目で優秀なベルナールにしてみれば欠点だらけに見えるのだろう。

「どういう意味だ?」

「あの者は人が良いだけの人間です。町長の肩書きを担っていますが、その能力には疑問があります」

まあ、確かに。
マールスは町長と呼ぶには実力的に物足りない。
ベルナールが不安を呈するのも仕方無いだろう。

「不服か?」

「いえ、その様なことは」

ベルナールは言葉を濁した。
依頼したのは俺だ。
その手前、不安を口にしても表立って批判は出来ないのだろう。

「マールスだからいいのさ」

あえてマールスを持ち上げた。
短所は転じれば長所になる。
ベルナールには理解できないだろうが、マールスの欠点こそが肝なのだ。
次の手を打つに際して、これ以上の人選はあり得ない。

「エルロンド様がそう申されるのなら」

ベルナールは納得していない様子だ。
だが、俺は機嫌よく帰路についた。





依頼してから2週間後。
マールスは見事に期待に応えた。
新造した鶏舎には100羽の鶏が元気に歩き回っている。
アクセルの住民に掛け合い、家畜の鶏を分けて貰ったのだ。

「よくやったマールス!」

俺は手を叩いて褒め称えた。
それほどの難題だったからだ。

鶏は住民にとって貴重な財産だ。
金に等しいと言って良い。
もちろん金は産まないが、代わりに卵を産む。
住民にとって卵は貴重なタンパク源だ。
高価な肉の代用品であり、市場で売れば金になる。
繁殖力が弱いのか孵化させる事が難しく、市場にも多くは出回らないため鶏は住民にとって欠かせない家畜だった。

それほど貴重な鶏を100羽集めることは至難の業だ。
例えベルナールに任せても完遂は出来なかっただろう。
だが、マールスなら完遂できると信じていた。

「住民達に掛け合ってどうにか譲り受けました。正直言って断られるのを覚悟していたのですが、どういう訳か皆が協力的でして。本当に助かりました」

マールスは微笑みながら、いかに住民達が協力的かを述べた。
自らの手柄は一言半句も述べず、ただただアクセルの住民達を褒め称える。

「マールスだから譲ったのさ」

「いやいや、それは無いでしょう。私など町長の肩書きがあるだけの小人に過ぎません。全てはエルロンド様の人徳で御座いますよ」

「そうか。では、そういう事にしておこう」

いつも通りマールスは謙虚だ。
だからこそ、この難題を託したのだ。

例え町長でなくともマールスなら皆が協力しただろう。
マールスのお人好しは今に始まったことではない。

少年期から困った人間相手に世話を焼き、数多く感謝されてきたマールスだ。
町長になった後も、困ったことがあれば住民に手を差し伸べ、住民もマールスが困れば手を差し伸べてきた。
そんな構図がアクセルでは構築されているのだ。
誰にでも出来ることではない。
マールスのお人好しは天性の才能なのだ。
ベルナールから見れば欠点なのだろうが、その欠点も使い用では利点になる。
マールスの人柄は大きな武器だ。
ベルナールやアスタールですら、その一点においては敵わないだろう。
マールスに依頼したのも、その欠点が助けになると思ったからだ。

「これで目処が立った。あとは……ベルナール、例の件はどうなっている?」

「滞りなく準備を終えています」

「エルロンド様。準備とは?」

興味を持ったのかマールスが尋ねる。
まだ極秘のプロジェクトなのだが、俺は今回の功労者に種を明かす事にした。

「鶏を飼育して増やすのさ」

「鶏を増やす?しかし鶏は繁殖力の弱い生き物です。専門の鶏業者が苦労して卵の孵化を行っていますが、10個に1個しか成功しないのが現状で御座います」

「だから挑戦するのさ。誰も成し得ない増産を達成させれば、アクセルは一躍鶏の町として名が広まるぞ」

「果たして、上手くいくでしょうか」

「そのための準備さ。なあ、ベルナール」

「御意に御座います。すでにエルロンド様のお申し付け通り、飼育員への教育は施し済みです」

ベルナールには飼育者の教育を命じていた。
現代の知識をかじった程度の飼育法だが、従来の飼育法に比べれば遥かにマシだからだ。

というのも、奴隷の中に偶然にも鶏業者がいたのだが、詳しく話を聞いた結果あまりにも飼育法が酷かった。
しかも孵化させて増産させる方法は話にもならない。

彼等の飼育法は鶏舎に閉じ込めた鶏に餌を大量に与え、1つでも多く卵を産ませる事だった。
10個に1個は孵化する計算だけに、卵を多く産ませれば孵化の確率が上がる、という目論見だ。

皮算用という他ない。

そんな浅はかな方法で解決するなら、とうの昔に解決しているだろう。
しかも衛生環境は論外で、鶏舎の掃除は月に一度しか行わないらしい。
それでは鶏が病気になり、ストレスも溜まって繁殖力も弱まるはずだ。

人災という他ない。

言い換えれば、管理を徹底すれば改善できる余地がある、ということだ。
これが養鶏に踏み切った大きな理由だった。

「それに、遺伝子改造するしね」

「は?今なんと」

「なんでもないよ」

小首を傾げるマールス。
俺は子供っぽい笑顔で「まあ、楽しみにしててよ」と自信を見せた。
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