おいでませ異世界!アラフォーのオッサンが異世界の主神の気まぐれで異世界へ。

ゴンべえ

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034 盗人

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エルネスト商会の執務室でシャークウッドの報告を受けた。
満足のいく結果に口元が綻ぶ。
これは大きな収穫だ。
あとはどう切り崩すかだが。

「証拠が有りませんわね」

エレオノーラが紅茶を嗜みつつ呟いた。
優雅に寛ぐ様は女主人の風格が漂っている。
さすがはエルネスト商会の女傑だ。
痛いところを突いてくる。

「確かに状況証拠だけで物証がない。ロジャーノを見張っちゃいるが、なかなか尻尾を掴ませねぇ」

シャークウッドは紅茶には手を付けず甘菓子ばかりを口にした。
どうやら紅茶は口に合わないらしい。
ナッツに蜂蜜を絡めて砂糖をまぶした甘菓子を美味そうに食している。

「それだけ用心深いってことさ。まあ、簡単にボロを出す様ならとっくに断罪されてるだろうしね」

「ですけど、疑う余地は有りませんわね。ロジャーノが孤児院の存続を口利きした過去も御座いますし」

エレオノーラの調べで廃院の危機に瀕した孤児院をロジャーノが救った経緯が発覚した。
エリオットが孤児院に保護された時期と合致する。
それまでは孤児院に関わった形跡が全く無いのにだ。

「ガキと逢い引きする為に口利きしたってか?まあ、あの孤児院なら隠れ蓑には丁度いいかもしれんがな」

「しかし、あの孤児院に毎月寄付してる奴は何者なんだろう。ロジャーノでもなくエンリケでもなければ、他に該当する者が見当たらないけど」

「毎月となると相応の資産が要りますから、貴族か商人。もしくは準じる者と考えるのが普通ですけれど」

エレオノーラの情報網にも該当する人物は見当たらなかった。
少なくともグラスの人間ではない事は判明している。
となると外部の人間という線が残るが。

「引き続き捜索を頼む。問題ないとは思うが、万が一にもロジャーノと関わり合いのある人間だと後々面倒になるからね」

「ああ、任せておけ。とは言っても手掛かりが無い以上、時間はかかるだろうがな」

「特定できなくてもロジャーノとの関係性を洗い出せればいいさ。もし資産家がロジャーノの後ろ盾に居るのなら用心しないといけないからね」

最悪のケースはエルネスト商会の商売敵がロジャーノと組んでいる場合だ。
もし交易都市グラスの商業圏を牛耳るためにロジャーノと手を組んでいるのだとしたら。
エレオノーラの結婚でエルネスト商会が復活するのを嫌がるはずだ。
だからロジャーノが結婚に反対した。
そうなると辻褄は合うのだが。

「これといって目立った動きを見せる商人は居ませんし。商売敵が狙っているとは思えませんけれども。どうにも腑に落ちませんわ」

情報を精査しても不振な動きは全く無い。
エレオノーラほどの分析力があれば見落とすことは無いだろう。
やはり杞憂なのだろうか。
どうにもハッキリしなくて薄気味悪い。

結局、収穫はあったもののモヤモヤした感覚が残った。
気分転換にリオンとテイルを伴って繁華街を散策する。
今日も市場は活気に賑わって活発に取引が行われていた。
俺は露店で買い食いしつつ目ぼしい商品を見て回る。

「おっ、これなんか良さげだな」

「それは南の民族の魔除の御守りですね。翡翠の石を嵌め込んだ首飾りですが、この値段なら購入も有りだと思います」

テイルが情報を交えて購入を勧めた。
さすがは叩き上げの苦労人だけあって知識が豊富だ。
俺は商品を購入して上着のポケットに入れた。

「さて、次は何処を見て回るかな?」

店を物色しているとテイルの「あっ!」という声が聞こえた。
何事かと振り向くとテイルが指差して「泥棒!」と声を上げる。
泥棒は背が低く、ボロ着で全身を覆って正体を隠していた。

「どうした!?」

「そ、それが、泥棒に財布を盗まれました!」

「財布?どうせ大金は持ち歩いてないんだろ?」

テイルは大金を持ち歩かない主義だ。
だから財布を盗まれても大した事じゃないと判断したのだが。

「あの中にはモストティアの通行証が入っているんです!」

「なんだと!?そういう事は早く言え!」

焦った俺はリオンに目を向けた。
リオンは頷きで応じ、泥棒の後を追う。
身体能力に秀でたリオンに任せておけば安心だ。
そう思ったのだが。

「なんだと!?」

泥棒は猿のように身軽で素早かった。
家の壁に飛びつくと器用によじ登って屋根伝いに逃走する。
リオンは逃すまいと家の狭間に入り、壁を蹴って三角飛びを繰り返して屋根の上に至った。
驚いた泥棒は焦ったのだろう。
飛び乗った屋根で足を滑らせて軒下に転落した。

「捕まえたぞ!」

強かに背中を打ち付けて気を失った泥棒をリオンが捕縛した。
運の悪い泥棒だ。
追手がリオンじゃなければ捕まる事はなかっただろうに。
それにしても見事な身体能力だ。
警備隊に引き渡す前に、どんな奴か確認しておこう。
俺はリオンに命じて泥棒のボロ着を剥いで正体を暴いた。

「え?」

意外な正体に驚いた。
泥棒は十代半ばの少年だったからだ。
しかも見るからに浮浪者という感じだ。
少なくとも真っ当な生活を営んでいる風体ではない。

「ほら、通行証だ」

財布を確認して通行証を取り出した。
紛失しなくてホッと安堵する。
財布にしまい、テイルに差し出すと恐縮して受け取った。

「申し訳ございません!このような失態は二度とないよう心掛けます!」

「本当に気をつけてくれよ。それが無いとモストティアに行っても無駄足になるんだからな」

やんわりと釘を刺すとテイルはコクコクと頷いた。
財布をギュッと握りしめて大事に抱え込んでいる。
そこまでしろとは言ってないのだが。
まあ、気を付けてもらわねばならないので良しとしよう。

「この者はいかが致しましょうか?」

リオンは縄で縛り上げると処遇を問うた。

「そりゃあ警備隊に突き出すしかないだろう。泥棒は立派な犯罪だ。しかも手馴れた手口だったからな。余罪がゴロゴロあるんじゃないか?」

「では、警備隊に引き渡して参ります」

リオンが引き立てようと縄を引くとハッと目覚めた泥棒は慌てふためき。

「離しやがれ!ちくしょう!ちくしょう!」

「往生際の悪い奴め!来い。警備隊に引き渡してやる」

「げっ!か、勘弁してくれ!この通りだ!頼む!頼むよ!」

泥棒は地面に額を擦り付けて懇願した。
必死な態度に何か訳ありと感じた俺は。

「だったらなんで泥棒なんかやったんだ?捕まればこうなる事くらい分かるだろう」

「そ、それは……」

言い淀む泥棒に冷めた視線を投げかけた。
隠すと容赦しないという圧力を無言で与える。
敏感に察したのだろう。
泥棒は冷や汗を流して逡巡すると、観念したように話し始めた。

「金が要るんだ」

「生活費か?」

「違う!そんなんじゃない!」

語気を強めて否定した。
その目には強い信念を感じる。
どうやら芯まで腐っている訳ではないようだ。

「じゃあ、なんのために?」

「孤児院のためだ」

思わぬキーワードが出てきた。
孤児院だと?
なぜ、孤児院が関係あるというのか。

「下町の孤児院は、金が足りないんだ。孤児の数が多いし、下町の連中は貧乏で寄付すらできねぇ。金持ち連中が多い街なのに、誰も孤児院に寄付しやがらねぇ。だから、だから金持ち連中から少しだけ寄付してもらっただけだ!」

「そうやって毎月寄付しているのか?」

「ああ、そうだよ!じゃないと孤児達が死んじまう!俺も、あの孤児院で育ったんだ!犯罪に手を染めたって見捨てられるかよ!」

想定外の告白に驚いた。
謎の寄付人は貴族でも商人でもなく泥棒の少年だったとは。
どうりで情報を集めても引っかからない訳だ。

「これまでの経緯を全て話せ。内容次第では警備隊に引き渡すのを止めてやってもいい」

「ほ、本当か!嘘じゃないよな!」

「本当だ。ただし、嘘だと感じたら警備隊に引き渡す。正直に話すことだ」

「わ、わかった。正直に話すよ」

泥棒は孤児院を出てからの経緯を事細かに話し始めた。
泥棒の名はジャンという。
シスターエレナに引き取られて孤児院で育ったとの事だ。
その事に強い恩義を感じたジャンは卒院後に真っ当に仕事を探したらしい。
だが、孤児院出の無学な少年には安い賃金の労働しか働き口がなかった。
これでは孤児院の助けになることは出来ない。
そう考えたジャンは街を散策した時に見掛ける富裕層に強い憤りを感じたのだという。
彼等が少しでも寄付してくれれば。
その憤りが泥棒の原動力になったようだ。
かなり危ない橋を渡って盗みを働き、毎月匿名で寄付してきたらしい。
それが今日に至った経緯だった。

「俺が盗みを働かないと孤児達が飢えて死んじまう!不公平だろ!なんで金持ち連中は贅沢三昧してやがるのに、なんの罪科も無い孤児達が飢えで苦しまなくちゃならないんだよ!」

心からの訴えに心が揺れた。
善意の寄付が多ければジャンが犯罪に手を染める事は無かったかもしれないのだ。
今更だが、孤児院の経営が健全であれば。
慈善の活動が不運にも一人の犯罪者を生んだのは、シスターエレナにも非があると思わざるを得なかった。

「いいだろう。警備隊に引き渡すのは勘弁してやる。その代わり、盗みはこれっきりにしてもらうぞ」

「そんな!それじゃあ孤児達が」

「根本的な解決になってないだろ!お前が一生盗みを働いて孤児院を支えるのか?」

「そ、それは……」

ジャンも非現実的だと薄々分かっていた。
だが無学な少年には他に思いつく手段が無い。
非現実的だと分かっていても行動を起こさざるを得ないのだ。

「一つ提案がある。受けるも拒むもお前次第だ。それ次第で孤児院の経営は保証してやろう」

「どんな、どんな提案だ!」

藁にもすがる思いでジャンが前のめりになった。
どんな無茶な提案でも飲んでやる。
そんな意気込みが見て取れる。

「俺の部下になれ。俺に忠誠を誓って任務を遂行するなら毎月の寄付を肩代わりしてやる」

「わかった!なる、いや、なります!俺を部下にしてください!」

ジャンは声高に叫んで額を地面に擦り付けた。
俺は新たな手駒を手に入れ不敵な笑みを浮かべる。
これで道筋が開けるかもしれない。
新たな一手を思いついた俺はジャンに巡り会えた幸運を天に感謝するのだった。
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