おいでませ異世界!アラフォーのオッサンが異世界の主神の気まぐれで異世界へ。

ゴンべえ

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037 脅迫

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「ない。ない。どこだ。どこに落とした?」

ロジャーノは焦っていた。
メダリオを紛失したことに気づいたからだ。
身の回りを探すが無い。
教会内を必死に探し回り、隅から隅まで見て回る。
しかし何処にも見当たらない。
困り果てて自分の行動を思い起こす。
そして、ふとある場所に思い至った。

「まさか、下町の教会に」

それだけはマズいとロジャーノは教会を飛び出した。
血相を変えて歩くロジャーノに道行く人々は違和感を抱いただろう。
しかし焦っているロジャーノは気付く余裕がない。
早足で下町の教会に向かい、誰にも拾われていないよう強く願った。

下町の教会に着くと孤児達がキャッキャとはしゃいでいた。
その手にはメダリオが陽光を反射して輝いている。
物珍しいメダリオに下町の衆目が集まり、すでに多くの人々に認知されていた。
教会関係者であるシスターエレナは孤児院で仕事をしているため気づいていないらしい。
そのためメダリオの所有者は判明していなかったのがロジャーノにとって幸いだった。

とはいえ、どうやって取り戻すべきか。
ロジャーノは頭を悩ませた。
メダリオが自分の物だと言うわけにはいかない。
しかも司祭であるロジャーノが現れたら目立ってしまう。
教会で密会している以上、あらぬ疑いを持たれる訳にはいかない。
どうしたものかと逡巡していると。

「あっれ~!?これって司祭様のメダリオじゃないか!」

大声で誰かが叫んだ。
驚き慌ててロジャーノが顔を向ける。
すると、そこにはメダリオを手にしたジャンの姿があった。

わざとらしいジャンの大きな声はシスターエレナの耳に届いたようだ。
驚いた様子で孤児院から出てきたシスターエレナはジャンの持つメダリオを見ると。

「ジャン。ちょっと、それを見せて」

「いいよ。はい、どうぞ」

ジャンから手渡されたメダリオを観察したシスターエレナは目を疑った。

「これは、司祭様のメダリオだわ。でも、なぜこんな所に?」

シスターエレナが認めた事でロジャーノのメダリオだという確信が広まった。
万事休す。
ロジャーノは終わったと肩を落とした。

「さあね。司祭様が下町の教会にでも来たんじゃない?」

「まさか。司祭様が来られた事なんて一度も無いわ。もし来られているのなら教会関係者が知らない訳がないもの」

シスターエレナの言葉はロジャーノの立場を危うくするものだった。
お忍びで下町の教会に来ている。
しかも教会の関係者に報せずに。
それだけでロジャーノに疑惑を抱くには充分だった。

「ともかく、これは私から司祭様にお渡しします」

「そうですね。それがいいと思います」

ジャンはあっさりと快諾した。
せっかく盗んだメダリオを容易く手放して笑っている。
ロジャーノはメダリオを盗んだのがジャンだとは気づかなかった。
暗がりで一瞬の出来事だったのだ。
顔を確認する事も難しかったのである。

ともあれシスターエレナが返還してくれる事は幸いだった。
ロジャーノは急いで上町の教会へと駆け戻る。
教会に戻ると荒い呼吸を整え、緊張と運動で乾いた喉を潤した。
そして汗の染みた衣服を急いで着替え、乱れた髪を整えた。
さも今朝から教会に居たといわんばかりに。

シスターエレナの足なら時間がかかるだろう。
ロジャーノは気持ちを落ち着けるべく紅茶を淹れようとすると。

「そんなに慌ててどうされました?」

驚いて振り向くと教会の門戸にエルロンドが立っていた。
シスターエレナの姿もある。
奇妙な組み合わせに眉をひそめるが、すぐに平静を装って。

「おや、これはこれはエルロンド様。シスターエレナまで一緒に。どうなされたのですか?」

「実はメダリオを拾いまして。念のため届けに来たのです。エルロンド様とは下町の教会の前でお会いしまして」

馬車でやって来たと告げた。
エルロンドの好意によるものだ。
もちろん善意での行為ではないが。

シスターエレナの手にはメダリオがあった。
ロジャーノはチラッと見て確認すると。

「それはそれは、有難うございます。実は無くして困っていたのですよ」

「無くした?なにをですか?」

俺が問いかけるとロジャーノは穏やかに微笑んで。

「ですからメダリオをです。それは私のメダリオなのでしょう?」

問い掛けられてシスターエレナはビクッと身を震わせた。
疑惑を孕んだ目でロジャーノを見ている。
違和感を抱きつつもロジャーノは平静を装った。

「メダリオを紛失した?いったい何処でです?」

「おそらく下町ででしょう。先日のことですが、私用で下町に行きましてね。個人的な用事でしたので教会関係者には伝えなかったのですが」

教会関係者に対する布石を打った。
個人的な私用であれば伝える必要は無いからだ。
これで言い訳が立つ。
ロジャーノは内心でホッと胸を撫で下ろした。

「へえ、そのような事が。ちなみに今日は下町には行かれましたか?」

「まさか、ずっと教会に居ましたとも」

「そうですか。でしたら是非ご確認いただきたい」

エルロンドに促されてシスターエレナがメダリオを手渡した。
受け取ったロジャーノはメダリオを見て驚愕する。

「こ、これは!」

動揺で手が震えた。
目を見開き、ワナワナと唇が揺れる。
ドッと冷や汗が噴き出て背筋が凍りついた。

「おかしいですね。シスターエレナが拾ったメダリオは司祭様の物ではないはずですが?」

俺はほほ笑みを浮かべて言った。
メダリオはロジャーノの物ではない。
下町の教会の神父エンリケの物だ。

「そ、そんな馬鹿な!確かに私のメダリオだと言っていたでは」

そこまで言ってハッとした。
失言した事に気づいたのだ。
しかし時すでに遅く、エルロンドとシスターエレナに聞かれてしまった。

「へえ、なぜシスターエレナが言っていたと知っているのですか?」

「うっ、そ、それは……」

ロジャーノは言い淀んだ。
及び腰となり、しどろもどろになる。

「それを知るには今日、下町に行っていなければ知り得ないはず。ロジャーノ司祭。先ほど貴方は今日はずっと教会に居たと仰いましたね?」

「うっ……!」

「なぜ嘘を吐かれたのですか?貴方はなぜ、今日に下町を訪れたのですか?」

ジワジワと追い詰める。
ロジャーノは冷や汗を流し、みるみる顔色が悪くなっていく。

「お答えできませんか?では、私が訪問した理由を申し上げましょう。実は私も拾ったのですよ。これをね」

俺は懐からメダリオを取り出した。
ジャンが盗んだロジャーノのメダリオである。

「そ、それは!」

「ええ、司祭様のメダリオです」

ロジャーノは狼狽した。
アリバイが崩れただけでなく、自ら下町に行ったことを暴露してしまったからだ。
しかもお忍びで。
教会関係者に報せずにだ。
これだけでもロジャーノに後ろめたい事があるのは明白だった。

「貴方が今日、下町に行ったのは下町の教会にメダリオを落としたと思ったからではありませんか?」

直球を投げられてロジャーノはガクガクと両脚が震えた。
偶然拾った訳ではないと暗に示してる。
ロジャーノはエルロンドがメダリオを持つ理由に気づいたのだ。

「さて、種明かしをしましょう。実はシスターエレナは司祭様のメダリオを拾った訳ではないんです。私が頼んでひと芝居打ってもらっただけなのですよ。まあ、理由は薄々分かっていらっしゃるでしょうが」

悪戯っぽい笑いを浮かべてロジャーノに告げた。
ロジャーノは死刑宣告でも受けたかのように顔面蒼白になる。
シスターエレナは訳が分からずロジャーノの変化にオロオロしていた。

「これは、ある場所で拾ったものです。実は私、下町の教会に寄付しに伺いましてね。先日は孤児院にも心ばかりの寄付をさせて頂きましたが。その時に拾ったのですよ。このメダリオをね」

シスターエレナは事実だと頷いた。
もちろん嘘だ。
辻褄を合わせるために口裏を合わせたにすぎない。
ロジャーノは愕然となって肩を落とす。
ガックリと膝を折ってその場に崩れ落ちた。

「あの、これはいったい?」

ロジャーノの様子に不安を抱いたシスターエレナは理由を問うた。
俺は当たり障りのない理由を告げて不安を取り除き、シスターエレナを孤児院に帰す。
シスターエレナはロジャーノに挨拶するとそそくさと孤児院に帰って行った。

「さて、本音で話し合いましょうか」

本性を表してロジャーノに向き合った。
ビクッと身を震わせてロジャーノが俺を見る。

「先に言っておく。もう調べはついている。孤児院にいるエリオットと深夜に密会していた事もな」

最後通告を突きつけられたロジャーノは絶望感に押し潰された。
今にも呼吸が止まりそうなほど胸が苦しいらしい。
胸元を押さえつけて必死に呼吸を整えている。

過呼吸を起こしたようだ。
それほど強いストレスを感じているのだろう。
教会にバレれば身の破滅だ。
過呼吸になるのも致し方ないのかもしれない。

急を知ったリオンがロジャーノに駆け寄った。
背中をさすって気持ちを落ち着けさせる。
ロジャーノの呼吸を補佐するように呼吸を合わせた。
おかげで徐々にではあるがロジャーノの容態は快方に向かった。

暫くして落ち着いたロジャーノに水を差し出した。
緊張と脱水で喉が渇いたのだろう。
ロジャーノはコップを受け取ると一気に飲み干した。

「落ち着いたか?」

ロジャーノは言葉を発するにはまだ余裕が足りないのか。
頷いて肯定の意を示した。

「そう不安がる必要はない。教会に告げ口する気はないからな。ただ、協力的になって欲しいだけさ」

「奴隷との結婚のことですかな?残念ですが、教会としては」

最後の抵抗だろう。
ロジャーノは教会人の気骨を見せた。

「ほう、認めないと?だったらエリオットを不敬罪として処罰するしかないな。孤児院の子供は奴隷ではないが、教義では同性愛は禁止されているはず。処罰する理由に申し分ないだろう」

「ど、同性愛ですと!?いったい、なんの事ですか?」

「しらばっくれるおつもりか?深夜に密会している事は知っていると言っただろう」

「ち、違う!断じてそのような事はしていない!」

「信じろと?それは無理な相談だ。司祭が深夜に下町の教会で孤児と密会している。誰だって同性愛を疑って然るべきでしょう」

「そんな!?これは濡れ衣だ!冤罪だ!」

真に迫る迫力でロジャーノが否定した。
俺は残忍な笑みを浮かべ。

「では裁きは教会の手に委ねましょう。面白い事になるでしょうね。果たして身の破滅を迎えるのは誰なのか。これは見応えのある裁判になるでしょう」

「ま、ままままま、待ってくれっ!それだけは、それだけはっ!」

ロジャーノは見苦しい程に取り乱した。
身の破滅を恐れてのことか。
エリオットが処罰されるのを恐れてのことか。
地べたに両手を着き、平身低頭して懇願する。

「どうしました?冤罪なのでしょう。だったら公然の場で証明したら良いではありませんか」

「そ、それは……」

「それとも、できませんか?例えば、公然の場で証明すると困る人間が出てくるとか」

ロジャーノの表情が強ばった。
なぜそれを?
そんな目でエルロンドを見上げる。

「先ほど言いましたよね。忘れているようなので改めて言いましょう。さて、本音で話し合いましょうか」

俺は勝ち誇った顔でロジャーノを見下ろした。
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