おいでませ異世界!アラフォーのオッサンが異世界の主神の気まぐれで異世界へ。

ゴンべえ

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038 新事実

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俺は場所を変えて話し合う事にした。
秘匿性を考慮してエルネスト商会の執務室に移動する。
観念したロジャーノは従順だった。
怯えた表情で執務室に入ると淹れた紅茶に手をつけず、黙って成り行きに身を任せている。
俺は紅茶を一口啜ると。

「先ずは謝ろう。貴方が同性愛者ではない事は知っていた。いや、前日までは疑っていたかな。いずれにせよ、ダシに使った事は間違いない。済まなかった」

「はっ?ど、どういう事でしょうか?」

訳が分からず戸惑うロジャーノ。
てっきり断罪されると思い込んでいた。
しかし予想に反して謝罪されようとは。
困惑するのも無理はない。

「言ったと思うが、全て調べさせてもらった。下町の教会でエリオットと密会している事もな。その時までは同性愛者だと思っていたけど」

俺は指を鳴らして入室を促した。
執務室に入って来たのはジャンである。

「密会の現場を調べた者だ。彼の口から聞いたのさ。エリオットに一切手を出さなかったと。それで不審に思ってね。エリオットを調べさせてもらった」

「なっ、なんですと!」

ロジャーノは驚愕した。
過剰な反応に俺は確信を持った。

「やはり、教皇に関係する問題か」

「なぜ、それを。いったい、どうやって」

信じられないと首を振った。
ロジャーノは疲れ切ったように椅子にもたれかかる。
ガックリと頭を下げ、両手で顔を覆い、現実から逃れようとした。

ここまでくると間違いない。
俺は自ら立てた仮説に自信を得た。
下を向いたロジャーノに対して俺は独り言のように話し始める。

「これは独り言だ。聞き流してもらって構わない。仮にだが、教皇に愛人が居たとしよう。その愛人に子供が出来たとしたら、教義に照らし合わせると罪になる。それは教会を根底から揺るがす大問題だ」

ここからは俺の立てた仮説だ。

教皇には正妻以外に愛人がいた。
それは教会の教義に違反する背信行為だ。
しかし教皇は愛人を愛してエリオットを授かった。
世に明るみに出れば教会の根底を揺るがす大問題に発展するだろう。
不貞不義の証となり、教義に逆らう大悪行として権威が失墜するに違いない。
だからエリオットを孤児院に隠してロジャーノに世話を頼んだ、と考えたのだ。

仮説を述べ終えるとロジャーノは憔悴しきっていた。
一気に老け込んだ感じがする。
それだけ精神的にダメージを受けたのだろう。
もはや隠し立てする事は不可能だと判断したのか。
ロジャーノは真相を語り出した。

「これから申し上げる事は全て事実です。神に誓って、虚実ではないと誓います」

ロジャーノが語った真相は想像を上回るものだった。

現教皇は敬虔な信徒として知られ、歴代教皇の中でも徳が高いと評されていた。
それは幼少時に戦火に巻き込まれ、不遇な極貧生活を余儀なくされたからだろう。
家族と生き別れになった教皇は孤児院に身を寄せ、そこでロジャーノと出会った。
同じ歳のロジャーノとは気が合い、やがて親友と呼べる絆を深めたという。

そして時は流れ、二人は修道院に入った。
修行を積んだ二人は、やがて一人が教皇となり、一人が司祭となった。
しかし身分は違えど友情は揺るがず、絆は深いままだった。

そんな折、教皇は一人の修道女と知り合った。
教皇より少し歳上の柔和な女性だ。
二人は仲睦まじく、やがて恋に落ちた。
純血を守るべき聖職者同士の燃えるような恋である。
もっとも、それが悪い訳ではない。
教会も一定の年齢を重ねれば結婚を認めるという暗黙の了解があったからだ。

ここまでは仮説に沿っている。
だが、ここからが衝撃的な内容だった。

教皇の息子ならば修道院に入り、ゆくゆくは教皇の地位を目指す人材となる。
それだけの影響力が教皇の息子という立場にはあるのだ。
だから出産が公にならないはずがない。
だが、現教皇に息子がいる話は全く無かった。

なぜならば、教皇の妻は実の姉だったからだ。
生き別れた姉は修道院に入り修道女となっていた。
そして年月を経て姉弟は出会い、肉親とは知らず、恋路に落ちてエリオットを授かったのだ。
これは教会の教義に反する以前の問題である。
これが公になれば教会は権威を失墜して波乱を巻き起こすのは明白だった。

「事実を知った教皇様はエリオットを私に託された。どうか人の子として幸せに暮らして欲しいと」

「隠蔽工作ってわけか。それで、母親は?」

「亡くなられました。実の姉弟と知ってショックだったのかもしれません」

入水自殺したという。
実弟を守るため、教皇を守るため、自らの口を封じたのではないか。
なんとなくだが、そう思った。

「エルロンド様!」

ロジャーノはテーブルに両手を着けた。
勢いよく頭を下げ、テーブルの面に額を打ちつける。

「どうか、どうか御内密に願います!この事が世に知れれば教会は権威を失墜し、信徒は教会から離れるでしょう。そうなれば暴動が起こり、信仰が損なわれてしまう恐れがあります。それだけは、それだけは断じて阻止したいのです」

ロジャーノの心配はもっともな事だ。
過去の事例でも聖職者の失態で潰えた信仰は数多い。
いかに主神を崇め奉る教会といえども、近親相姦の上に落胤が露見すれば信仰が潰える恐れがある。

リュシーファを崇める信徒が減るのは由々しき事態かな。
様々な恩恵を受けられるのもリュシーファのお陰だし、その力の源泉は信徒の信仰によるものだろう。
そういう意味では、こちらとしても教会の力が衰退するのは望ましくはない。
まあ、慌てふためくリュシーファを見てみたい気もするが。

「別に断罪が目的じゃないからね。公にするつもりは無いさ。もっとも、エレオノーラとアスタールの結婚を認めてくれればの話だけど」

そもそもロジャーノが二人の結婚を反対した事が発端だ。
だから目的が達成されれば教会の裏事情を公にする必要もない。
ロジャーノにしてみれば簡単な方法のはずなのだが。

「そ、それは……」

二つ返事で快諾すると思いきや意外にも渋った。
なにがそこまでロジャーノを頑なにさせているのだろう。
教会の危機を前にしても逡巡すべきものだろうか。

「なにを悩む必要がある?教会の権威が失墜するのと、結婚を認めるのと、どちらを選ぶべきかなど考えるまでもないだろう」

「結婚を認めない訳ではないのです。むしろ祝福すべき事なのですが。どうしても認め難い事情がありまして」

ロジャーノは悩んだ末に教会の内部事情を吐露した。

どうやら教会も一枚岩ではないらしい。
影響力のある教皇の座を虎視眈々と狙う輩が少なからず居るそうだ。
もちろん教義に従って修行を重ねる者が大多数なのだが。
中には努力を怠って悪巧みを働く輩が極小数ながら居るらしい。

その筆頭株で教皇に次ぐ地位にある枢機卿がロジャーノを悩ませていた。
その枢機卿は敬虔な信徒ではなく、金で地位を買った元豪商らしい。
教会の影響力を背景にやりたい放題しており、しかし教会に多額の寄付を行うため蛮行を見逃されていた。
品性下劣で信徒に手を出す事も多く、奴隷や亜人種を蔑視する強硬な差別主義者でもあるらしい。

しかも元豪商という出自だけあって情報収集に長けていた。
その伝手から教皇の裏事情を嗅ぎつけたらしく、落胤であるエリオットを密かに探し回っているらしい。
見つけ出し、白日の元に晒し、教皇に退位を迫るつもりだろう。

なるほど。
俺は納得せざるを得なかった。
元奴隷のアスタールが貴族と肩を並べる豪商のエレオノーラと結婚するなど、強硬な差別主義者が許すはずがない。
ロジャーノにしてみれば余計な災厄を招く愚を犯したくないはず。
なにしろグラスにはエリオットがいるのだから。
枢機卿を近付けるなど絶対に許せるものではない。

「わかった。そういう事情なら仕方ない」

「おお、御理解頂けますか」

「もちろんだ。要は、その枢機卿を排除すればいい話だろ」

「えっ!?は、排除、ですか?いや、それは、さすがに無理が」

高位の地位にある枢機卿を排除するとなると、それ相応の理由が必要になる。
しかし枢機卿は金と権力を使って揉み消すだろう。
生半可な事では排除など夢のまた夢というものだ。
ロジャーノが困惑するのも当然の反応だろう。

「一つ策がある。上手く行けば枢機卿を排除するだけでなく、教皇とエリオットをも救えるだろう。問題は、ロジャーノ。お前がリスクを負う覚悟があるかどうかだ」

「そ、それはどのような事ですか!私に出来ることでしたら何なりと言ってください!」

藁にもすがる思いでロジャーノは承諾した。
切羽詰まっていたのだろうか。
どうやら思った以上に枢機卿は厄介な人物のようだ。

「簡単な方法さ。まず、ロジャーノには同性愛者になってもらう。その相手はエリオットだ」

「なっ!なんですと!?」

余りにも意外過ぎる提案にロジャーノは大きく口を開いた。
それではエリオットまで巻き込むことになる。
やぶ蛇ではないかと驚愕したのだ。

「罪状は、そうだな。司祭が孤児の美少年と同性愛に溺れる。なんていいんじゃないか?」

「なにを馬鹿なことを!そんな事をしたらエリオットが」

「枢機卿に知られるだろうな。司祭の同性愛の相手としてな」

「そんな事になったらエリオットがどうなると思うのです!教義に反するとして断罪されてしまうではないですか!」

「まあ、そうなるな。だが、間違っても教皇の落胤とは思うまい」

「それはそうかもしれませんが、それとこれとは話が違うでしょう!」

落胤の目を誤魔化せても断罪されては意味がない。
断罪されれば最悪の場合は死刑もありうる。
差別主義者の枢機卿のことだ。
それくらい視野に入れておいても不思議ではない。

「大アリさ。少なくとも教皇を断罪する材料は潰す事ができる。その上で、エリオットとロジャーノを救ってみせよう。まあ、その策は秘中の秘だ。さて、どうする?僕を信じて任せるか。それとも拒否して敵に回すか」

意地悪い選択を迫った。
ロジャーノにしてみれば選択の余地など無い。
提案に乗らなければ破滅に向かうだけなのだ。

「本当に、信じても?」

恨みがましい目で俺を見るロジャーノ。
裏切ったら許さない。
そんな心情が伝わってくる。

「ああ、信じてくれ。上手く行かないと僕も困るんだ。エレオノーラとアスタールを結婚させたいしね。それが僕の利益になるんだから、せいぜい邪魔な枢機卿には退陣してもらうよ」

「……分かりました。どのような事にも信じて応じましょう」

「決まりだ。今後は僕の指示に従ってもらうよ」

「承知しました。ところで、一つだけ伺いたいのですが」

ロジャーノは胸に引っかかる疑問を正直にぶつけた。

「どうやってエリオットが教皇の実子だと知ったのですか?」

疑問に感じて当然だろう。
ひた隠しにしてきたのだ。
どこで情報が漏れたか気が気でないはずだ。

もっとも、明確に答える事はできない。
なぜなら解明できたのは俺の能力の賜物だからだ。
エリオットの遺伝子を分析し、父親の因子を特定して解析した結果である。
現代技術ですら不可能な手法だが、スキルとして授かった能力を用いれば簡単なものだ。
まさかエリオットが教皇の息子だとは思いもよらなかったが。

「それこそ秘中の秘だ。情報の管理は命綱だからね。一つ言える事は、ロジャーノに不手際は無かったって事さ」

腑に落ちない顔でロジャーノは引き下がった。
とりあえず自分の落ち度で情報が漏れた訳では無いと知り、安心したようだ。

ともあれ、予想外の展開になってきた。

俺はエレオノーラとアスタールを結婚させたいだけなんだが。
意図せず教会の内部事情に踏み込んでしまった。
こうなった以上、後戻り出来ないだろう。
面倒な事になったなと思いつつ、しかし精神年齢アラフォーの俺は悪知恵を働かせた。
そして今後の展開を自分有利にすべく嬉々として青写真を描くのだった。
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