おいでませ異世界!アラフォーのオッサンが異世界の主神の気まぐれで異世界へ。

ゴンべえ

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039 偽装工作

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「ロジャーノに同性愛の疑いがあるだと?」

教会本部に造られた豪華な部屋で枢機卿ムンジェスはソファーにふんぞり返っていた。
オークがそのまま人間になったかのような容姿をしており、いかにも強欲で好色そうな顔つきをしている。
肥えた身体は高級な衣服に包まれ、聖職者とは思えぬ装飾品を身につけて成金趣味を隠す気がまるでない。

傍らには首輪に鎖を繋がれた女性がかしづいていた。
あきらかに強要されて仕えさせられている。
ムンジェスを嫌悪感丸出しの目で睨み、しかし逆らえない事情があるのか、命令には従順に行っていた。

テーブルに置かれた皿から砂糖菓子を鷲掴みにして口に頬張るムンジェス。
マナーを無視した粗暴な食事に報告に来た使用人も眉をひそめた。

「どうやら孤児院にいる元奴隷を愛でているようです。結構な美少年らしく、それが噂に信憑性を与えているようで」

「事実かどうか確かめろ!すぐにだ!」

「かしこまりました」

使用人は頭を下げて退室した。
ムンジェスはグフフッと低い声で笑う。

「ロジャーノめ、つまらんボロを出しおって。教皇と仲の良い奴なら何か情報を知っておろう。この問題をネタに強請れば教皇を断罪できる材料を掴めるかもしれんな」

ムンジェスは愉悦に浸りながら鎖を引いて女性を引き寄せた。
そのまま女性を抱き締め。

「グフフフフ、さて、可愛がってやろう。お前の両親も多額の借金が帳消しになったんだ。さぞかし感謝しておろうな。借金のカタに身を捧げる娘を持って幸せだろうよ」

女性は奥歯を噛み締めて屈辱に耐えた。
ムンジェスは女性の反応を楽しみつつ、そのままソファーに押し倒したのだった。





「よしよし、順調に噂は広まってるようだな」

エルネスト商会の執務室で報告を受けた俺は手応えを確信した。
ムンジェスの手下がグラスに入って情報収集しているとシャークウッドから報告を受けたからだ。

「それでどうするんだ?このまま泳がせておくのか」

いつでも始末できると豪語するシャークウッド。
ムンジェスの手下の同行は逐一把握出来ているようだ。

「もちろん、情報を与えるのさ。せっかくグラスまで来たんだ。ロジャーノが同性愛者だとムンジェスに報告してもらわないとね」

「どうやって?」

「そりゃあ簡単な事さ。ロジャーノに男娼を買わせて教会で情事に及べばいい」

「おいおい、ロジャーノは聖職者だぜ?演技でも性交なんてやらないだろう」

「そう見えればいいのさ。まさかムンジェスの手下も至近距離で覗いたりできないだろ。教会に潜り込んで覗くには天井裏しかないと報告を受けたからね。すでにロジャーノとは打ち合わせ済みさ」

シャークウッドは両手を上げて両肩を竦ませた。

「やれやれ、本当に抜かりねぇな。それで、俺等は監視のみでいいってか?」

「それで十分さ。万が一にもロジャーノとエリオットに危害を加えるようなら話は別だけどね」

シャークウッドの部下が抜かる事はないだろう。
安全は保証されていると見ていい。

「わかった。偽情報を掴ませて帰らせるとしよう」

シャークウッドは請け負うと事の仕上げに向かった。





「ほほう、噂は本当だったか」

自宅の応接室で報告を受けたムンジェスは前のめりになって喜んだ。

「はい。ロジャーノは街で男娼を買い、教会に連れ込んで情事を行いました。天井裏から確認しましたので間違いありません」

グラスに潜入した諜報員が直に報告した。
商人の下働きを装った服装をしている。
交易都市の特色を考えての装いだろう。

ムンジェスはロジャーノの同性愛疑惑に確信を得て口元が綻んだ。

「よくやった。ロジャーノめ、本当に同性愛に溺れたらしい」

「どうやら私の情報は正しかったようですねぇ」

ムンジェスと同様に口元を綻ばせる若者がいた。
細面で蛇のように冷酷な笑みを浮かべている。
エルロンドの義兄で第二子のジャミル・オスカーシュタインだ。

「ジャミル殿にとっても重畳だな。まさか義弟のエルロンド殿が関わっていようとは。オスカーシュタインの神童を蹴落とす千載一遇の好機と言えよう」

「ムンジェス様。神童などとは何も知らぬ愚か者の風評です。実質は大した事のない愚弟ですよ」

「グフフフフ、ジャミル殿の才能は存じておりますとも。父上に似て聡明でおられる。なにしろ私に協力して下さっておられるのですからな。義兄上のアルフレッド殿とはえらい違いだ」

ジャミルはオスカーシュタイン家の権威を利用してムンジェスの商売に加担していた。
聖職者でありながら非合法な商品を取り扱うムンジェスを、オスカーシュタイン家の荷物に偽装して輸送する事で検閲を免れていたのだ。
テオドールの権威があれば検閲を免除させるなど難しい事ではない。
それほどにオスカーシュタイン家の権威は隠然たるものがあるからだ。

「アルフレッド義兄上は不正を好まぬ気性ですからね。人間としては立派かもしれませんが、人の上に立つ身ならば清濁併せ呑む度量が必要でしょう」

自己を正当化しつつ優雅に紅茶を嗜むジャミル。
容姿が良いため画になるが、冷たい印象は一層強く感じさせる。

「まさしく、その通りですな。オスカーシュタイン家の次期当主にはジャミル殿こそ相応しい。この機にエルロンド殿を失脚させれば敵はアルフレッド殿くらいのもの。武辺者のアルフレッド殿ならば金の力でどうとでも出来ましょう」

「ええ、ムンジェス様の仰る通りです。目障りな愚弟が失脚すれば恐れるものは何もない。私が当主になった暁にはムンジェス様に格別の取り計らいを約束致しましょう」

「グフフフフ、それはそれは。是が非でもジャミル殿に当主になって頂かなければなりませんな。その為ならば力添えも資金提供も惜しみませんぞ」

「ええ、頼りにしてます。ムンジェス様は大事な協力者ですのでね」

ムンジェスとジャミルは悪どい笑みを浮かべた。
欲に塗れた人間の本性を剥き出しにしたように。

「グフフフフ、こうしてはおれん。おい、誰か!」

ムンジェスに呼ばれて使用人が駆けつけた。

「お呼びでございますか?」

「これから教皇に会いに行く。……いや、その前に他の枢機卿に会うか。すぐに支度しろ!」

「かしこまりました」

命令された使用人は急いで支度に取り掛かった。
遅れるとムンジェスの機嫌を損ねてしまうからだ。
そのため、程なくして準備が整い、ムンジェスは意気揚々と外出したのであった。





「本当に大丈夫でしょうか?」

不安な面持ちでロジャーノは呟いた。
下町の教会を訪問して五分と経たず出た言葉だ。

「大丈夫さ。部下の報告じゃムンジェスは同性愛疑惑を信じたらしい。その証拠に、報告を受けた直後から頻繁に動き回ってるようだ」

俺があっけらかんと言うとロジャーノは頭を抱えて盛大に溜息を漏らした。

「やはり、演技とはいえ男色など止めておけばよかった」

「迫真の演技だったらしいね。服を脱がせて体を触っただけなのにムンジェスの諜報員は信じたらしい。やっぱり角度の問題は大きいな。天井裏から見ると犯してる様に見えるんだから」

視点による盲点と言うべきか。
ロジャーノに男娼の身体を触らせ、いかにも辱めている演出をさせたのだ。
もちろん男娼にも協力を願い、まるで性交しているかのように振舞ってもらったのだが。

「私はただ言われた通りにしただけです」

「だから良かったのかもね。固定された視点じゃそれっぽい仕草だけで誤魔化せる。検証して気付いたものだけど本当に驚きさ」

まさに錯覚を用いたトリックだ。
だからこそ自分が用いる諜報員には注意を促す必要がある。
同じトリックでガセネタを掴まされたら大変な事になりかねない。

そのガセネタを掴まされたムンジェスは精力的に動いていた。
そろそろその成果がグラスにもたらされるはずだ。

「失礼します。ロジャーノ司祭はおられますか」

教会の関係者らしき中年がやってきた。
上方の教会に勤める聖職者らしい。
馴染みのない下町の教会を訪れて戸惑っているようだ。

「ロジャーノは私だが」

困惑を隠して平静を装うと司祭として襟を正した。
教会関係者に司祭として無様な姿を見せられないのだろう。
権威や威厳というやつだ。

「先ほど本部から手紙が届きました。これです」

中年の聖職者は一通の手紙を差し出した。
上質な紙を使った手紙である。
よほどの事がない限り使われることはない品質の紙だ。

「で、では私はこれで」

逃げるように中年の聖職者は去って行った。
上質紙を使った手紙である事で開封するまでもなく内容を察したのだろう。
受け取ったロジャーノも顔色が悪い。
開封すると案の定、よくない報せが綴られていた。

内容はこういうものだ。
グラスの司祭ロジャーノを同性愛の嫌疑で取り調べる。
教皇と枢機卿の列席する中で聴取を行うため本部に来るように。
その際、エルロンドも同席するようにと綴られていた。

「やはり、こうなったか……」

ロジャーノは絶望感に苛まれた。
あきらかに断罪するための取り調べだ。
恐らく弁明しても結果は覆らないだろう。

「へえ、ジャミル義兄上も露骨な手段を打ってきたな」

俺は手紙に目を通してほくそ笑んだ。
ジャミルがムンジェスと繋がっている事は知っていた。
オスカーシュタイン家の権威を悪用しているのだ。
同じ商売を扱う者として知らない訳がない。
だから俺の存在はさぞかし目障りだっただろう。
脳筋な父親やアルフレッドならば誤魔化せるだろうが、俺相手ではそうはいかない。
早晩に潰しにかかって来るのは予想していたのだが。

「好都合だ。この機に乗じてジャミル義兄上の資金源を断つとしよう」

俺は思わぬ収穫に胸躍らせた。
そして狼狽するロジャーノを説得すると、断罪の会合に向けて機嫌良く準備を進めるのだった。
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