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063 おしおき
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孤児院を確認した俺はロジャーノ司祭を訪ねた。
上町の教会を訪問すると説教が終わった所らしい。
参加した信徒がゾロゾロと教会から出てくる。
「やあ、元気そうだね」
入れ違いに教会に入るとロジャーノに挨拶した。
するとロジャーノは俺を見るなり表情が強ばる。
まるで強盗にでも会ったような態度だ。
「こ、これはエルロンド様」
「酷い反応だな。そんなに僕が嫌いか?」
「め、滅相もございません!きょ、今日はどのようなご用件ですか?」
ロジャーノは精一杯の愛想笑いを浮かべた。
失敬な奴だ。
俺が来れば何かしらの因縁を付けられると思っているらしい。
被害妄想も甚だしいと思う。
「よほどムンジェスの件が堪えてるみたいですね」
リオンが耳元で囁いた。
「致し方ないことだと思います」と私見を織り交ぜて。
どうやら俺の認識の方が誤っているらしい。
ムンジェスの件は痛快だったと思っていたのだが。
ロジャーノにとっては最低最悪の出来事だったようだ。
「そう警戒しなくてもいいよ。単に挨拶に寄っただけさ」
「本当ですか?」
念押しするほど疑いの眼差しを向けてくる。
本当に失敬だな君は!
思わず口を吐いて出そうになったが喉元あたりでグッと飲み込んだ。
その後は紅茶を飲みつつ歓談した。
本当に立ち寄っただけだと安心したのかロジャーノも顔色が良くなっている。
「エリオット様は次期教皇として教育を受けておられます。かなり優秀だと教官達が驚いていました」
我が子の成長を喜ぶようにロジャーノは笑った。
ムンジェスの魔の手から必死に守ってきたからだろう。
もしかしたら愛情が芽生えたのかもしれない。
それほどにロジャーノの笑顔は柔和で温かみに満ちている。
「神の御子様だからな。歴代最高の教皇様になるんじゃないか?」
「そうあって欲しいものです。まあ、神託の騎士が護ってくれているのですから大丈夫でしょう」
穏やかな微笑みを浮かべて嫌なことを言う。
もちろんロジャーノに悪気はない。
俺がエリオットのために護衛を派遣している事を言っているのだ。
「選りすぐりの傭兵だからね。確かな腕と目利きを持った男が推薦した奴等だ。エリオットに危害が及ぶ心配は無いと思うよ」
「それを聞いて安心しました。実は気掛かりがありまして。ムンジェスが何やら陰で動いているようなのです」
「ムンジェスが?」
「はい、エルパウロ教皇から謹慎処分を言い渡されて暫くは大人しかったのですが。仲の良い司祭からの話では人目を盗むように手下を動かしているようなのです」
ロジャーノの話では自分の商会の使用人を使って何やら動き回っているらしい。
エリオットにも接近できず、エルパウロ教皇を追い落とす手立てもない。
おそらく苛立ちと不満が募って何かしら悪巧みでもしているのだろう。
こりない野郎だと思った。
幸いにもジャミルと関わっていないようだ。
もしかしたらジャミルの方が避けているのかも。
俺に睨まれて迂闊に動けないからか。
いずれにせよ大人しくしてる分には一安心だ。
「エレオノーラに探るよう頼もう。念の為エリオットの護衛にも連絡しないとな。問題ないと思うが用心に越したことはない」
次善の策は打っておくべきだ。
例え相手が取るに足らない相手だとしても。
もっともムンジェスだけなら大した事にはならないだろう。
断罪裁判のお粗末さは傲慢な能無しを証明するに充分だった。
だが粗暴な奴だけに予想外の暴挙に出る可能性もある。
ロジャーノには一杯食わされた恨みもあるだろうし。
「では連絡は私が。ちょうど所用でヘルメールに参りますので」
「それは助かるけど少し心配だな。念のため護衛をつけよう」
「おお、ありがとうございます」
ロジャーノは嬉しそうに感謝した。
少なからず不安を抱いていたのだろう。
ムンジェスに報復されないかと。
まあ、そんな心配は皆無といって良い。
なにしろムンジェスにとってロジャーノなど小物過ぎて歯牙にもかけないだろうから。
単にエルパウロ教皇との繋がりがあるというだけで。
利用価値がないと判断されれば視界にすら入らないに違いない。
それでも護衛を付けるのは念の為だが。
「とりあえず今は様子見だな。エリオットとエルパウロ教皇にはくれぐれも注意するよう伝えてくれ」
そう告げて教会を出た。
今回はジャミルが関わっていない。
だから俺も関わりたくないのだが乗り掛かった船だ。
「屋敷に戻るぞ。シャークウッドにロジャーノの護衛を頼まないとな」
「護衛ならば我々が!」
ジョシュアが意気込んで名乗りを上げた。
何かしらの役に立とうと張り切っているのか。
そういう意気込みが伝わってくる。
確かにジョシュアなら護衛として不足はない。
実力的にも充分な人材だ。
しかし。
「ダメだ」
「え?そんな」
ジョシュアはあからさまにガッカリして見せた。
バッサリと拒否されてショックを受けたのだろう。
泣きそうな表情をしている。
「違うぞ。お前が役に立たないからじゃない」
「で、ではなぜ?」
「お前も知ってるだろうが亜種族蔑視の風潮が変わったのはつい先日のことだ。まだまだ長年の悪習は根強く残っているからな。エルフのお前が王都に行けば余計なトラブルを引き起こしかねん」
「なるほど、確かにエルロンド様の仰る通りです。ましてや聖職者のロジャーノ司祭を我々エルフが護衛しているとなれば。ロジャーノ司祭にも危害が及ぶやもしれませんね」
さすがユーリスは理解力が高い。
俺が言わんとする事を正確に読み取ってくれた。
「そ、そうでしたか。いや、出過ぎた真似を申しました」
ジョシュアはホッと安堵して丁寧に頭を下げた。
うかつな事を言ったと反省しているようだ。
それにしても随分と懐かれたものだと思う。
眷属化した訳でもないのに俺に忠義を尽くそうとする気概が汲み取れるのだ。
モストティアから出られた事がよほど嬉しいのだろう。
エルフの青年達は用いるに足る人材ばかりだし。
教育すれば立派な家臣として活躍するに違いない。
俺は気持ちの良い足取りで屋敷へと歩いた。
屋敷に戻るとスパーンッ!という心地よい音が響き渡った。
俺の平手打ちがディナアリスの頭を叩いた音だ。
と同時に「のじゃーーーっ!」という叫びが響き渡った。
「この馬鹿!なにやってんだ!」
食堂に用意された山のような料理を指差して叱責した。
ディナアリスは両手で頭を押さえつつ半ベソをかいている。
かがみ込んで身を丸くし、恨めしそうな目で俺を見上げていた。
「これはどういう事だ?」
シャークウッドに問いかけた。
するとお手上げのようなジェスチャーをして見せる。
「ウチの連中は関わってないぜ。言われた通り見張ってたが嬢ちゃんは食堂から一歩も出てねぇよ」
「おかしいだろ。だったらこの料理の山は何なんだ?」
「さぁな、どういう訳か街の連中が料理を持って集まりやがったんだ。ああ、会計はエレオノーラがやってたぜ。金額より量に驚いてたみたいだがな」
「街の連中が?」
ギロッとディナアリスを睨んだ。
先日の光景が脳裏によみがえる。
勝手に街に出て爆食いしやがった件だ。
ディナアリスは視線を逸らして口笛を吹いた。
なんの事やら?と素知らぬ顔を演じている。
そんな猿芝居で騙されると本気で思っているのか?
俺も舐められたものだ。
「おい、どうやって注文した?」
「な、なんのことじゃ~?」
ディナアリスの目が泳いだ。
冷や汗を浮かべて挙動がおかしい。
はい、黒だ。
もっとも確認するまでもなく犯人はコイツしかいないのだが。
とはいえ素直に白状しないだろう。
致し方ない。
俺はスキル【眷属化】の権能を発動した。
「素直に言わないとリュシーファに封印させるぞ」
最古の魔王に向かって腕組みしつつ威圧した。
完全に上から目線の物言いだ。
さすがに魔王のプライドに触れて反抗するかな?
と思いきや。
ディナアリスは反抗するどころかペコリと頭を下げた。
「うう……悪かったのじゃ。つい、出来心だったのじゃ」
ディナアリスは素直に謝罪した。
それほどに眷属化の効力は凄まじいらしい。
契約紋では拘束力が弱いと危惧したのだろう。
リュシーファが己の加護を発動して眷属化を覚醒させたのだ。
その結果、ディナアリスへの拘束力は絶大なものになった。
今も睨んだだけで白状しているし。
いや、待てよ。
前の状態でも大して変わらないな。
手間が省ける程度の違いがあるくらいで。
基本的にディナアリスは素直だし、そもそもチョロいし。
「それで、どうやって注文した?」
「簡単な事じゃ。傭兵共は妾の監視で動けんからのう。暇を持て余してる亜人達を遣いに出したのじゃ」
エッヘンと胸を張るディナアリス。
どうだ、参ったか!と言わんばかりだ。俺は軽い目眩を覚えると共に、イラッとしてディナアリスを叩き倒したくなった。
よりによって亜人達を遣いに出すとは。
まだ悪感情を抱く人間が少なくないというのに。
それにしても妙だな。
なぜ、亜人達はディナアリスの命令に従ったのだろう?
ディナアリスは魔王だが彼等の主ではない。
危険を伴う可能性がある命令など断って然るべきはずなのに。
「それはディナアリス様がエルロンド様の眷属だからです」
ユーリスが疑問に答えてくれた。
眷属だから何だというのか?
そう思っていたが、どうやら亜種族にとっては大きな意味があるらしい。
そもそも眷属とは力の強い者の傘下に入るという意味だ。
まあ、それは俺にも理解できる。
問題はディナアリスが魔王というからではなく、俺の眷属になった、という点だ。
亜人達の今の主人は俺という認識だ。
モストティアを出た時点でエルフィネス国王から俺に仕える形になったからだ。
だからエルフ族の青年達は俺に忠義を尽くそうとする。
それは他の亜種族も同じなのだ。
「エルロンド様は我等の主人です。そしてエルロンド様の眷属となったディナアリス様は我等より上の格付けとなります。我等は眷属になっていませんから」
なるほど。
公侯伯子男の格付けではないが序列というものがあるのだろう。
まさか眷属化にそれが適応されようとは思ってもみなかったが。
だから亜人達はディナアリスの命令に従ったというわけか。
「なるほど、由々しき事態だな」
どうやらディナアリスへの躾が手温かったようだ。
今後は手厳しく躾ないとな。
とりあえず亜種族に勝手な命令は禁止させるとして。
亜種族達も眷属化する事を検討しておいた方がいいかもしれない。
「とりあえず食事量の制限を設ける。お前は食いすぎた」
「な、ななな、なんじゃとーーーっ!?横暴じゃーーーっ!」
断固拒否するディナアリス。
しかし眷属化の権能からは逃れられない。
俺は駄々っ子のように泣き喚いて抗議するディナアリスを冷ややかに見下ろした。
そして権能を発動すると食事量制限の枷を定めたのだった。
上町の教会を訪問すると説教が終わった所らしい。
参加した信徒がゾロゾロと教会から出てくる。
「やあ、元気そうだね」
入れ違いに教会に入るとロジャーノに挨拶した。
するとロジャーノは俺を見るなり表情が強ばる。
まるで強盗にでも会ったような態度だ。
「こ、これはエルロンド様」
「酷い反応だな。そんなに僕が嫌いか?」
「め、滅相もございません!きょ、今日はどのようなご用件ですか?」
ロジャーノは精一杯の愛想笑いを浮かべた。
失敬な奴だ。
俺が来れば何かしらの因縁を付けられると思っているらしい。
被害妄想も甚だしいと思う。
「よほどムンジェスの件が堪えてるみたいですね」
リオンが耳元で囁いた。
「致し方ないことだと思います」と私見を織り交ぜて。
どうやら俺の認識の方が誤っているらしい。
ムンジェスの件は痛快だったと思っていたのだが。
ロジャーノにとっては最低最悪の出来事だったようだ。
「そう警戒しなくてもいいよ。単に挨拶に寄っただけさ」
「本当ですか?」
念押しするほど疑いの眼差しを向けてくる。
本当に失敬だな君は!
思わず口を吐いて出そうになったが喉元あたりでグッと飲み込んだ。
その後は紅茶を飲みつつ歓談した。
本当に立ち寄っただけだと安心したのかロジャーノも顔色が良くなっている。
「エリオット様は次期教皇として教育を受けておられます。かなり優秀だと教官達が驚いていました」
我が子の成長を喜ぶようにロジャーノは笑った。
ムンジェスの魔の手から必死に守ってきたからだろう。
もしかしたら愛情が芽生えたのかもしれない。
それほどにロジャーノの笑顔は柔和で温かみに満ちている。
「神の御子様だからな。歴代最高の教皇様になるんじゃないか?」
「そうあって欲しいものです。まあ、神託の騎士が護ってくれているのですから大丈夫でしょう」
穏やかな微笑みを浮かべて嫌なことを言う。
もちろんロジャーノに悪気はない。
俺がエリオットのために護衛を派遣している事を言っているのだ。
「選りすぐりの傭兵だからね。確かな腕と目利きを持った男が推薦した奴等だ。エリオットに危害が及ぶ心配は無いと思うよ」
「それを聞いて安心しました。実は気掛かりがありまして。ムンジェスが何やら陰で動いているようなのです」
「ムンジェスが?」
「はい、エルパウロ教皇から謹慎処分を言い渡されて暫くは大人しかったのですが。仲の良い司祭からの話では人目を盗むように手下を動かしているようなのです」
ロジャーノの話では自分の商会の使用人を使って何やら動き回っているらしい。
エリオットにも接近できず、エルパウロ教皇を追い落とす手立てもない。
おそらく苛立ちと不満が募って何かしら悪巧みでもしているのだろう。
こりない野郎だと思った。
幸いにもジャミルと関わっていないようだ。
もしかしたらジャミルの方が避けているのかも。
俺に睨まれて迂闊に動けないからか。
いずれにせよ大人しくしてる分には一安心だ。
「エレオノーラに探るよう頼もう。念の為エリオットの護衛にも連絡しないとな。問題ないと思うが用心に越したことはない」
次善の策は打っておくべきだ。
例え相手が取るに足らない相手だとしても。
もっともムンジェスだけなら大した事にはならないだろう。
断罪裁判のお粗末さは傲慢な能無しを証明するに充分だった。
だが粗暴な奴だけに予想外の暴挙に出る可能性もある。
ロジャーノには一杯食わされた恨みもあるだろうし。
「では連絡は私が。ちょうど所用でヘルメールに参りますので」
「それは助かるけど少し心配だな。念のため護衛をつけよう」
「おお、ありがとうございます」
ロジャーノは嬉しそうに感謝した。
少なからず不安を抱いていたのだろう。
ムンジェスに報復されないかと。
まあ、そんな心配は皆無といって良い。
なにしろムンジェスにとってロジャーノなど小物過ぎて歯牙にもかけないだろうから。
単にエルパウロ教皇との繋がりがあるというだけで。
利用価値がないと判断されれば視界にすら入らないに違いない。
それでも護衛を付けるのは念の為だが。
「とりあえず今は様子見だな。エリオットとエルパウロ教皇にはくれぐれも注意するよう伝えてくれ」
そう告げて教会を出た。
今回はジャミルが関わっていない。
だから俺も関わりたくないのだが乗り掛かった船だ。
「屋敷に戻るぞ。シャークウッドにロジャーノの護衛を頼まないとな」
「護衛ならば我々が!」
ジョシュアが意気込んで名乗りを上げた。
何かしらの役に立とうと張り切っているのか。
そういう意気込みが伝わってくる。
確かにジョシュアなら護衛として不足はない。
実力的にも充分な人材だ。
しかし。
「ダメだ」
「え?そんな」
ジョシュアはあからさまにガッカリして見せた。
バッサリと拒否されてショックを受けたのだろう。
泣きそうな表情をしている。
「違うぞ。お前が役に立たないからじゃない」
「で、ではなぜ?」
「お前も知ってるだろうが亜種族蔑視の風潮が変わったのはつい先日のことだ。まだまだ長年の悪習は根強く残っているからな。エルフのお前が王都に行けば余計なトラブルを引き起こしかねん」
「なるほど、確かにエルロンド様の仰る通りです。ましてや聖職者のロジャーノ司祭を我々エルフが護衛しているとなれば。ロジャーノ司祭にも危害が及ぶやもしれませんね」
さすがユーリスは理解力が高い。
俺が言わんとする事を正確に読み取ってくれた。
「そ、そうでしたか。いや、出過ぎた真似を申しました」
ジョシュアはホッと安堵して丁寧に頭を下げた。
うかつな事を言ったと反省しているようだ。
それにしても随分と懐かれたものだと思う。
眷属化した訳でもないのに俺に忠義を尽くそうとする気概が汲み取れるのだ。
モストティアから出られた事がよほど嬉しいのだろう。
エルフの青年達は用いるに足る人材ばかりだし。
教育すれば立派な家臣として活躍するに違いない。
俺は気持ちの良い足取りで屋敷へと歩いた。
屋敷に戻るとスパーンッ!という心地よい音が響き渡った。
俺の平手打ちがディナアリスの頭を叩いた音だ。
と同時に「のじゃーーーっ!」という叫びが響き渡った。
「この馬鹿!なにやってんだ!」
食堂に用意された山のような料理を指差して叱責した。
ディナアリスは両手で頭を押さえつつ半ベソをかいている。
かがみ込んで身を丸くし、恨めしそうな目で俺を見上げていた。
「これはどういう事だ?」
シャークウッドに問いかけた。
するとお手上げのようなジェスチャーをして見せる。
「ウチの連中は関わってないぜ。言われた通り見張ってたが嬢ちゃんは食堂から一歩も出てねぇよ」
「おかしいだろ。だったらこの料理の山は何なんだ?」
「さぁな、どういう訳か街の連中が料理を持って集まりやがったんだ。ああ、会計はエレオノーラがやってたぜ。金額より量に驚いてたみたいだがな」
「街の連中が?」
ギロッとディナアリスを睨んだ。
先日の光景が脳裏によみがえる。
勝手に街に出て爆食いしやがった件だ。
ディナアリスは視線を逸らして口笛を吹いた。
なんの事やら?と素知らぬ顔を演じている。
そんな猿芝居で騙されると本気で思っているのか?
俺も舐められたものだ。
「おい、どうやって注文した?」
「な、なんのことじゃ~?」
ディナアリスの目が泳いだ。
冷や汗を浮かべて挙動がおかしい。
はい、黒だ。
もっとも確認するまでもなく犯人はコイツしかいないのだが。
とはいえ素直に白状しないだろう。
致し方ない。
俺はスキル【眷属化】の権能を発動した。
「素直に言わないとリュシーファに封印させるぞ」
最古の魔王に向かって腕組みしつつ威圧した。
完全に上から目線の物言いだ。
さすがに魔王のプライドに触れて反抗するかな?
と思いきや。
ディナアリスは反抗するどころかペコリと頭を下げた。
「うう……悪かったのじゃ。つい、出来心だったのじゃ」
ディナアリスは素直に謝罪した。
それほどに眷属化の効力は凄まじいらしい。
契約紋では拘束力が弱いと危惧したのだろう。
リュシーファが己の加護を発動して眷属化を覚醒させたのだ。
その結果、ディナアリスへの拘束力は絶大なものになった。
今も睨んだだけで白状しているし。
いや、待てよ。
前の状態でも大して変わらないな。
手間が省ける程度の違いがあるくらいで。
基本的にディナアリスは素直だし、そもそもチョロいし。
「それで、どうやって注文した?」
「簡単な事じゃ。傭兵共は妾の監視で動けんからのう。暇を持て余してる亜人達を遣いに出したのじゃ」
エッヘンと胸を張るディナアリス。
どうだ、参ったか!と言わんばかりだ。俺は軽い目眩を覚えると共に、イラッとしてディナアリスを叩き倒したくなった。
よりによって亜人達を遣いに出すとは。
まだ悪感情を抱く人間が少なくないというのに。
それにしても妙だな。
なぜ、亜人達はディナアリスの命令に従ったのだろう?
ディナアリスは魔王だが彼等の主ではない。
危険を伴う可能性がある命令など断って然るべきはずなのに。
「それはディナアリス様がエルロンド様の眷属だからです」
ユーリスが疑問に答えてくれた。
眷属だから何だというのか?
そう思っていたが、どうやら亜種族にとっては大きな意味があるらしい。
そもそも眷属とは力の強い者の傘下に入るという意味だ。
まあ、それは俺にも理解できる。
問題はディナアリスが魔王というからではなく、俺の眷属になった、という点だ。
亜人達の今の主人は俺という認識だ。
モストティアを出た時点でエルフィネス国王から俺に仕える形になったからだ。
だからエルフ族の青年達は俺に忠義を尽くそうとする。
それは他の亜種族も同じなのだ。
「エルロンド様は我等の主人です。そしてエルロンド様の眷属となったディナアリス様は我等より上の格付けとなります。我等は眷属になっていませんから」
なるほど。
公侯伯子男の格付けではないが序列というものがあるのだろう。
まさか眷属化にそれが適応されようとは思ってもみなかったが。
だから亜人達はディナアリスの命令に従ったというわけか。
「なるほど、由々しき事態だな」
どうやらディナアリスへの躾が手温かったようだ。
今後は手厳しく躾ないとな。
とりあえず亜種族に勝手な命令は禁止させるとして。
亜種族達も眷属化する事を検討しておいた方がいいかもしれない。
「とりあえず食事量の制限を設ける。お前は食いすぎた」
「な、ななな、なんじゃとーーーっ!?横暴じゃーーーっ!」
断固拒否するディナアリス。
しかし眷属化の権能からは逃れられない。
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