不運さんが転生したら普通の人生を送りたいのに、精霊の力を借りても波瀾万丈な件

山本いちじく

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第1章

これが異世界

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 まぶたを開けると、青い髪の若い女性が俺を覗き込んでいた。
 きれいな人。
 低い男性の声がして、隣に誰かいるのが分かる。

 戸惑いや嬉しさ、色々な気持ちが表情から見て取れる。
身なりが良くて、品のよさそうな人。髪も髭も緑色だ。青や緑の地毛がある世界なのかな。
 どうやら平和で喜びに満ちた風景の中にいるらしい。

「なんて可愛い赤ちゃんでしょう!ねぇ、見て、口元がザルムにそっくりよ」
 
 女性が俺を見て、にっこり笑っている。いきなり言葉が理解できるなんて、これはすごい!女神様に感謝するしかない。

「そ、そうかな?そうだね、目はクヒカにそっくりだよ」
 
 男性は、ぎこちないけど、それでも嬉しい気持ちがあふれている。

「あー、うあー」

 何かを少しでも話したくても、口元がうまく動かない。なんとか、声を出せて、こんな感じ。
 どうやらこの夫婦の赤ちゃんとして、この世界に生を受けて転生したらしい。
 赤ちゃんというのは、すごい。こんなに無防備なんだ。少しでも不運があったら、イチコロでやられてしまう。
 早く不運に備えて、力をつけないと。
 俺は、この異世界に生まれた日から、やがて来る不運に備える覚悟を持った。

---


 1ヶ月の月日が流れた。

 おかしい。不運なことが起きない。こんなに愛情に包まれて、無防備に生活していて大丈夫なのかな。
 前世の記憶が残っている分、いつ死んでもおかしくないような心許なさを感じる。
 記憶を残しての生まれ変わり。
 これからの人生への期待と、不運に対する恐怖で、落ち着かない。

 両親は、豊かな家柄なのか、召使いのパナニという女の子がいて、何も不自由がない生活を送っている。
 それなりにお金があるみたい。いきなり、目標としていた普通よりも、ワンランクもツーランクも上の生活!
 日本とはまったく違う、どちらかというとヨーロッパ風の建物や服装。刺繍や色の合わせ方が、異国情緒たっぷりで面白い。
 産業革命は数100年後と女神様が言っていたように、電気はおろか蒸気も含めて、人力以外の動力を使ったものは何も見当たらない。
 明かりも電球ではなく、ロウソクや油を使ったランプを中心に使っている。
 それにしても赤ちゃんというのは、素晴らしい。無条件に保護してもらえるってすごい!
 好きな時に好きなだけ乳を飲み、好きなだけ眠り、排泄の世話もしてもらい、泣けば誰かがきてくれる。
 こんなに恵まれていていいんだろうか?元の世界でも
でも、赤ちゃんのときは、こういう感じだったっけ。不運を自覚したのは、何歳のころだった?
 もしかしたら、赤ちゃんの時は、元の世界でも平和に暮らしていたのかもしれない。
 
 半年の月日が流れた。

 首が座ってから、景色が広がった。
 寝返りができたら、ハイハイまで一気にできるようになった。ハイハイの期間が長い方が良いと言う話を、昔聞いたことがあるけど、本当なのかな。しばらくは、ハイハイでブイブイ言わせてやろう。
 ハイハイで家中を探検するのも、楽しい。
 鏡を見たとき、自分が前と同じ黒髪で、少しがっかりした。
 六畳一間の、古びたアパート住まいから考えると、この家の立派さに驚く。
 建物は石の壁と木でできたの2階建てで、部屋数は10くらいある。そりゃ、召使も必要だ。
 父マクルタ・ザルムは、このペンプス村の取りまとめ役だ。村長なのか、役人なのかは、よくわからない。
 母クヒカは、よくわからないが、庭で野菜を育てている。
 俺は、エレムと名付けられた。

 窓から見た景色から、ペンプス村が辺境であることが分かる。マクルタ家の館は、小高い丘に建っていて、2階からは村の端まで見渡せる。
 すぐそばを流れる川から水を引いて、ペンプス村の周りでは、かなりの広さで麦を育てている。
 
 ある夕方、いつものようにハイハイで家の中を冒険していると、戸棚の陰のなかで、何かがモゾモゾと動いているのが見えた。ネズミよりは大きくて、猫よりは小さいような。
 じぃっと見ていると、小さな二つの黄色い目が光った。
 本能的にやばいと思った。身体中から汗が吹き出す。こんな弱い状態で、何かに襲われたら、何もできずにやられてしまう。
 声も出さず、固唾を飲んでいると、黄色い目が笑った気がした。敵意はないのだろうか?気がつくと、黄色い目は消えて、どこかへ行ってしまった。

 それから1日に何度も、さまざまな場所でそれぞれ違った気配を感じるようになった。どれも見守っているような、様子を見ているような気配。
 どれも1つとして同じものはない。冷たかったり、熱かったり、全く違う雰囲気がする。
 あるものは影の中に、あるものは光の中に、水の中に、炎の中に、風の中に、草花の中に。
 遊んでくれるやつもいて、何者かわからないが、追いかけっこをしたり、隠れんぼをしたりした。
 不思議なことにザルムもクヒカも全く気づいている様子がない。
 幼い時だけ感じられるのだろうか?それとも俺だけに?

 ある日の朝、いつものようにハイハイで階段をよじ登って2階に上がっていた時、目の前に金色の光を放つリスがいた。

 「ぐあぁぁ!」

 俺は、驚いて階段の途中でバランスを崩した。階段を転げ落ちるなんて、危険すぎる。

 あ、死ぬかも。

 油断した。あぁ、なんてことだ。もっと慎重に生きなくてはといつも思っていたのに。少し急な階段を20段ほど転がり落ちた。目の前が、ぐるぐる回る。

「エレム坊ちゃま!大変!まさか階段から?クヒカ様!ザルム様!」

 パナニが駆け寄ってくる。これは完全に俺が悪い。勝手に動き回って、階段から転がり落ちるなんて。なんてこった。せっかく恵まれた人生をもらったのに。
 あっという間に、もう終わりなのか。

「うわぁ、うわぁぁ!」

 怖い。痛い。なにより悔しい。不運なんかじゃない。全部俺が悪いんだ。
 身体の状態がやばいのが分かる。両腕も両脚も力が入らないどころか、激痛で動かせない。気持ちが悪い。口から酸っぱい吐瀉物が溢れ出る。

「げほっ、げっ」

 血だ。口からも鼻からもたくさん、血が。

 クヒカが真っ青になって近づいてくる。
 手には、庭で育てたハーブを握りしめている。
 傷でもあったら一大事だと言わんばかりの表情をしている。
 
 「癒しの葉よ、傷を治せ!キュア!」

 クヒカの手から緑色の光があふれて、ハーブを包んでキラキラと光の粒が弾けている。ミントのような、ドクダミのようないかにも薬草らしい匂いがした。

 これが魔法!?

 クヒカが俺に光の粒を振りかけると、確かに気持ち悪いのが少しおさまった。でも、ほんの少しだけ。薬草は、キララと光って消えてしまった。

「駄目だわ。まだ足りない。パナニ!庭からありったけのキキリを持ってきて!100株はあったはずよ。エレムの命が危ないわ!」

 パナニが庭にかけて行く。そして、どんどんクヒカの元に薬草を持ってくる。
 クヒカが次々と薬草を手にしては、キュアを発動していく。
 クヒカの顔は汗びっしょりだ。
 最後の薬草を使ってキュアを発動させても、やっぱり俺の身体はもう。。。
 意識が遠くなっていく。でも、こんなに必死に助けようとしてくれるなんて。クヒカ、ありがとう。こんな俺のために。

「私の魔法では、気休めにしかならない!エレムの全身のダメージが酷すぎるわ。どうしたらいいの?あぁ!!」

「ペンプス村には、もうキキリがありません!」

 クヒカは、魔法使いだったのか。クヒカが泣いている。俺は、もう駄目みたい。身体が冷たくなっていく。

 ぼやける視界の端に、あの金色のリスが現れた。階段で見たリスだ。
 リスが近づいてきた。クヒカもパナニも金色のリスが見えていないみたい。
 
「ごめんなさい!エレムを驚かせるつもりはなかったのに!
 私は、光の元素精霊カリム。
 精霊があなたを殺してしまったら、本末転倒だわ!
 私が今から治すわね!」

 リスは、当たり前のようにしゃべった。女神様の使徒?この金色のリスが?
 それからリスが俺の身体の上をジャンプすると、金色の光がキラキラと俺を温かく包んだ。その光がどんどん身体の中に入っていく。熱い。
 眩しすぎて、とっさに手で目をおおった。

 あれ?手が動いた?痛くない。身体が動く!痛みが消えてる!リスもどこかへ行ってしまった。

「どうした、クヒカ?エレムが怪我をしたのか?!」

 クヒカの悲鳴を聞きつけて、ザルムが駆けつけてきた。

「聞いてザルム。エレムは、もう助からないかもしれない。。私のせいだわ。。。私にもっと力があれば」

「クヒカは、大袈裟だなぁ。ほら、エレムは、元気にハイハイしてるじゃないか。かすり傷もしていないよ。
 鼻血でも出たんだろう」

「え?!あら、確かに。。。私の魔法が効いた?いや、違うわ。キュアには、そんな力はない。奇跡?もしかしたら、何か特別な体質がエレムにはあるのかしら」
 
 困惑する母親と、おおらかな父親。
 た、助かったのかな。でも、どうして?どうなった?わからないことが多すぎる。
 でも、よかった。何もかも台無しにしてしまうところだった。この人生も、クヒカの愛情も、何もかもが無駄にならなくてよかった。
 ザルムが冷静にいった。

「とにかく、エレムが2階に行かないように、当分、柵をしておこう。私もエレムのことをもっと気をつけるよ」

 俺は、今度こそ慎重に、一つ一つ積み上げていく決意をした。
 地道にコツコツ、不運を跳ね返せるくらいに、自力をつけよう。女神様の使徒が助けてくれるにしても、それに頼りっきりではいけない。
 この世界で、俺は自力で普通の生活をするんだ。
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