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雨の公園のシルフィ
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ユウマは、単独で熊鬼について調べることにした。
あの黒い影の正体を知りたい――それに、普段のバトルモードでは入れない場所まで歩けそうだった。
何より、ガンゲノムシティをもっと見てみたいと思ったのだ。
フィーンは「心当たりがある」とだけ言って、夜明け前に出て行った。
出掛けに交わしたキスは、いつになく長く、濃かった。
唇が離れたあとも、体の奥が熱を持ったままだった。
すでに隷属Lv4:以心伝心に達していた。
フィーンが近くにいないのは、ある意味で助かる。
正直、もう欲望を抑えるのが限界に近かった。中毒症状に近い。依存に抗えなくなってきている。危険だ。
――もし彼女がもう少し触れてきていたら、きっと。
胸を……いや、ダメだ。
しかし、胸を揉むのは、キスの前にあたるのか、キスより進んだ行為なのか?
そんなことを考えてる場合じゃない。頭の中は欲情でいっぱいだった。
フィーンだってそうだ。
自慰の時に嗅ぎたいからと堂々と言ってユウマの装備のインナーを持って行った。
代わりに新品で、上質なインナーをくれた。
フィーンの使用済みのインナーを貰えばよかったと、ユウマは今になって、変態な気分になるのだった。
ユウマは頭を振り、気持ちを切り替えた。
財布も心許ない。買い物より、まずは地理を把握することだ。
この世界では、戦闘外で怪我をすれば回復に時間がかかる。
そして、死ねば――ただの“ゲームオーバー”では済まない。
存在そのものが、消える。
雨がぽつりと落ちてきた。
ガンゲノムシティの外縁にある小さな公園。
濡れた鉄のブランコが、風にかすかに軋む。
ユウマは、CODをプレイしていた時のイベントを思い出した。
――「アジリティの高い鬼と鬼ごっこをして勝てば、仲間になる」。
確か、このあたりで出会えたはずだ。
小雨が本降りに変わる。
そのとき、公園の中央に“誰か”が立っていた。
少女だった。
十六、七歳ほどに見える。
白いシャツが雨に濡れて肌に張りつき、透けた生地の奥から微かに肌の色がのぞく。
長い黒髪が肩に貼りつき、瞳は冷たい金色をしていた。
「……おい」
少女がゆっくりと顔を上げた。
目が合う。
「わたしと、鬼ごっこしないか?」
その声は、冷たい雨に溶けるように響いた。
だが、ほんの一瞬だけ、笑ったようにも見えた。
ゲームと同じだけど、実際目の当たりにするとなんて不自然な会話なんだろう。いきなり鬼ごっこを女の子から誘うなんて、そんなことありえない。
「仕方がない、やってやるか」
ユウマが承諾すると、少女は静かに名を名乗った。
「わたしはシルフィ。ユウマ……さあ、始めよう」
「やるからには、勝つ!」
「その嘘、本当?」
そう言うや否や、彼女は指を突きつける。
「わたしが鬼だ」
「え、いきなり開始?!」
シルフィは容赦なくカウントを始めた。
「テン、ナイン、エイト……」
こんな感じだったけ?ゲームの時と違う!
ユウマが慌てて構えた瞬間……
「ゼロ!」
シルフィの姿が消えた。
次の瞬間――背後から衝撃。
強烈な張り手が顔面に炸裂し、ユウマは宙を舞った。
「うわあっ!?」
泥の上を転がり、起き上がるとシルフィが仁王立ちしていた。
白いシャツが雨で貼りつき、濡れた髪が頬に張りついている。
「何をしている、動きが鈍い!」
シルフィが詰め寄る。
ユウマは慌ててシルフィを避けようとして――
……そのまま彼女の胸を、がっしり掴んでしまった。
雨に濡れたシャツの触感の先に柔らかい肌をもっちりと感じる。
「な、なにをしているっ!」
「え、ち、違う!これは事故で――」
ピシィィン!
雷のような音が響き、次の瞬間ユウマの頬に痛烈な張り手。
「いってえええ!」
「す、すまん……力が入ってしまった」
「いや、入れすぎだろ!」
頬を押さえるユウマをよそに、シルフィは息を整える。
「とにかく、わたしの勝ちだな。もっと素早さを上げて出直してこい」
「勝つまでやるさ」
「腕をあげることだ。これでは修行にならない」
「修行……?」
ユウマが眉をひそめると、シルフィは真剣な目をした。
「そう。わたしは赤い熊鬼を討つために鍛えている」
「熊鬼?!」
ユウマの顔色が変わる。
「お前、熊鬼を知っているのか?」
「ああ。昨日、バトルロワイヤルで黒い熊鬼に喰われた。……それでリタイアしたんだ」
シルフィの表情が一瞬で凍る。
「その嘘、本当?バトルロワイヤルで……熊鬼が?ありえない」
「シルフィも、バトルロワイヤルでやられた復讐か?」
シルフィは小さく首を振った。
そして、雨の中で静かに言った。
「ちがう。……わたしは、両親を赤い熊鬼に食われた。それでわたしは、この街に流れ着いた」
ユウマは言葉を失った。
雨音が二人の間に降りしきり、ブランコの鎖が小さく軋む。
「……赤い熊鬼……」
思わず問い返す声は、震えていた。
あの黒い影の正体を知りたい――それに、普段のバトルモードでは入れない場所まで歩けそうだった。
何より、ガンゲノムシティをもっと見てみたいと思ったのだ。
フィーンは「心当たりがある」とだけ言って、夜明け前に出て行った。
出掛けに交わしたキスは、いつになく長く、濃かった。
唇が離れたあとも、体の奥が熱を持ったままだった。
すでに隷属Lv4:以心伝心に達していた。
フィーンが近くにいないのは、ある意味で助かる。
正直、もう欲望を抑えるのが限界に近かった。中毒症状に近い。依存に抗えなくなってきている。危険だ。
――もし彼女がもう少し触れてきていたら、きっと。
胸を……いや、ダメだ。
しかし、胸を揉むのは、キスの前にあたるのか、キスより進んだ行為なのか?
そんなことを考えてる場合じゃない。頭の中は欲情でいっぱいだった。
フィーンだってそうだ。
自慰の時に嗅ぎたいからと堂々と言ってユウマの装備のインナーを持って行った。
代わりに新品で、上質なインナーをくれた。
フィーンの使用済みのインナーを貰えばよかったと、ユウマは今になって、変態な気分になるのだった。
ユウマは頭を振り、気持ちを切り替えた。
財布も心許ない。買い物より、まずは地理を把握することだ。
この世界では、戦闘外で怪我をすれば回復に時間がかかる。
そして、死ねば――ただの“ゲームオーバー”では済まない。
存在そのものが、消える。
雨がぽつりと落ちてきた。
ガンゲノムシティの外縁にある小さな公園。
濡れた鉄のブランコが、風にかすかに軋む。
ユウマは、CODをプレイしていた時のイベントを思い出した。
――「アジリティの高い鬼と鬼ごっこをして勝てば、仲間になる」。
確か、このあたりで出会えたはずだ。
小雨が本降りに変わる。
そのとき、公園の中央に“誰か”が立っていた。
少女だった。
十六、七歳ほどに見える。
白いシャツが雨に濡れて肌に張りつき、透けた生地の奥から微かに肌の色がのぞく。
長い黒髪が肩に貼りつき、瞳は冷たい金色をしていた。
「……おい」
少女がゆっくりと顔を上げた。
目が合う。
「わたしと、鬼ごっこしないか?」
その声は、冷たい雨に溶けるように響いた。
だが、ほんの一瞬だけ、笑ったようにも見えた。
ゲームと同じだけど、実際目の当たりにするとなんて不自然な会話なんだろう。いきなり鬼ごっこを女の子から誘うなんて、そんなことありえない。
「仕方がない、やってやるか」
ユウマが承諾すると、少女は静かに名を名乗った。
「わたしはシルフィ。ユウマ……さあ、始めよう」
「やるからには、勝つ!」
「その嘘、本当?」
そう言うや否や、彼女は指を突きつける。
「わたしが鬼だ」
「え、いきなり開始?!」
シルフィは容赦なくカウントを始めた。
「テン、ナイン、エイト……」
こんな感じだったけ?ゲームの時と違う!
ユウマが慌てて構えた瞬間……
「ゼロ!」
シルフィの姿が消えた。
次の瞬間――背後から衝撃。
強烈な張り手が顔面に炸裂し、ユウマは宙を舞った。
「うわあっ!?」
泥の上を転がり、起き上がるとシルフィが仁王立ちしていた。
白いシャツが雨で貼りつき、濡れた髪が頬に張りついている。
「何をしている、動きが鈍い!」
シルフィが詰め寄る。
ユウマは慌ててシルフィを避けようとして――
……そのまま彼女の胸を、がっしり掴んでしまった。
雨に濡れたシャツの触感の先に柔らかい肌をもっちりと感じる。
「な、なにをしているっ!」
「え、ち、違う!これは事故で――」
ピシィィン!
雷のような音が響き、次の瞬間ユウマの頬に痛烈な張り手。
「いってえええ!」
「す、すまん……力が入ってしまった」
「いや、入れすぎだろ!」
頬を押さえるユウマをよそに、シルフィは息を整える。
「とにかく、わたしの勝ちだな。もっと素早さを上げて出直してこい」
「勝つまでやるさ」
「腕をあげることだ。これでは修行にならない」
「修行……?」
ユウマが眉をひそめると、シルフィは真剣な目をした。
「そう。わたしは赤い熊鬼を討つために鍛えている」
「熊鬼?!」
ユウマの顔色が変わる。
「お前、熊鬼を知っているのか?」
「ああ。昨日、バトルロワイヤルで黒い熊鬼に喰われた。……それでリタイアしたんだ」
シルフィの表情が一瞬で凍る。
「その嘘、本当?バトルロワイヤルで……熊鬼が?ありえない」
「シルフィも、バトルロワイヤルでやられた復讐か?」
シルフィは小さく首を振った。
そして、雨の中で静かに言った。
「ちがう。……わたしは、両親を赤い熊鬼に食われた。それでわたしは、この街に流れ着いた」
ユウマは言葉を失った。
雨音が二人の間に降りしきり、ブランコの鎖が小さく軋む。
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