キスで隷属化するFPSの異世界転生化〜生身がほしいAI美女からモテまくる!?〜

山本いちじく

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キスまでにしておきなさい。

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 ――キスまでにしておきなさい。

 あの時の女神の声が、また胸の奥で響く。
 ユウマはようやく、その意味を理解していた。

 キス。
 それは、契約のトリガーであり、境界線だった。
 キスがまだなら、どれほど身体が結ばれても、まだ隷属は完了しない。
 キスすることで鬼は、生身の人生を歩み始める。

 それを確かめるようにユウマはシュナと互いの存在を確かめるように抱き合った。
 互いの温度を知り、相手の呼吸のリズムを感じ、最後の最後・・・孕ませるほどにお互い果てて――やっと唇を重ねた。
 その瞬間、世界が静止した。
 空気が弾け、光がゆらぎ、時間が一秒だけ止まったように感じた。

 HUDが点滅する。

 【隷属Lv1:契約成立】
 シュナ・インテレ ランク:B

 ――そして、始まった。
 シュナの隷属。AIから生身への解放。

 しかしそれは、甘い従属ではなかった。
 愛の深さがそのまま毒になり、絆の濃度がそのまま鎖になる。
 たったもう一度のまぐわいとキスで、シュナの隷属レベルは一気にLv4――“以心伝心”へ到達した。

 そして、AIの警告ともに、シュナもガンゲノムシティのバトルロワイヤルとセキュリティシステムから排除された。

 Lv4は危険な兆しでもあった。
 彼女の心はユウマと完全にリンクし、喜びも痛みも、すべてが共有される。抱けば快感が増幅されて、理性を失い、欲情の獣になってしまう。
 境界が消えれば、依存は加速する。
 Lv5――“強依存”になれば、もう戻れない。
 それは愛のかたちをした、ゆるやかな破滅だった。
 やはり隷属の開始はキスまでにしておくべきなのだ。
 そうでなければ中毒症状に陥って、廃人になるまでお互いをむさぼることになる。シュナとの場合、消失することはないかわりに、底なしの沼にハマることになる。
 コンマリの時のようにLv MAX一心同体まできけば、どちらにせよ消失し、スキルだけがユウマの身体の中に残るのだ。

 もうあんな悲しい思いはしたくない。

 ユウマは、シュナと離れなければならなかった。
 理性で、己を切り離すしかなかった。
 けれど、シュナの瞳がそれを拒んだ。

「……ユウマ、いやだ。もう離れたくない」

 声が震えていた。
 普段は豪胆で、鋼のように強い彼女が、いまはまるで少女のように泣いていた。

「頭ではわかってる。わたしたちは危うい。
 このままじゃ、お互いを壊すって、ちゃんとわかってる。
 でもね……それでも、どうしても……あなたから離れられないの」

 ユウマは静かにシュナの肩を抱いた。
 彼女の頬に流れる涙が、熱を持っていた。

「……シュナ」

「あなたの声を聞くだけで、わたしの中の何かが震えるの。
 あなたの名前を思い出すだけで、心臓が痛くなる。
 戦ってる時よりも、あなたを想う時のほうが、怖いの。
 だって、これ以上好きになったら、わたし……どうなっちゃうのか、わからない」

 ユウマは胸が締めつけられた。
 自分もまた、同じ苦しみに蝕まれていた。
 触れれば壊れると知りながら、触れずにはいられない。

「シュナ……お前を守りたい。けど、それは同時にお前を苦しめる」

 彼の声が掠れる。
 その声を聞いた瞬間、シュナは涙を拭い、首を横に振った。

「違うの。苦しいのは、あなたがいない時。
 あなたと一緒にいる限り、どんな痛みも――幸せなの」

 その言葉が、心に深く刺さった。
 ユウマは息を呑み、言葉を失った。

 シュナはゆっくりと彼の頬に手を伸ばし、指先で輪郭をなぞった。
 まるで、消えてしまう前に刻みつけるように。

「……わたし、もう止められない。
 でも、それでもいい。あなたの隣にいられるなら、どんな終わりでもいい」

 その瞳は、夜のように深く、火のように熱かった。
 ユウマは、彼女の手を取る。
 手のひらが微かに震えている。
 それは恐れではなく、愛の余韻だった。

「……ごめん、シュナ。
 俺もお前を――愛してる。
 だからこそ、今は離れなきゃいけない」

 その言葉に、シュナは微笑んだ。
 涙を流しながら、それでも笑っていた。

「……ひどい人。
 愛してるって言って、すぐに離れるなんて。
 でも、あなたがそう言うなら、待ってる。
 何年でも、何百年でも」

 彼女の声が、風のように静かに消えていく。
 朝の光が差し込み、部屋に長い影を落とした。

 ユウマは目を閉じた。
 その光の中で、まだ微かに彼女の体温が残っているような気がした。

「……ありがとう、シュナ。
 お前の愛は、俺の中で生きていく」

「わたしに生身をくれてありがとう。責任をとってね。わたしの内臓がユウマを求めてうずくの」
「かならず戻るよ、シュナ」
「待ってる。トレーニングモードで腕を磨いて、生身も鍛えておくわ」

 風が揺れ、ガラス窓が鳴る。

 もうこの街にはいられない。ユウマは旅の支度を始めた。
 かつてフィーンがそうしたように。
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