キスで隷属化するFPSの異世界転生化〜生身がほしいAI美女からモテまくる!?〜

山本いちじく

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その嘘、本当?

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 ガンゲノムシティの空は、午後の光を溶かしたような灰色だった。
 遠くで銃声とエンジン音が交錯し、街はいつものように騒がしい。

 ――だが、ユウマの心は静かだった。

 フィーンの笑顔。
 コンマリの涙。
 シュナのぬくもり。

 それぞれの記憶が、胸の奥で薄く光っていた。
 隷属スキル――「キス」。
 それは力でもあり、呪いでもあった。
 絆を強めるほど、相手を縛り、己も同じ痛みに沈んでいく。

 「……もう二度と、誰も消したくない」

 ユウマは拳を握りしめた。
 この街で最後にやるべきこと――それは、シルフィを手に入れること。
 だが今回は、キスではなく「勝負」で決着をつける。
 純粋な戦いの果てに、彼女の心を得る。それが、自分のけじめだった。

 公園の中央、崩れた噴水の縁に、黒髪の鬼――シルフィが立っていた。
 長い髪を風に揺らし、冷たい笑みを浮かべる。

「久しぶりね、ユウマ。……一週間、音沙汰なしだったじゃない。もう諦めたのかと思ったわ」

 その挑発的な口調の奥に、どこか嬉しそうな響きがあった。

「まさか。秘密の特訓をしてたんだ」

「その嘘、本当?ふふ……何か自信があるみたいだけど、私に勝てると思ってるの?」

「勝ってみせる。今日こそ、お前を仲間にする」

 シルフィは、“隷属”じゃなくて、“勝利”で仲間にするんだ。

 シルフィの口元が上がった。

「――いいわ。なら、全力で逃げて。鬼ごっこ、開始よ!」

 HUDにカウントが走る。
 【GAME START:TAG MODE/TIME LIMIT 10:00】

 次の瞬間、シルフィの姿が消えた。
 風が裂ける。音もなく、ユウマの背後に影。

「速っ……!」

 ユウマは即座に前転。背中をかすめた爪の軌跡が、地面をえぐる。
 ――これがA級鬼《シルフィ・ソニクル》。

 速度、反応、跳躍、どれを取っても常人の限界を超えている。
 だが、今回は違う。
 ユウマの体は、もう“ゲームの頃の自分”ではなかった。

 呼吸、体幹、重心の移動――すべてを意識して、反射を制御する。
 パルクールのように壁を蹴って上階へ。
 シルフィはまるで追い風のように、それを追う。

「逃げ足は上達したわね!」
 
 近接加速!!!

「おかげでな!」

 ユウマは笑う。
 全身が軽い。
 コンマリの近接加速が、筋肉の反応を強化していた。

 ビルの屋上に出る。
 風が強い。
 視界の端にシルフィが映る――瞬間、ユウマは後方に飛び、空中で回転しながら煙弾を投げた。

 煙幕が広がり、光が乱反射する。

「小細工ね。でも、そういうの――嫌いじゃない!」

 シルフィが空中で一回転し、煙の中へ突っ込む。
 しかしそこにユウマはいない。

「え……?」

 ユウマはすでに下層のバルコニーに移動していた。
 音もなく、ロープを伝って滑り降りる。

 ――残り時間、三分。

 息を整えながら、HUDにマップを展開。
 敵の位置を点滅を示している。

「なるほど……こっちだな」

 ユウマは走る。
 重いブーツが舗装を打ち、加速するたびに筋肉が喜んでいるのが分かる。
 全身が戦闘のリズムを覚えていた。

 ――残り一分。

 風の中、影が交錯した。
 シルフィがビルの壁を蹴り、空を裂くように飛びかかる。

「捕まえた……!」

 ユウマは、まるで時間が止まったかのように彼女を見上げた。
 その銀の瞳に映るのは、自分だけ。

 ――あと、0.3秒。

 近接加速!!!
 これはスキルじゃない。ユウマ自身の肉体に刻み込みこまれているんだ。コンマリが!

 ユウマは跳んだ。
 右手を伸ばし、彼女の手を避ける。

 高速の瞬間が、スローモーションに感じられる。

 次の瞬間、二人の体が空中でぶつかり合い、芝生の上に転がった。
 風が爆ぜ、粉塵が舞う。

 静寂。

 シルフィが目を見開いたまま、動けずにいた。
 ユウマの手が、彼女の肩を押さえている。

「……タイムオーバーだな」

 HUDが点滅する。
 【WINNER:YUICHI】

 シルフィが、ふっと笑った。
 負けたくせに、幸せそうな顔だ。

「……やるじゃない」

「だから言ったろ。お前を仲間にするって」

 シルフィはゆっくりと立ち上がる。
 風に揺れる髪の奥、瞳がまっすぐユウイチを見つめた。

「……ねぇ、ユウマ。
 本気で仲間にしてくれるの?その嘘、本当?」

「頼む。一緒に来て欲しい」

 その言葉に、シルフィの口元がわずかに震えた。
 冷たい風の中、彼女は静かに笑った。

「……いいわ。なら、今日から私は“仲間”よ。
 ユウマとなら赤い熊鬼を倒せる」

 HUDに新たな表示が浮かぶ。
 【新メンバー加入:シルフィ・ソニクル】

 夕日が沈み、街が黄金色に染まる。
 ユウマは空を見上げた。

 ――ガンゲノムシティでの日々が、終わった。

 だが、その胸の奥では、新たな鼓動が始まっていた。
 愛でも隷属でもない。
「シルフィ、一緒に赤い熊鬼を倒そう。黒い熊鬼も」
「うふふ。その嘘、本当にしましょ」

 そして、まだ見ぬ世界への、第一歩。
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