『カケラ探し』〜全ての感覚が消失。取り戻すには、半身のような唯一を探すしかない。

アキノナツ

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方法って?

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この世界には、訪来者という異世界の者が稀に迷い込んでくるらしい。

帰れるか帰れないかは、この辺鄙な田舎では分からないが、中央なら知ってる者も居るかもと言う事だった。

それよりも差し迫って需要な事が、と医者が言った。

「あなたの感覚は薬で一時的に戻ってますが、こちらに来た事で五感など全ての感覚が無くなっています。戻す方法はあります。あなたは知る権利がありますが、えーと、これから説明する事で、怒らないでね?」

なんでさっきから『怒らないで』と情けない声で話すかなぁ。
イライラし出していた。

「イライラしないで。薬の消耗が早くなっちゃうかもッ」

「じゃあ、さっさと話して下さい」
消耗?
なんだか不味い気がして、先を促した。気分を落ち着ける…努力…。

この世界の医者は、訪来者の事は知識として学んでいるらしい。文献というかハウツー本のようなのを片手に薬も調合したらしい。

その知識から分かってる事は、俺はこの世界にやって来て暫くすると徐々に感覚が無くなっていき、ただの物のような器だけの者になってしまうそうなのだとか。

そのまま眠ったような状態のまま死んでいくそうだ。

聞き取りをされながらの話だったので、文献と俺自身を照らし合わせて、分析も同時に進められていく。
俺の感覚喪失は残された資料から考えても異例の喪失速度らしい。

速いとか突出してるのは良い事のような気もするが、コレは病状の進行と同じ事だろう。嬉しい事ではない。嫌になっちゃうなぁ…。

失われる感覚を取り戻した者の話では、村の女との接触だったらしい。
恋人関係とあったから、そういう事があったのだろう。

俺が良からぬ想像をしてたら、文献には清い関係とあったとあると念押しされた。

『いやぁ~、あーた、それは無いわぁ~』とゲッスイ声が出そうになったのを飲み込んだ。
目が怖かった。

「ここが重要だと私は思うのですが、その恋人からいい匂いがしたそうなのです。匂いが感じない鼻が、彼女にだけ反応したと」

匂いか…。

いい匂いなら、消毒液の臭いの中に香ってるこの甘ったるい匂いの事だろうか? 無意識に匂いを追ってしまう…。

「この関係を我々は『フォーク』と『ケーキ』と言ってます。訪来者は『フォーク』になり『ケーキ』と接触する事で感覚が戻るらしいのです。何故『ケーキ』かと言うと、『フォーク』の証言です。ケーキのように甘いそうです。話を戻して、戻る感覚はまちまちで、ただ、『唯一のケーキ』と出会えたら、全ての感覚が戻るとか。もしかすると帰れるかも知れませんね」

甘い香りがするから『ケーキ』か。

ニッコリ笑う顔を見てると、唾が溢れてきて、思わずゴクリと飲んだ。

「どうしました?」

心配気に顔を寄せて来た男の襟元がとても気になる。
白い細首、高校生の俺からしたら随分大人の男なのに、何故かとても美味しそうで……。

震える指を意識しながらも、ゆるゆると手が上がって、白衣の襟を掴み、引き寄せていた。

甘い香りでクラクラする。

襟の隙間に鼻を突っ込んだ。
思いっきり吸い込む。
湿った空気は、汗が含まれているのだろうか。甘い香りが鼻腔をくすぐる。

もっと吸いたい。感じたい。味わいたい。

本能の起こす行動だろうか。
べろりと舐めていた。

「先生から甘い匂いがします」
名前も知らない男の首を舐めながら、そんな事を言っていた。

「あぅぅん…」
甘い声が耳を打つ。

『ケーキ』は『フォーク』に触られると発情してしまうそうです。
とても腰にくる声です。




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