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貸してくんない?

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サイラスはあの時、ジュラさんを呼んで姿を消した。噛み癖のある彼氏のところに帰ったのだろうか。

抜け出したいと言ってたような気がから、魔力が戻った今は全力で逃げてるかも知れない。

でも、逃げてない気もする。彼はあんな事を言ったり態度だったが、根が優しいんだと思う。
自分が発現させてしまった『フォーク』を見捨てる事は出来ないかもしれない。
もしかすると、あの治癒魔法で彼を治そうとしてるのか?

もう会う事もないであろう人間の事をとやかく言っても詮無い事だ。

乗り合い馬車でぼんやりしてると思考があちこち散る。
山間へはこの方法が一番いいらしい。

山の麓で降りて、山道を登っていく。
道は整備されているから、迷う事はないだろう。

今回の男は、街に来なかった。
断ってるらしい。
俺としては、したくない人間とはあまりしたくない。しないに越した事はないのだが、ジュラさんが合わせると頑張るから、ついてきている。

住居も押さえられてるのか。

ふっと視界が開けた。
槌の音。
金属が打たれる音だ。
力強い。良いリズム。ここは工房なのか。

「グラハさん、連れて来ましたよ」
ジュラさんがのんびりした様子で戸口に向かって声をかけてる。

槌の音が止まる事はない。
多分これが止んだ時に声を掛けるのがベストなんだと思う。

『ジュラさん、待とう?』

ジュラさんがこちらを見て頷く。

その時はすぐにきた。
ジュっという音。多分終わったような気がする。

「グラハさん、連れて来ましたよ」
ジュラさんも分かったのだろう。再び声を掛ける。

足音が戸口に近づいてくる。
不機嫌な音。
声の主が誰か分かってるのだろうか。乱暴に扉が開いた。

「君か…。俺には必要ない」
ジュラさんを認めると、苦々しく言い放つ。
チラリと俺を見た。

赤みを帯びた茶髪を短い刈り上げてる。
筋肉質で大柄。職人の男。鍛冶屋だと思う。
この男が『ケーキ』。
確かに甘い香りがする。

俺と目を合わせたのに発情しそうにない。
精神力だろうか。凄まじいな…。

俺が一歩踏み出すと、ズサッと後退った。

「それ以上近づくな。俺は抱かれる気はない。帰れッ」
強い口調で拒否られた。

「魔力はどうするんですか? 訪来者の感覚も。鍵はあなたなんですよ」
ジュラさんが食い下がる。

実は俺もういいかなって思い始めていた。
薬が効いて来た。
この薬も副作用があるのもだけど段々効きが悪くなって来てる気がする。

「ジュラさん、もういいじゃん。俺も乗り気じゃないし。あ、体格がどうのという事じゃないよ」

「お前、困ってるんじゃないのか?」
断っときながら、心配そうに訊いてくる。
みんな優し過ぎんだよ。

「困ってますが、ひとつ感覚がなくなっても別に困りませんよ。それに聴覚なんて戻っても使い物になりませんし」

帰ろうとジュラさんの手を取ろうとすると弾かれた。

「二人で話し合ってください」
俺を工房と思しき戸口の押し込んで、扉を閉めてしまった。

「話し合いって……ね?」

グラハさんを見れば、顔が赤い。
水差しに手を伸ばしてる。
凄まじいな。香りが少し強くなってる。

俺は距離をとった。

「どうも彼は、俺が感覚を取り戻す為ならって頑張ってましてね。ーーー相談なんですが」
様子を伺う。

濡れた目をしてるが、意志の光がある。

このところの性交で思った事があった。試してみてもいいだろう。
ちょっと借りるだけだ。

「なんだ?」

もう一杯流し込んで、言葉をついた。

「あんたのちんぽ貸してくんない?」

「はぁあ?」

驚きはごもっともなんだが、適当な表現が見つからないんですよ。

「えーと…」
頭カキカキ言葉を探すが見つからないので、歩み寄った。




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筋肉ワッショイ! 雄っぱい万歳ッ
同志は居られるか?(╹◡╹)
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