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愛してくれますか?
しおりを挟むちょっと痛い表現があります。
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上着に腕を通しながら、扉に手をかける。
ドアノブが回らない。
鍵か?
えーと、ツマミを回せば解除できる? 元の世界だったらあるじゃん。アレだよッと目で探すが見当たらない。
え? ええ?? えーっ?
屈んだり引いて扉を観察するが、鍵に関する部分が見当たらない…。眉間に皺が寄ってる自覚がある。頭にきた。お前だなッ!
振り返ると、白い裸体を隠す事なく王子様が幾つも積んである白い枕に凭れてこちらを見てる。
うすら笑いを浮かべて、出れないじゃん!ってなってる俺を楽しんで見てやがる。腹が立つ。
片膝を立て股を開いて、俺の汁が漏れ垂らす孔を晒すだらしない姿。隠せや…。全然唆らねぇッ。
益々冷えてくる気持ち。
薬が切れる予感。
本当に効きが悪くなって来た。だか、もう必要ないのだから気にする事でもないか…。
「帰りたいんだけど。ーーー開けて?」
どうせ、魔法かなんかだろ? 出来るだけ静かに声を出す。怒鳴りたいよ? 怒鳴ったところでどうしようもないので、耐えますよ。なんでしょうね、この空気感。従える者がいる人間の醸し出す何かですか?
俺には縁がないと思ってたが、案外こんな縁が有るもんですね。
あー、開けてください。お願いします。って限りなく卑屈にお願いすればよかった?
出来ねーよ。する気もない。
サッサと開けろやぁ!
イライラが噴き上がってくる。
???
薬が切れつつある弊害か?
落ち着かないといけないのに、イライラで目の前が霞んでくるようだ。
「帰さないと言ってる。ここでオレといるんだ。もっと魔力をよこせ。今でも父や兄に並ぶ程の魔力を感じる……もっと高まれば、オレだって表に出れる。ーーーーどうした?」
足元にパタリと落ちた。雫。
パタ、パタ、と雫が落ちる。
顎先や鼻先から滴る汗だとは分かってる。前屈みになって腿に手を付いて身体を支えて立ってるのがやっとだ。
ギリリと奥歯を噛み締める。この部屋充満する王子の魔力と甘い香りに吐き気がする。
髪先からも汗が滴る。脱水症で倒れるかもな。
熱い、苦しい。浅く息を吐きながら、姿勢を崩せず固まっているところの近づいてくる甘い香り。
足先が視界に入る。
「なんだコレ? 変な魔法が掛かってる。オレ以外の匂いは嫌だなぁ」
頭に手が添えられた。
俺を守ってくれてた膜が剥がれていく。
片手を上げてその手を掴もうとするが、それは叶わなかった。支えていた手を外した事で姿勢を崩しながら、顔面から倒れ込んだ。
腕には指はかかった気はするが、今はその手も床の上。柔らかい絨毯のお陰で怪我などなさそうだ。
耳の中に音が溢れ出した。
痒みと痛みを感じる感覚が大きくなって、爆発した。
身体の中から外から音が襲ってくる。
最近少しずつ慣れてきていた音が許容範囲を超えた波で押し寄せ、叩きのめされた。ジュラさんが施してくれていた魔法が無くなった。
吐き気がするが、吐く体制も取れない。
ただただ音にに押しつぶされそうになっていた。他の感覚も身体に馴染まなくなって来て、バラバラに俺自身を攻撃してくる。
自分の身体なのに感覚がバラバラだ。全身を掻きむしりたい気分に陥ってるのに、身体が動かない。息だけしてる。
痛みも伴って来た状態に、気を失いたい気分なのに一向に気は失わず、反対に冴えてきさえしていた。
指の一本も動かせないのに。
「なんだ? 訪来者はこの世に幸せをもたらし、唯一には不老不死も夢ではないのだろう?」
しゃがみこんだ王子も声が頭の上でする。何か言われてる気がするが、上手く音が取れない。
「訪来者はオレだけの物にする。オレにだけ幸せを与えよ」
唐突に鼓膜を潰す事を考えたが、怖がりの俺には無理だ。指も動かせないこの状態では実行に移すのは難しい。
音を遮断?
ジュラさんは耳を塞いだというより鼓膜の震えを抑えて、受信器の感度を抑えてくれたのではないだろうか。
音、波、真空…
身体の奥から何かが溢れてきた。
あー、コレには覚えがある。
目が見えない時に使ってた魔法、魔力の流れ。生活魔法の時には感じなかった大きな流れ…。
溢れた魔力が自分を包む。
王子が慌てて距離を取るのを感じた。
風が自分の周りに渦巻き、真空を作っていくのが分かった。
真空になったら死ぬなぁと考えてたら、周りに壁を作って、遮断壁を作ったのみになった。
耳の受信器の構造はよくわからないが、鼓膜を振動させにくくするのはイメージ出来たので、やってみれば、苛んでいた音が軽減出来た。
身体が楽になってきたら、気持ちも落ち着いてきた。
身体を起こし座り込んだ。
周りをぼんやり見回せば、ドーム状の風の壁が自分を包んでいる。
真空の壁が外の世界から隔離してくれたらしい。
ほぉ…と息を吐いた。
さて、これからどうしたものか。
王子は俺に手が出せないようだ。
さっき手を伸ばしたら、血が飛んでた。よく切れるらしい。俺の拒絶が具現化しているだろう。
綺麗に切れたお陰でか、復元は容易だったようだ。手は綺麗にくっついて良かったよとぼんやり見ていた。
俺はジュラさんが言ってた言葉を唐突に理解した。ピンと繋がり理解するあの感じだ。
『唯一のケーキ』はこの不協和音を起こしてる状態を収めてくれるという存在なのだと理解した。
王子は自分が『唯一』だと主張してるが、この状態からもそれは違う。
5人の中にはいなかったという事は、これは本格的に探さないといけないのか?
公国で見つかればいいが、その以外の国にもあるんだよなぁ。広いなぁ。見つかるかなぁ…。
呑気に考えながら、この場所から帰る方法はないかと考えていた。
魔法を操る感覚が掴めてきた。
そうか。五感を戻すという事は、魔力を得るという事なのか。
『ケーキ』も半減したものを戻す事が出来るんだから、『フォーク』だって何か欠けたモノを得ていたんだ。
掌を見つめていると、光が集まるように発光する物体が出来上がっていく。
コレが魔力の塊。
何かを集めるイメージだった。空気中の魔力の元なのかもしれない。
予想ばかり……。早くジュラさんにコレも報告して、答えを教えて欲しい。
俺の先生で、保護者であり、恋人になって欲しい人。
『ジュラ、会いたいよ…』
魔素の塊が青い塊に変化していく。
ジュラさんの色。
ジュラさんの優しく寂しそうな笑顔が思い出される。抑えるような笑顔じゃない本当に解放された笑顔が見たい。見せて欲しい。
紅い小さな花を咥えた小鳥が掌に形取られた。
小首を傾げ、とととと小さな心音と温もりを伝えてくる。
黒い目に意思の光を感じる。
「お前、ジュラさんに俺の想いを伝えてくれるか?」
我ながら臭いセリフ。うん、高校生にもなって厨二病発動である。
『ジュラさんのところに帰る!』
強く思ったら、手の中の小鳥は消えて、窓の外に舞っていた。
「行けッ!」
小さいが力強い羽ばたきで遠ざかっていく。
アレってテレポートってやつじゃない?
と思った。今の俺ではあのサイズが限界という事か…。上手くやれば、、、嗚呼、あの双子、えーとどっちだった、それは置いて、転送? 転移? とかの魔法って言ってた。
そういう事か。
ここから、知ったところ、もしくは知った人のところ?イメージしたらいけるかも?
『ダメ!』
ジュラさんの声が唐突に頭に響く。
『この繋がりは、もうすぐ消えます。転送魔法を使おうとしてますか? 安易に使わないで。無事じゃ済まない。方…』
ん? 切れた?
嗚呼、王子! お前、この魔法も消しちまったのか?!
ギッと棒立ちの王子を睨みつけた。
後退ってる。いい気味だ。
ふぅ、、、
さてこれからどうしたものか……。
王子は身支度し出した。
「どこか行くのか?」
訊いていた。返事など期待してなかったし、この壁が俺の声など遮って届くなど思ってもいなかったから。
ん? 声?
薬が切れてるのに発声出来てる。。。
魔法。俺の魔法は風属性とか言われてたな。
それを使ってレーダーのような事をしてた。
声も音だ。波だな。
触覚も聴覚もあるから舌の動きも感覚も問題なかったのだ。足りなかったのは、空気を震わせ音を作り出す声帯の機能。それが魔法がきっかけだったとは。
「父上と兄上たちに報告に行ってくる。蓬莱者の唯一はオレだと。オレは最高の道具を手に入れた。唯一は引き離せないと言われてるから、オレを無視する事など出来ないようになるさ」
意気揚々と部屋を出て行った。
ジュラさんは何かの方法を教えてくれようとしてくれたんだろうか。糸電話の糸が切れてしまった今は、俺は孤立している。
誰も居ない部屋。
手足は多少の痺れはあるが、動かせるレベルまで回復してるが、歩けるまでには至っていない。苛んだ後遺症。
ドーム状の囲いも小さくなってきている。シンプルに強固なもののようなのに変化しているように思う。魔力の馴染みがいいのだろう。
んー、王子が俺の『唯一』なんだろうか。
この冷めた気持ちでこれから一緒にいないと行けないのか?
訪来者を何か幸せを運んでくる何かみたいに言ってたが、どういう事だろう。。。
壁際にずり寄って、凭れて漠然と先の事を考えてたら、いつしか眠っていたようだ。
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